遊びぼう! 2
「ぐあああぁぁぁぁぁーーーーーーッッ!!」
「ククッ、残念だったわね、涼。カラオケの時は世話になったから、その仕返しよ」
トランプ、ババ抜き一回戦目の結果。最終的にマーレと涼が残り、十二回もババの取り合いを続けた末にマーレが勝利する。つまり、マーレが涼の秘密を暴露するということ。
外野は、彼女達の必死過ぎる戦いぶりにドン引きしていた。特に太三郎、照、ララは。それで、どうして勇気と鼬はあんまり引いていなかったかというと……二人には、別の感情があったからだ。
まず鼬だが、彼は少しだけ残念そうな表情をしていた。具体的に、言葉にして示せばこんな風に思っていたのだ。
(チッ、涼め……もう少し頑張れば、マーレの秘密が……いや、マーレが勝ったことが不遜って訳じゃねえけど)
至って普通の男子の発想である。
転じて勇気、彼は少しだけ嬉しそうな表情……というより、ほのかに赤くなった顔をしていた。彼はあることを想像して、恥ずかしい気分になっていたのだ。具体的に、彼はこういう事を思っていた。
(……涼の秘密、何だろう……ゴクリ)
至って普通の男子の発想である。つまり、勇気も鼬も、二人そろって男子的な思考を頭の中に繰り広げていたということ。
「はーい、涼の秘密言いまーす」
と、一般男子の思考などには関係なく、状況は進んでいく。勝ちの余韻から覚めたマーレが、罰ゲームを執行すると宣言したのである。その言葉が食堂に響くと、見る見る間に緊張が広がる。
こういう時、当事者でなくとも緊張が走るものだ。まあ涼だけは、崩れ落ちながらもマーレの顔を下から睨んではいたが。
そうして、期待や緊張を深める沈黙が少し過ぎた後で、マーレは口を開いた。
「涼は十五になってもまだ、犬のイラストがプリントされた子供パンツを履いて……」
瞬間
「ブッコろおぉぉッッすマーレえええぇぇぇぇぇーーーッッ!!!」
倒れていた涼が、獣のように体を屈伸させ、その体を頭からマーレの胴へと発射させた。しかしそれを、マーレは読めていたと言わんばかりな様子でひらりと躱すのであった。そうして、攻撃の余韻で床に倒れこむ涼を、ドヤ顔で見下ろす。
「敗者がわめくのは耳障りねぇ?」
「ぐううぅぅぅぅぅ…………うぐっ、ううぅぅぐぐぐ」
涼はマーレのドヤ顔を受けて、歯を食いしばってその場に転げまわる。歯ぎしりは、何メートルか離れていても聞こえそうな勢いであった。そんなまずい状況の中で、一人勇気は赤い顔をしていたのであった。
(へぇ……奥に置いてあったのか。前に見た時は……)
と、健全な男子の思考はどうでもよかった。彼女達二人のやり取りを見て、まずいと思ったのだろう。照が、手をパンと叩いて言う。
「よ、よーしじゃあ! 次は七並べをしよう! 罰ゲームは、一番に上がった人が、最下位に。パスは三回まで!」
照は無理矢理に状況を進めることによって、涼の激情を抑えようとしたのであった。そして、二回戦目は七並べに決まった。
「ああ、勝っちゃったね」
「…………わ、私」
二回戦目、七並べの結果。勝者は照、敗者はララ。
「13と1が何で半分以上……うぅ、ちゃんと切ったの照さん?」
「ま、まあまあ。そういうこともあるさ。んでまあ、ルールだから言うけど、ララちゃんの秘密、かぁ……」
照は一考した末、口を開く。
「最初に会った数年、僕のことをパパって呼んで、タマのことをママって呼んで……」
「うああああァァァァァァーーーーーッッ!!!」
照がさりげなく言った一言は、ララの心臓を貫いた。その場でテーブルに崩れ落ちたのだ。
そんな彼女を見て、外野、子供達四人は……
(……かわいい)
と、顔を少しだけ赤くしながら、そんなことを思っていた。
そうそう、四人だと一人抜けるだろう? それは太三郎なんだが、彼は一人だけ、その場で漆黒のような面をして、照に見開いた眼を向けていたのだった。そうして、彼の言うことに……
「何故お主とタマが夫婦的なことになっておるんじゃ?」
と。その声を耳の端にでも止めたのか、照は太三郎の思っていることを一瞬で察する。そうした瞬間、次へ次へとゲームを進めようと進行を始めるのだった。
「はい次ッ!! 次はポーカー! 一人づつ親を回して一周するまで。役を数値化して、最後にまで取った数が一番多い人が、一番低い人をって感じにしよう!」
「ぐっ……俺か」
「まあ、残念だったな鼬」
三回戦、ポーカーの結果。勝者は勇気、敗者は鼬。
その結果を知ると、鼬はテーブルに突っ伏し、勇気は気まずい、というような表情をした。
だが、その状況は一変する。鼬が、さっきまで意気消沈していたのに、一瞬で気を取り直したのである。顔に引きつった笑みを浮かべて立ち上がり、勇気のことを見おろしたのだ。そうして口を開く。
「く、くく。だ、だけどよ。何年も一緒ならいざ知らず、まだ勇気は俺のビッグな秘密を知らないんじゃないか?」
実際、その通りであった。だがしかし、それは勇気と鼬が何年も一緒にいないという所に限る。
(……鼬。そんなに意識しちゃ、心の声が丸聞こえだぜ)
「鼬はベッドの下にエロ本を隠して……」
勇気は平然と、鼬の心を理解し、その秘密を暴いた。その瞬間、鼬は弾かれるようにして勇気の襟首をぐっとつかむ。
「勇気…………お、お前ぇ……!!」
だが、それを受けても勇気の口にはニヤつきがあった。それを、言葉にして鼬に囁く。
(まあまあ。エロ本の内容が、マーレ似の女とお前似の男との純愛モノだったっていうのは、黙っておいてやるからよ)
「くっ、くぅ……お前、お前ぇぇぇ……」
鼬は冷酷な顔をする勇気の襟首をつかみながら、床に崩れ落ちる。そんな彼の背に、心ない言葉を投げかける者、二人。
「エロ本……不潔ね鼬」
「後で見せてよ。笑ってあげるから」
涼、マーレの順である。マーレに至っては相当に問題なことを言っているが、気にしないでいただこう。
と、女が一人、漏れているな。ララだ。何故、彼女だけ鼬に辛らつな言葉を吐かなかったかというと……彼女も、心が理解できるからだ。つまり、鼬が持っているエロ本の内容でさえ、頭に入ってきてしまったのだ。それはそれは、顔は真っ赤っ赤である。
(うわぁ……駄目だよ鼬。そんな本、読んじゃ……)
卒倒寸前なララのことは置いておこう。太三郎とララだ。彼ら二人は、揃って鼬が崩れ落ちるその背に向かい、彼を励ました。
「鼬、そういう年頃は来るもんじゃ。儂らの頃は……何と言ったかの、照」
「い、いや。そんなんは覚えてないけどさ。けど、昔から日本はエロかったよ。世界の人々もさ」
「そうじゃ鼬。確か、妻が寝取られておるのを見て、それで興奮する、などという小説を書いた者もおったな」
「そーそ。男は皆ずっと、女の子の全裸見たい、なんてことを考えているもので……」
と、鼬を励ますために、太三郎と照が人はエッチなことを考えるものだと力説していた時だ。
「二人共!!」
「え?」
「何じゃ?」
声を上げたのは、女子三人である。彼女らは真っ赤な顔をして、太三郎と照のことを睨んでいた。まあ、当然であろう。デリカシーのない行動だ。女子の前で、ずっとエッチな話を続けるなどと。それを雰囲気で感じ取った年長者二人は、情けなく、女子三人の前で頭を下げる。
「す、すまぬ」
「ご、ごめんね。その、エッチな……」
「照さん!!」
「……ごめん」
三人の怒声を受けて、しゅんとした照はまた、三人に頭を下げるのだった。とても年長者が取る行動とは思えない。だが、まあ二人共、少し子供のような所もあるということだ。
太三郎と照は頭を下げ、鼬は崩れ落ちて……。脇でそんな男三人を見て、勇気は一人、椅子に座ったままフッと笑うのだった。
(フッ、男で火傷をしていないのは俺だけ、か)




