タマ
次の日、朝……
「いってらっしゃい。琴音によろしくな」
勇気は妖館の玄関に立って、外の光に向かっていく三人に手を振っていた。外の三人、つまり涼、鼬、マーレの三人であるが、彼らも勇気に手を振って学校への道に向かう。その顔には、笑顔があった。
と、勇気は妖館から三人が見えなくなると、フッと息を吐いてから玄関の扉を閉めた。そうしていると、彼の後ろに声がかかる。
「勇気……ふわぁ……おはよぅ」
「ああ、ララ。……もう八時だぞ?」
勇気の背に声をかけたのは、ララであった。彼女はエントランスの階段をゆっくりと一段一段下りながら、欠伸をして勇気の背に近付く。眠そうだ。ぽわぽわと、白く緩い寝間着姿の彼女は見ているだけでこちらまで気が抜けてしまいそうな見た目だった。
そんなララを、やれやれと勇気は見つめる。
「中学生は基本、七時かその前に起きて、八時くらいにでて学校に向かうものだ。ララ、俺達には学校がないとはいえそのくらいの年で……」
「いいよぉ~。そういうお説教。君も、早起きするのは無駄だと思って……」
「思ってない! ……お前もちゃんと起きるんだ」
「むぅ~」
眠そうにするララに、勇気は軽くしかりつける。彼女は眠そうな目をこすりながらも、勇気の言葉に首を振る。早起きには意味がない、と。だが、勇気はこれに反発する。
結論から言えば、こんな他愛のない話を朝に出来る程度には、勇気達の間は深まっていたということだ。決して、寝起きのララがムニャムニャと言いながら、目を猫のように掻くのが可愛いというだけではない。
「まあいい。朝食、用意してあるぞ」
「わ~。勇気のごはん、おいしいから好き」
「はぁ……まあいい。じゃ、食堂に行こう」
勇気が朝食を用意しているというのを聞き、ララは眠気を吹き飛ばして笑顔になる。それを見て、勇気は呆れたように息を吐いた。そうして、甘やかしすぎるのもよくないか、と言いながら二人で食堂に向かうのだった。
「って、あの人は……」
勇気とララが食堂に入ると、中のテーブルに一人、金髪の女性が座っていた。それを見て、思わず勇気は声を上げる。
昨日のカードゲームの途中、泥酔した状態で登場した女性だ。昨日には彼女のことを、勇気はそれ以来見ていなかったのだ。だから彼が感じたのは、そういえばこんな人もいたな、という具合である。
反して、ララは顔をパッと輝かせた。
「あっ、タマさんだ。タマさ~ん!!」
と言って、食堂の入り口からタマと呼ばれた金髪の女性が座っているのへ、走って向かっていくのだった。女性はララの声に気付くと、こちらに顔を向けて、少しだけ笑みを浮かべる。
「ああ、ララ。昨日はすまなかったな。少し、悪酔いしていたらしい」
「いや、いいよ。だって、酔ってる時のタマさんには近付かなかったし、怪我もしてないから」
(怪我?)
勇気は二人の一つ離れた後ろで会話を聞いていて、首を傾げる。怪我、とは?
「ああ、そうかよかった。近付いていたら、怪我をさせていたかもしれないからな」
(…………だから怪我って)
「うん! 前に痛い目見たからね、他の人が」
(……そうか。酔うと暴れるタイプなのか……)
勇気は話を聞いているだけで、女性、タマがどんな酔い方をするのかを把握する。……と、まあそんなことはどうでもいいのだが。彼は少し、旧知の仲であろう二人が喋っている間に、入って行きづらいなと思っていたのだ。二人共、嘘偽りのない笑みを顔に灯しながら話している。それを目の端にすると、どうしても……
「ん、お前は……」
そのように勇気が二の足を踏んでいると、タマの方が彼に気付いて声を上げる。そうして一旦ララのことを脇に置き、椅子を立つ。そして、ゆっくりと勇気の方へ歩み寄る。
「お前は、勇気か?」
「え、あ、はい。そう……です」
タマを目の前にすると、勇気は何故か、緊張感を感じてしまう。これは、年長者達と初めて相対した時も感じていたものだ。だが、その中でも一番強いだろうか。タマを目の前にした勇気が、少しだけ後退ってしまうほどだった。だが……
「ふむ、勇気……」
「え、あ、あの……?」
ふいに、タマは勇気の顎を掴んだ。そうして、品定めでもするかのように顎を動かし、自分の目線も動かして、勇気の顔面を見続ける。それを受けて、どうしても勇気は冷や汗をかいてしまう。
その中で、彼はララの存在を思い出す。そうして、彼女がいる方へと目だけを向けた。すると、ララが首を傾げ、肩をすくめているのが目に入った。どうやら、意味が分からないと示したいらしい。それを見て、勇気は思わず肩を落とした。
(心を読んで、何かしらの対策が掴めたらよかったのだが……)
「動くな」
「あ、はい……」
勇気が少しだけ肩を落とし、動くと、タマは顎にしっかりと力を入れて彼を固定する。それを受けて、勇気は思わず身を固めてしまうのだった。
そうしてしばらく、勇気は顔面をタマに見られ続ける。ララはそれを、後ろから呆けた顔で見つめていた。そんな中で……
「聞いていた通り……」
タマが口を開いた。そうして、彼女は……
「中々のイケメンだな」
と、言うのだった。




