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二十三話「自称女の子の魔王、大胆な推測」

「女って……?」

「ほら! 学校で僕らの前に現れたあいつだよ!!」

 すっとぼける咲と魔王に僕は叫ぶ。

「金髪で、青い眼の肩幅でかい人だ」

「ああ……いたのう」

 魔王は、僕が驚くくらい淡泊でよそよそしい声。

「お前のことを本気で魔王だと信じてるみたいだったよ。面識ないのか?」

 今まで魔王の奔放さに振り回されて気づかなかったが、こいつも謎に満ちた人間だ。

 一体いつから魔王になったのか。そもそも魔王になった理由は? この外見かっこうになった原因は?

 何となく、調べてはいけない気がした。


 だが魔王は、困り顔、肩をすくめて、

「……さすがに我輩もあんな女は引いちゃう」

 確かに、たまりかねた表情だ。恐怖を感じたのは間違いない。

 僕は言うべき言葉を模索しつつ、

「殺されそうになったから、か」

 するといきなり顔を赤らめ、今にも泣きそうに、

「我輩に手向かいしたからじゃ。我輩が女の子なのに暴力揮おうとしたんだもん!」

「ま、魔王!」

 ぬいぐるみみたいに、咲の体ににじりよる。かわいい。

 ……ひょっとして、これも僕をだますための手段に不過のか。

 咲は魔王に迷惑がりつつ、ほころんだ顔で、

「金髪碧眼ってわけ?」

「ああ。僕より身長高かったし、威圧感すごかった」

 トイレの中でもあいつに遭ったなんて言えない。

「魔王が、そんな奴に襲われたって?」 咲の顔は怒りにも近い。

 しかし三茅なら、もっと激烈な怒り方だったろう。あくまでも、友達として。

「なんだか、なめられてる気がして嫌なんだけど?」

「でも、多分あんなモデルみたいな外見した人なら、秘密があってもおかしくないかな」

 僕は半分、咲をなだめるようにして答える。

「だって魔王みたいに不思議な姿してたもん」

「何? 魔王と対抗はりあう服だったってわけ?」

 魔王は、まるで自分がからかわれているように不機嫌な表情だ。

「とりあえず、魔王みたいなロリータっぽい衣装じゃなかったことは確実たしか


 魔王にとっても、彼女は、理解できない存在であろうことは疑問の余地もない。

 僕の言葉を聞いていて、どうしても僕に一家言置かずにはいられなくなったらしい。

「お主はあの女をどう思うのじゃ」

「お前同様に頭がいってる方だ」

 即答する僕。

「なぬっ!?」

「だってそうじゃん? 初めて会った奴を魔王だと信じ込んだんだよ、人違いっつーにも程度ほどがある!」

 ……そうじゃないのだろうけど。」

「わ、我輩は誰が何と言おうが魔王なのじゃ」

「その魔王って何なんだよ。お前はどう見ても魔王がさらうお姫様だろうが」

 いつの間にか、エリアーデの話題からそれる。

「あやつが不埒な輩であるとしても、我輩までもが同じ存在に観られる道理すじあいはない!」

 目をつりあげ、二つの拳を前で振りきる。

「おちついてよ魔王。翔吾だって事態が飲みこめてないんだから」

「勇者め、わけもわからず我輩をお姫様呼ばわりとは! いいか、我輩はもっと威厳があって、強くて、たくましくて――」

「強いなら米倉相手に自分の友達を操られなかったはずだが」


 図星だったらしい。

 魔王の澄んだ眼から汁がぽたぽたと垂れ始め、頬がだんだん色を帯びる。

 咲がぬぐう。

「ほら……女の子を泣かせちゃだめでしょ? 翔吾君……」

「むう……」 いや、それはますます追撃してるぞ?

 大体さっき言った「自分は女の子だ!」というのを認めさせちゃってるんだし。


 だがこんな涙ぐましい茶番にひたる余裕は今の僕にはない。

「とりあえず、米倉のことだよ。何であいつが魔王の名前を知っていたか」

「うむ! ちょうどそのことで我輩には貴様らに言いたかったことがある!」

 マギアが勢いよく気炎を吐いたものだから、僕も咲もぐっと顔を近づける。

 一体、マギアは何を知ったのだろうか。かたずを飲んで答えを待つ。


「我輩は確信したのじゃ! あやつは――我輩の献立表をねらっていたのじゃ!!」

 どん、と地面をころげる音。


「はあっ!?」

 僕はアスファルトの上に尻もちをついた。この局面でそんなボケをかまされるなんて。

 マギアはそんな二人をしりめに、この長広舌をまくしたてる。

「間違いない! そのために我輩をずっと前から小手調べしておったのじゃ! そして三茅を人質に我輩をおびきよせたのじゃ!」

 マギアが冗談を言っているようには見えなかったので、猶更引く。

 頭をかきながら、なんとか魔王を説得しようとして、

「吉田だったら多分全然違う答えを出すと思うな」

「ほう、どんな答えをじゃ?」

 マギアはいささかも自分を疑う色はなく。

「そりゃあ、吉田自身に訊いてみなきゃ……」

「では、それ以外の答えがないという意味ではないか」

「我輩のことは、我輩が一番知っておるのじゃ。我輩がなぜ魔王になったか、なぜ魔王として生きるのかも全てこの頭の中にある!」

 そう言って自分の頭を人差し指でこつんと。

「はいっ! 閉廷っ!!」 両手を挙げ、この件を強制的に終了するのだった。


 僕と咲が腑に落ちないのも考慮に入れない魔王。

「今は何より、恵が一番大事なのじゃ」

 魔王がこれほど頑固に話を進めるのも珍しい。まるで誰かに触れてほしくない何かがあるみたいだ。

「あいつをどうするつもりだよ?」

「我輩は恵の役に立ってあげたい。あいつが悩みを持ってやるなら我輩は解決してやりたい……。それが米倉の秘密を追求することより大事なことじゃからな」

 僕は米倉についてもう一度訊返すのをためらった。

「ねえ魔王、私、変な予感がする」

 咲は浮かない顔をしている。むろん、魔王の語気の激しさに違和感をいだいたのかもしれないが。

「あの子、魔王としゃべってていきなり性格が変わったように見えるんだけど?」

 マギアは両手を腰に、口をへの字に曲げて。

「奴がそんな裏のある性格なのか」

「別にあの子を疑ってるわけじゃない。でも、魔王の行動をおせっかいみたいに思ってるんじゃないのかって」


 魔王はやはり、恵に特別にこだわっているようだった。

「……あやつは我輩をずっと前から慕っておったのじゃろう? なら我輩からも特別な恩恵をほどこそうではないか!」

 そして、若干不審な目つきを消さない僕を指さし、

「貴様にもてつだってもらうぞ、勇者よ」


 無茶苦茶にはぐらかされたな。僕は不満しかない心を抱きながら帰路についた。

 空には雲が増えてきていた。それも灰色の影をはやしてやがって。

 いよいよ家に近づく。いつもより小さなものに感じられる。

 しかし庭にまで入りそうになったところでエリアーデが僕の襟首をつかみ、にらみつけていたのだ。

「よくも私を『頭がおかしい』なんて抜かしてくれたね?」

 僕は恐怖に襲われ、言葉を失った。

「普通ならここでのどを握りしめてもおかしくないところだ……」

 亜麻色の光沢感ある毛が、僕のうなじに触れ、さらに高まる緊張。

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