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第十六話「魔王以外の異世界人?」

 魔王は、人気者なのだろうか。あるいは、勝手に他の奴らが賞揚もちあげているだけなのか。

 光る銀髪、海よりも青い瞳、本当に異世界からやって来たんじゃないかと錯覚するほどの美貌。

 実際、見とれてしまう。この姿が衰えるのではないかのではないかと疑うと、もう臥ても起っても。


 そう、僕は『勇者』中村翔吾。前世で魔王と闘ったことがある――という根も葉もない流言蜚語がまかりとおってる普通の高校生だ。

 魔王のおかげで本当に『勇者』と呼ばれるようになってしまった。勇者としての過去を質問されることもあるけど、残念ながら僕は魔王ほど妄想を談るのが巧くない。


「魔王、もう一回聞きたいんだけど……」

 この頃、魔王は他の生徒から話しかけられることが増えたかも。

「おう、どうした」

「その髪って染めてないよね?」

 校則ではそういうのは不可だめだったような気がする。けど魔王は何でもかんでも持前の覇気で強引になんとかするのだった。

「何を! これぞ我輩が魔王であることの証左ではないか!」

 魔王は若干高ぶった口調ではねかえす。

「もしお主が疑うなら我輩の髪の一部、ゆずってやってもよいが」

 言いながらはさみを筆箱――アニメ物の絵柄――から取出した……。

「え、いや別にいいけど」

 どう見ても本気そうだったからその子はく。

 だが男子たちが本当に所望してるみたいな視線でいるもんだからまるで困ってしまう。

 僕はあいつらとは違う、と半ギレの表情で顔をそむけた。

「勇者。お前欲しくないのか?」

 すると、日和見ひよりみな性格の吉田精一が肩を打ちながら。

「ああ?」

「髪の毛を袋に入れて御護おまもりにするんだよ」

 なるほど博識な彼らしい提案ではあるけど、

「そんな趣味はない……」 形の上では否定。

 けど、何だか欲しくないとも断言いいきれないのが事実。


「魔王魔王、聴いてよ」

 俊足の葛城咲がマギアに近づいて、しゃべりたがっていることがある様子。

「うん、どうした?」

 少したまげた表情でいる。きっと一言では語れなさそう。

「実は、数日前のことなんだけど、実は帰宅途中である人にいきなり話しかけられてさ……」

 咲は話す姿勢になると、みんな静まった。どうやら咲は三茅にならんで魔王の片腕という地位を確立しているらしく、彼女が魔王の名を持出すと、たいていの人はしゃきっとする。

 実際には、魔王を本気で慕ってる感じだから

「うむ、それで」

 はさみをしまって咲の報告に移る魔王。

「とても魔王みたいに白っぽい髪で、瞳の色は黄色かった」

 聴く魔王の顔は一瞬不安げに見えた。すでに知っていることを想起すかのように。


 けど、すかさず質問を続ける。

「で、何を話しよったのじゃ」

「『マギア・ユスティシアがいるのはここか?』って襟首つかまれたの。ちょっとおびえた後に『そうです』って答えるのが精一杯だった」

 魔王は血の昇った顔で腕を振乱しつつ、

「何たる不届者! 成敗してくれる――」

「で、でも、結構綺麗な女の人でさ。危なそうな人って感じじゃなかった。手荒く尋ねてしまったことですぐに謝ってくれたし」

 咲の性格からして虚言うそはつけないだろう。しかし、信じられない気がする。

 マギアの他にも、似た感じの外見の人間がいるなんて。

「で、何じゃ。そやつ、名前を何かなのりおったか」

「いや、ごめん。混乱してたから訊返せなくて……気づいたら前から消えてた」

 マギアは考えこむように腕を組み、うつむく。決して女の存在をなぞのままにはしておきたくない顔だった。

「とっつかまえて尋問してやる。住所が知りたいところだが……」

 ずっとこの会話をにらみつつ聴いていた朱音が、わざと二人に聞こえるような声でつぶやいた。

「マギア以外にもそういう容姿かっこうをしたがる奴がいるのね」

 朱音のそばで、魔王をかばうかのように続ける吉田。なぜか、こいつは朱音と近い所にいることが多いのだ。

「今は漫画とアニメが隆盛だからしかたない……」


 ここぞとばかり、僕は吉田の顔を堂々と横からながめた。

 吉田が僕にきづいて頭を傾けた時、

「何だよ吉田、忘れてんのか」

 僕はずっと小さな声で呼びかける。

「ああ?」


 米倉清助がはっきり魔王をマギア・ユスティシアと呼んだこと。

 単なる自称であるはずのあの名前で、米倉は魔王を呼んだ。


「例のあの時のことだ」

 あの時は吉田はかなり興奮気味だったし、憶えていないとしても間違いない。けれど、僕には重大な意味が隠れているような気がしてならないのだ。

「あの時って? おい、何だよ?」

 吉田が本格的に問う直前に、


「あんたはまだ勇者っていう地位に甘んじてるのね、中村翔吾」

 朱音は以前ほど正面から僕らにあたることはなくなったが、それでも魔王の力に屈しようとはしない。

「いい加減現実を見たら? こんな面倒なことに関わるよりは――」

「なあ、お主ら、今我輩はなぞの女に会いに行くつもりでいるのじゃ」

 魔王はそういう下らない場外の論争には完全に無関心。

「お主らも従ってもらうぞ。我輩だけでは心細いからのう」

 しかし、マギアは本気の顔だった。学校以外の人間に認知してもらえた事実に、嬉しがると同時に緊張する顔。


「では朱音、お主に頼む!」

「は!? なんで私が命令されなきゃ――」

「お主は奴とおぼしき者がいたら我輩に知らせよ。吉田はそやつを我輩の前にしょっぴいてこい」

 吉田は電光石火、朱音の襟首をつかみ、

「多分悪い話じゃないぜ。魔王の命令なんだからな」

 吉田は朱音とよくつきっきりだなあ、と思う。

 間違っても恋人ではないが、それでもどうしてもたよってしまうのかもしれない。

 自分の立場を落としたくないから、くっついているだけなのだ。我を通すこともできずに。無論、僕が言えるはずはないけど。

「だって魔王もお前のことに興味あるみたいだしな」

 瞳のむこうに殺意を秘めつつ、歯を見せる。

「……あんた、私がこいつをどんな風に思ってるか知ってる?」

「いや、げに貴様らは比翼連理の鳥同士じゃな!」

 魔王はすっと頭を挙げ、からかうように告げる。

「はあ!?」 心底、絶望する高島朱音。

「我輩はお主みたいに好きってことなんじゃよ」

 それからすかさず朱音の肩をにぎりしめ、

「とにかく、お主はこの話の真相を探求つきとめようとするに違いないからの。性格から分かるぞ」

 ふふっ、と鼻で笑ってから、自分の

「ちょ……、待ちなさい、マギア……」


 一見すればどこか喜劇みたいな内容でいて――我慢ならないな。

 結局、マギアをめぐるなぞは解けないままじゃないか。

 僕は誰も気づかれないように、静かに廊下へと出た。さして目的があったわけじゃない。けど、もう出てしまったからには、トイレにでも行こうかなと。

 しかし、トイレにまで到着くのはかなわなかった。


「マギア・ユスティシアは、ここにいるの?」

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