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第四話「魔王、勇者の僕に急接近?」

 戸島としま三茅みかやには事情があるらしい。

 これほど僕らと会話を交わさず、一人で隅にたたずんでいるのは、性格というだけの問題ではなかった。どうやら、日常生活でうまくいかないことがあるみたい。

 ただ、それを浅く知ってるだけで、深く知ろうとはしなかった。……なんで、そんな面倒くさそうなことに首をつっこまなきゃ? 僕自身も、三茅にさして口をきかないし、その必要もなかったのだから。

 朱音が言うには、三茅は『遊んでいる』のだとか。家にも帰らずに夜の街を悪い男たちと歩いているのだと。

 あんな大人しい子に、そんな醜聞があるとは思いたくない。

 けれど僕は、それを単なる他人事ひとごととして受容うけとめた。その言葉を疑いもせず、頭の片隅に置いたままにして、普段どおりの生活をつづけていたのである。

 そりゃ、何も手を出さずに過ごすのも卑怯な選択だろう……批判するならするがいいさ! やけになった気分をかかえて、僕は日常を徒過おくっていた。


 昼休後、魔王はやけに閑寂しずかだった。もう誰にも話しかけようとせず、むしろしいられているように固沈黙だまりこくる。あまりの対照的な様子に、僕は安心するより不安に。

 けど、


 部活も終わりを迎え、そろそろ赤く染まる空、夕日が落ちそうな時分。

 僕は階段を降り、下へ下へと。

「翔吾」

 低いが鋭い声が急に呼ぶ。

「お、朱音」

 緊張をかくせない僕。

 やはり朱音のどこかとげとげしい態度にはいつまで立ってもなれない。いつも何か、不満なことを見つけては、批判する――そういう精神の持主みたいだった。

 僕は面倒くささを覚えつつ、しかし無視するわけにもいかず、会話へと遷る。

「まさかあの子が、昨日現れた子なの?」

 朱音にとっては、魔王の存在などはえみたいにうざったしい存在でしかないだろう。

 実際、僕らは常識にしたがい、まつろう人間でしかなかったのだから。

「う……うん」

「何なの、あの子? まず髪の毛を染めてるし、それに先生に向けてあんな態度!」

 僕も実際、魔王に対して反発を覚えずにはいられなかった。何しろ僕を勝手に勇者呼ばわりして仇敵にしたてているんだから。

「名前だって変なものを勝手に告名ってるし。絶対校長に言いつけてやるんだから!」

 はっきり、朱音は怒り心頭。授業中の憤激いきどおりをぶちまけた感じ。

「何、その顔? まるであいつに共感してるみたいに!」


 ……そんな顔、してたっけ?


「いや、僕だって驚いてるよ。いきなり家に強襲おどりあがられたんだから、迷惑なことこの上ない」

「私だったら絶対に通報して縄にかけてる」

 やけに現実的な展開。

「とにかくね、私たちはあんな奴を自由にのさばらせる訳にはいかない。然後これからは誰もあいつに話しかけられても返事しちゃだめ。自分が異質だって認識させなきゃいけない」

 ……それでいいのか?

 不思議な感覚だ。たった二日だけの交際つきあいではあるが、もう魔王相手には辛酸の限り。

 迷惑だが、それを排除するというのは少し違う気がした。よく、わからない。

「そこまでしなくても……」

 朱音は僕の返事に、しかめ面を強める。

「あのマギアとかいう子がいるだけで私たちの生活はおびやかされるの、わかる?」

 僕は陰口をまくし立てる朱音に、違和感めいた気持ちを禁じ得なかった。

「だってあの三茅に近づいてるんだから」

 朱音に対して、僕は表明だって反発する気にはなれなかった。何為なぜなら、誰かの敵にはなりたくなかったから。

 自分が、誰かの敵になりたくなかったから。

「……三茅が、何をしたってんだ?」

 無意識に、そう口から。

「……あなた、話聴いてた?」

 だから厄介なことには巻きこまれたくはない。

「いいよ。今日きょうはもう」

 僕は、朱音の隣を素通りする。背後の腕をふりはらって。

「あのね、ちょっと聴きなさいよ――」


 僕が何をしたってんだ……。

 いつの間にか、暗い気持ち。

 その理由を知ろうともせずに、校門を出て、そばの道路を踏もうとした瞬間。

「待っておったぞ! 勇者!」

 誰かがいた。

 銀色の髪をなびかせ、胸を張って。

 したり顔広げ、構える魔王。

 僕はため息をつく。

「おい、こんな時間だ。晩いんじゃないか?」

「ケーイチとユカにはあらかじめ伝えておいたからな。我輩は貴様をどこにいてでも追いつめてやる!」

 両親の名前をさりげなく出す。


「倒すべき敵、だからか」

「そうじゃ! 居場所は常に監視しておるからな」

 帰らなきゃ、帰らなきゃ……僕は魔王から目をそむけ、どこに逃道を見つけるか思案。

 そのまま立ち止まってると、理不尽にも腕をつかまれる。

「待てい! 貴様には要件がある」

 急に高い声、意外と強い力でがっしりと。

「離せよ……」

 いらついてきた。

「勇者じゃから言っておるんじゃぞ」

「離せよ!」


 無理にでも引き離そうとするが、次にあの名前が出てきて僕は凍りついた。

「お主、三茅のことは知っておるじゃろう?」

「それがどうしたよ……」

 僕は魔王の会話なんぞで時間をつぶされたくなかった――が。

 その顔を看て、もう動けなくなった。

 魔王は、はっきりと僕を求めていたからだ。

「確かに、我輩は貴様を最終的にはぶっ倒す運命じゃ。じゃがまだその時は来ておらぬ。ゆえ、貴様を頼る時もある」

 いつの間にか真剣なまなざしを落として、まるで痴態としか思えない目つきで、

「な、いいじゃろ? いいじゃろ勇者?」

 体をすり寄ってきた。

 僕は青白い顔、返事もできずに固まってしまう。

「お、おい……」

 だが僕の心筋をさらに寒くするのは、もうここから数歩離れた所に朱音が立っていることだった。

 ずっと僕らのあとをつけていたのだ!

「実に適合おにあいなカップルね」

 不敵な微笑えみを浮かべ、魔王はささやく。

「ククク、我輩と勇者はこう見えて仲がいいのだぞ?」

 朱音は何を考えているかわからない、低い声で告げる。

「何しろ、前世のつきあいじゃからの~、じゃろじゃろ魔王?」

 魔王には、朱音の敵意などまるで伝わっていないかのようだ。こいつが空気を読めない存在であるのは事実なのかもしれない。

「そう。そのままずっと騒ぎ合ってなさい。いつか私が始末してあげるから」

 帰りたいという言葉が頭の中でぐるぐるしている。

 魔王が僕にからみつく間、朱音はくるりとそっぽを向いて去った。

 だがその時をみはからって、

「……細かいことは、後日話す」

 魔王は、やけに真剣な表情。

 僕は、

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