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五十話「同僚に弱い屈強戦士アレクサンデル」

「き、気安く呼びかけるなっす!」

 戦士はきっとなってエリアーデを突放す。

「自分には……自分にはアレクサンデルって立派な名前があるっす!!」

 アレクサンデルという名前の戦士は肩を震わせながら、怒りを不器用に示す。

 僕は二人の会話をただ意味もわからず、聞流す。


「興奮しないで。魔王と少年が困ってるじゃない」

 エリアーデはすっかり自分の所業を忘れ、逆に責める側。

「あっ! そりゃ失礼っすね……」

 戦士は若干頭をかきながら、姿勢を正し、きりっとした顔つきで名乗る。

「アルカディア王立陸軍の第十五軍団所属の百人隊長、アレクサンデルっす」

 僕は理解が追いつかなかった。どこの国の人だ? 軍隊……?

 僕がオウム返しに名前を言いかけた時――エリアーデは戦士の腕をこづいて、

「……だめねえ、アレク。そんなんで二人が理解できるわけないじゃない」

 エリアーデは相不変むすっとした顔つき、戦士の態度を肯んじない。

「ぬぐぐ……じゃあどうすればいいっす!」

「そもそもこの子は私たちの世界に意図せず触れてしまった存在。何もかも知っているわけじゃない。あと……魔王は……」

 エリアーデの声が次第に低く、口ごもっていく。

「わ、我輩が何じゃ?」

 魔王の困惑。


 そういや彼らにとっては魔王も『同類』だったんだな。ただ、肝心なのは魔王がその自覚を持っているかどうか。

「あなたほどの魔力をもってすればロデリックを撃退することも容易だったはず……なのにそれをしなかったってのは……」

 エリアーデの瞳は、猜疑心に満ちている。

「あなた、もしかして記憶を失っているの?」

 アレクサンデルも唇を結び、魔王の返答を待つ。まるで、怪物と対峙するかのような険しい、緊張した面持で。


 魔王は床に座ったまま不機嫌に答える。

「とりあえず、次の授業が始まるではないか」

 やはり、エリアーデの知る魔王とは違うらしい。

「折角勇者に愛の告白をしようとしたってのに、よくも邪魔してくれおったな……」

 アレクサンデルは汗をかきながら、まるで指摘するみたいに、

「そいつは勇者じゃないっす」

 魔王の瞳が急に震え、焦点が定まらなくなる。

「魔王を甘く観てはいけないわ。これほどの余裕があるってことは――」

「お主らが何のためにやって来たか知らぬが、我輩は勇者にこれから告白するのじゃ。時間も――」

 僕は不得已やむえず魔王に走寄って小突き、黙らせる。

「……だめです、こいつ何も分かってません」


 悔しそうなマギアの頬をつねりながら(意外とやわらかく、温かみ)、僕は説得をあきらめさせようと。

 すると、褐色にも近い戦士の顔に急に青白い影が降りる。

「こいつ!? 魔王相手にそんな口をきくあんた、一体何者っすか!?」

 アレクサンデルの純粋なつっこみに、ますます絶望する僕。

「それはそうとして、何でこんな所に現れるんですか!? ただでさえ他の生徒が観てる間でこんな騒ぎ展開くりひろげて」

「安心して。ここは結界の中……外とは時間の流れが違うわ」

「へ?」 その時初めて、僕はまわりの窓や中庭が青白い光で覆われ、もやが滝みたいに流れていることに気づく。

「だ、出してください!」

 僕の懇願にも、やはりエリアーデは自分の疑問を優先させて。

「魔王は、本当に何も……知らないの?」

 ましてアレクサンデルときたら。

「エリアーデ、用心するっす。この少年は明らかに魔王を従えてる様子っすよ?」

 魔王の頬を堂々とつねる僕におびえている。

「違うわ……彼は魔王の友人。ただ正体を知らないだけで」

「ま、ままま――」 戦士の口を強引にふたぎつつ、エリアーデは僕らを冷やかに見すえた。

「マギア・ユスティシア、あなたは何を考えているの? 勇者様と、一体何を計画したというの……?」

 勇者様……何回か聞いたことのある、謎の人物。

 マギアは、名状しがたいこの状況にただ、ぽかりと口を開けて。

「勇者はここにおるではないのか……?」


「……後日、また連絡するわ。魔王に真実を話す意志がないのなら」

 言終わると同時に、二人の姿が光に包まれ、消える。

 それと同時に、風景が白、茶色、本来の色彩を回復とりもどし、目がくらんだ。


「勇者……今、何があった?」

 全てが日常に復ったその時、気をとり直した魔王が僕をやけに鋭い眼でにらみつけてくる。


「いや、全然わからん」

 すると魔王は僕の頬をつねり返し、なじる。

「うそをつけ……貴様、どう考えても金髪の女と親しく話しておったろう?」

 思わぬ逆襲に、反抗できず頭をゆらされる。

「我輩に何の秘密がある!? 我輩がいると何か迷惑をこうむることでも?」

「いや、あのさ」


 僕が状況説明のために悪戦苦闘するにも不拘、魔王の詰問は不止。

「そもそもあのガチムチは何者じゃ!? 金髪女の同僚なのか!?」

 どう考えても秘密があるのはお前の方じゃねえか。

 僕はほとんど言い返したい気分だったが、逆にここで魔王をいくら詰問めても彼女が何か真実の一端を話してくれるわけないのも分かってて。

 そこに誰かが通りかかり、魔王に目を止める。

 魔王が僕をゆする手を止め、そこに視線。

「君、さっきの……」

 魔王の要求を拒否つっぱねた音楽部の先輩だった。

 魔王は肩をすくめ、

「お主、もしやさっきのを観たのか!?」

「いや、びっくりしたのはこっちだよ。君たち二人の姿がいきなり廊下の上に現れたんだから」

 結界ってのは……本当だったのか。あいつらは……魔法が使える。いや、あの杖をもらった時点で疑うのが野暮だけど。

「た、多分目の錯覚じゃないですか?」

 苦笑しつつ、先輩の疑念を晴らそうと。

「もしかしたら、目の死角に入ってて見えなかったんじゃないかと」

「……そうなんだ」

 先輩は腑に落ちない表情のまま、魔王へと視線をうつし、だんだん尖った眼光浮かべて。


「君は何で、そうやって学校中をかき回すんだ?」

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