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第三話「魔王、早速トラブルにまきこまる」

「お主の名前は?」

「高島朱音……」

 朱音は心底嫌そうな顔を浮かべて答えたが、マギアは気づいていないらしかった。

「では、お主は?」

「俺は吉田精一」

 先ほどは茫然とした吉田だったが、いざ話してみると早速興味津々みたい。

「お前、もしかして髪の色は本物か? 染めたりしてないよな?」

 吉田の質問に、ややかっとなる魔王。

「おお、我輩の本性を疑うとは! これは本質的うまれつきじゃ!」

 頭から腰に向かって走る銀色の髪をいじりつつ。その光沢をながめると、確かに染めただけとは思えない美しさを帯びている。

「これこそ、我が魔族が古くから継承うけついできた血の証明あかし!」


 魔王はかたっぱしからクラス中の子たちにあいさつを投げかけ、名前をたずねる。

 中にはあまり会話に乗気でない人間もいたが、魔王はその陽気さで強引に最低限の情報を抽出ひきだす。

 これほどなのだから、妄想かどうかともかく、本気なのかも。

「ところでお主、先ほど我輩を強い眼でみつめておったな?」

 そしてあの、三茅の元にいたる。

「……あなたみたいな人って滅多にいないと思ったから」

 三茅は笑顔だった。しかし、力のない笑顔だ。何かに期待するようで……あるいは救いを求めているようでも。

「滅多に、か! 我輩こそこの世で唯一の魔王なのだからな!」

 再び気炎をふきあげる魔王。尋常ではないテンションの高さだ……三茅がどうしてもぬけた感じになるのは理解できなくもない。

「どうだお主、我輩に仕える気が起きたであろう?」

 こんな様子を痛いというのだろうか。僕は元気過ぎるマギアの姿を直視しかねた。


 微妙な沈黙を措いて、小さな声で

「面白い子だね、マギア」

 つぶやく三茅。魔王は聞くなり、鼻で笑って

「くく、それは奇特じゃな。我輩のことを『面白い』って言ってくれるなんて!」

 三茅と魔王は数秒、みつめあった。二人はたがいをどう察たのか?

「よろしい。お主には特別にマギア様と呼ぶ権利をあたえてやろう。ぜひ我輩の片腕となってほしい」

 魔王は手を叩くと、まるで三茅を特別な存在としてみなすかのような発言を。

「ありがとうございます。マギア様!」

 三茅ってこんな子だったのか。まるで自称魔王の変人にほれこむほど妙な人間とは思わなかったのだが。

 いつも本ばっかり読んでしゃべることもないからなあ……。

「まるで『友達百人できるかな』を地で行くみたいだなあ、魔王」

 無謀なことだとばかり、背中からマギアに対して言放つ僕。

「ま、がんばれよ、」

 ぐるっと空気を斬って、僕をその剣のようにとがった双眸でにらみつけてくる。

「心配は無用だ。我輩の努力で貴様を倒すことにあるのだからな、勇者よ!」

 ちょっと負傷く僕。

「そげなっ!?」


 ◇


 いざ、みんなが席につくと、やはりマギアの銀色の頭は一際目立つのだった。

 実際、クラス中に話しかけまくった人間であるだけに、授業においても先生の話にばんばん干渉くちだし

 たとえば、蒸留で二つの液体を分離する過程。

「先生! それは魔法のしわざではないか? 魔法を使って二つの液体を分離するのじゃろう!?」

 すごい勢で教師を困らせるので真剣に勉強してる身としてはたまったもんじゃない。

「おかしいな、我輩の前世では魔法を使って二つの液体」

 思いきりバカキャラさらしてるじゃねえかお前は……。

 漢字の書取でも、魔王は醜態をさらしている。あまり口にはしたくないがやはり痛々しい送仮名つけまくってみんなのひんしゅくを買いまくる。

 常識がねえな……。そこらへん魔王国復活以前に日常送るのが難しいぞ。

 胃にあながあきそう! 何より、こういう数々の過失で冷たい目をくらうなり、不満を爆発させ「これは勇者の魔法に違いない!」と叫びわたるのだから。


 ◇


 ようやく昼休になってくれた。僕は魔王の動向を監視みはるのですっかりへとへとになっていた。

 魔王はやはり多言多談おしゃべりなまま。誰かと目が合うや、容赦なく会話へ移ろうと。

 みんな、首をかしげ、肩をすくめる。

 そして、すくいをもとめるかのように――

「むう、なぜお主ら勇者を見つめるのじゃ?」

 僕は片手で目をおおう。

「あ~、もういい加減にしろよ……」

 これ以上魔王の専横を許すわけにはいかない。理性を失ってキレる寸前。

「おう勇者、貴様らまだ奴らにかけた呪いを――」

 これで僕は女の子を泣かせてしまうかもしれなかった。だがそうはならなかった。

 魔王の言葉が終わる前に、船をよこすかのごとく吉田が質問を投げかけたから。

「おい、魔王、ちょっといいか?」

「お、吉田じゃな?」

 魔王は勇者に対するものとは豹変うってかわって、面白げに笑う。

「いや、お前どこ住まいなのかなって」

 勇者が

「そうじゃな、我輩の城はこの学校を通る道路のそばにある。最近になって住宅地になった所じゃ」

『城』ねえ……。

「じゃあ引越してきたってわけか」

「うむ、雪国からはるか遠征して来たのじゃ!」

 気どることに何の踟蹰ためらいもない魔王。

「じゃあその中のどこかな?」

「横に伸びた道のそばに並ぶ家の、三目じゃ。ぴかぴかじゃぞ」

 魔王の城は意外とこぎれい。

 しかし、吉田の顔は何か得体の知れないものを目撃したみたいに丸く。

「へえ。じゃあいつか遊びに来るわ」

 だが、魔王の関心はすでに別の所に。

「そうじゃ、三茅」

「あ、マギア様?」

 ずっと机に座り続けていた三茅だが、すぐ魔王の声に反応。

 一体、この二人には隠密かくしごとでも? すぐ緊密な紐帯が結ばれる関係とは見えないが……。

「お主と相談はなしがしとうてな。少しよいか」

 僕はその時、高島朱音が黙って二人をにらみつけるのを見た。

 明らかに、不好きにいらない顔だった。実際、教室に何か変化が起きてはたまらない性格なのだ。ましてこんな変人が転校してきたとあっては安穏おだやかにいられるわけが。

「わ、わかりましたあ」

 二人が教室を出た時、安心したみたいに胸をなでおろしていた。だが、


「お前、魔王のことちらちら見てただろ?」

「いや、観てないよ」

 ますます目を細めて、

「うそつけ、絶対観てたぞ。ひょっとしてれちまったんじゃねえか?」

 にたにたした表情、不意おもわずなぐりたく。

「あ、あんな奴に傾れるわけねえだろ!」

「貧乳だからか」

 ああ、どいつもこいつも調子に乗る!

「ふざけんなよ」

「でも、あんなかわいい子に勇者扱いされたら気分高揚するだろ?」

「ないない。もうこの一日で何年も経っちまった気分だからな」

「ははあ……」

 鼻で笑う吉田。理解してくれるとは到底。

 しかし、直後に一気に毛色があらたまる。

「そうそう、これは気になったことなんだが。あの魔王の家ちかくで交通事故が一件起きてる」

 急に物騒な話題、動転した。

「事故……?」

「ああ。どうやら若い女の人がひかれたそうな。けど、どうも変なんだよな」

 瞳が虚空を誘導ひきつけられている。

「……何が?」

「いや、現場に行ったことないから詳しくないけど。まあ、注意きをつけろよ」

 誰が魔王を告名る女の子の家にいくもんか。隣の人には気の毒……。

 それより、魔王は一体三茅と何を談してるんだろう……?


 扉をあけて、魔王が戻ってきた。青色の目はひどくとがり、深刻な表情を刻む。ただの、ふざけてる奴ではない。

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