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第四十一話「失意の凱旋、帰還は多難」

 僕らはもうへとへとになって帰ってきた。生きて還れた――という感覚が襲いかかって来た時、もう魔王も岩井も歓喜よろこびに息を荒げ、涙をそそぎ、言葉を持たなかった。

 僕も実際、彼らみたいにこの感情に激しく極まりたい所だったのだが、その次に待つ不安のせいで今一素直に喜べなかった。

 吉田はそんな僕らを観て、はあ、とため息。俺の威光おかげ大都みんな助かったんだぜ。ちゃんと感謝しろよな、と言いたいかのよう。

「魔王!!」

 咲が走寄り、抱擁だきつく

「ああ……よかった……私、あなたが勇者と一緒にいなくなったって聴いた時、気が気でなかったの」

 魔王は驚いた顔、まごついていた。二人とも、あまりに感情が空転しすぎて冷静な反応ができない。

「二人を助けになんか行って、そんな大変なことしなくたって、私たちと一緒に居てくれればそれでいいのに……!」

 吉田が間もなく横槍。

「おい、俺の貢献は無視か」

 素の感情があらわれてるだけに、脱然おもいきり手荒い言葉だ。

「どれだけ俺が苦労したか分かってるのか? もし二人が見つからなかったら、俺たちはただ退者のけものになってただけだった所だ……!!」

 吉田にとっては咲の心労などどうでもいいことなのだ。ただ、僕らを探すことだけに心血を注いでいた。三茅も後ろで鮫の眼をぎらつかせ。

「あ……吉田」

 咲は恐怖の籠った顔で視線を向ける。

 最初は吉田の様子へのおののき、そして自分のことしか見えていなかった瞬間への羞恥はじらいから、細くなる眼窩。

「ごめん……私があまりに魔王のことを心配しすぎたせいで……」

 吉田は不服な態度を不変かえない

「いいか、俺が助けたのは魔王と勇者だけじゃねえんだ、ほら」

 後で、岩井と小坂がただただ伏顔うつむいている。


 自分たちの行動に対して何を想っているか僕は知らないが、到底みんなに顔向できないのは理解しているらしい。僕はもうこれ以上彼らを責める気はなかったが、けれど真相を知りたくてたまらなかった。

 誰が一番悪いのか……。

「あんたたち……どういうことなの?」

 咲は、つとめて怒っていないふりをしようとしたが、それでも不機嫌な炎が鼻や口からもれている。

「なぜ、私たちの元からいなくなったの? どれだけ私たちを心配させたかわかる? このためだけにできるはずの事が一杯あったのに……!!」

 咲の魔王に対する心配は、岩井と小坂への怒の裏返。

 ただ吉田の恩の深さから、爆発させることのできない不満を、ここぞとばかり弾くのだ。

「黙ってないで、何か言って。それとも、それくらい言えないことでも?」

 頑固かたくなに口を開こうとしない二人。

「答えなよ。誰かが絡んでる? まさか――」

「咲、よせ!!」

 魔王が横から咲の肩をわしづかみ。

「今はもう何も聴いていとうない。コテージに帰ってぐっすり眠りたい所じゃ」

 咲の瞳孔がすっと狭くなる、

 僕も魔王と同じ気持だ。こんな会話はさっさと終わらせるべきだ。

 であるとしても、はっきりさせなきゃならない。

「魔王……」


 遠くから騒がしい会話。

 段々僕らの方に人が集まってきた。

「おい、マギアか?」「どこ行ってたんだ?」「こんな晩くになって……!」

 ますます厄介な状況だ、と頭をかかえたくなった。

「我輩はそんなことに関わってはおられぬじゃ。もうこれ」

 そのまま群衆の間を脱出すりぬけようとするのだが、僕が許さなかった。

「止まれよ」

 この命令だけは、断言として告げておかなきゃ。

「確かにお前の言う通だよ、マギア。俺たちはさっさと休息を取るべきなんだ。頭の方も限界にきてる」

「勇者よ、貴様は此際このごに及んで我輩の障害じゃまをするのか?」

 三茅も、怪訝な眼光を投擲なげつける一同に激しい剣幕で叫散らす。

「魔王様はお疲れなの! 今みんなの質問に答えられる状態じゃない! 黙ってて!!」

「なあ、このままじゃ疑惑は晴れないんだぞ? それでいいのか?」

 僕はそれでも魔王に肉迫つめよった。このまま、みんなを放之不顧おいてきぼりにするわけにはいかない。誰もが、この件について真実を知りたいのだ。

「勇者も黙ってて。魔王様の気に障るよ」

 三茅は心底不愉快。

 例の二人はそっぽを向き、何を観ているかもしらない。こんな最悪な状況。

 いつだって僕が損な役回をさせられる。困難なことを


「聴いてくれ。僕と魔王は公部川を遡行したんだ。岩井と小坂の二人を探すために……それで……二人を見つけた。僕らは二人に声をかけたんだ。危ないからさっさと出てこいって。けど、岸辺に戻ってみたらカヌーがない……途方に暮れかけた。吉田が救助たすけに来て呉たんだ」

 ついに、岩井が僕の真横にまで歩き、口を開く。

「ああ。そうだよ。俺らは自分の意思で川の奥に分け入ったよ。みんなを困らせようとしてな。全部俺らの責任なんだ」

「……真実まじか」

「何のために? そうして俺たちに何の利益があると思った?」

 吉田は怒りを奥底にひめた言葉で。僕も吉田と似た気持だが、いかんせん爆発させる気にならない。

「……ああ。そうだよ。俺は一同みんなに迷惑をかけただけだ。誰の報酬みかえりもなくな……全部俺が悪いんだ!」

 岩井が腕を揮乱ふりみだして、

「つまり、魔王たちを困らせるために?」

 咲が、拳ふたつを握りしめながら近づいていく。

 黙って空虚うつろな目を保っていた小坂が突然あわてて、岩井の顔をのぞきこむように。

「違うよ、それは。私たちはあの人に命じられて――」

 岩井はしかし、ごく低い声で制止。

「言うんじゃない……」

 僕は何を言うべきか迷った。

 咲は今にも暴れ出しそうな剣幕だし、岩井はやけを起こしているし、魔王はただ他人同士の会話をつったって聞き流している。

 このまま下手に横槍を入れても、状況をますます悪くするだけ……。


「ついに還ってきたのね、あんたたち」

 僕らかこむ人影をかき分けて、誰かが近づいてきた。

「一体、誰がこんなざまにしてしまったか教えてくれない?」

 腰に両手を寄せて、高島朱音が僕をにらみながら歩いてくる。

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