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太三郎

太三郎は私がこの話の中で一番かっこいいと、読者の皆様に思わせたいキャラであります。まあそう思ってくれるかは分かりませんが……思われるように頑張ります!


それと、一つ書いておかなくてはなりません。今回の話、煙草と煙管が出てきます。


そこに問題がありまして、実は、煙管の中に入ってる草は煙草と呼ばれているんですね。これをそのまま、煙草と呼んでしまうと混同してしまう。


ということで、私の話の中では煙草、と言ったら市販されているような棒状のモノを指すことにします。お手数ですが、把握をお願いします。そこまで混同するようなシーンはありませんが、一応


こういうのをなしのまま、ありのままで表現できるようになりたい……

 妖館に入ってすぐ、勇気は太三郎という男と出会った。そして幾ばくかの会話を終えた後、太三郎は勇気の体に刻まれた傷を治療してやると言い、煙管を口に咥えたのだった。






「いくぞ」


 太三郎は懐から取り出した煙管を口に軽く咥えながら……


「え?」


「む、なんじゃ?」


「な、何で煙管出したのに煙草(たばこ)持ってるんだ?」


 勇気は思わず疑問を口にする。太三郎が、異常な行動をとり始めたからだ。彼は煙管を口に咥えているというのに、空いた右手と左手で煙草とライターを取り出したのだ。煙草と言っても煙管に入れるものでなく、棒状の方。


「煙管に火をけるのがちっとばかしめんどいんじゃよ。煙草じゃと、静かな火じゃから直接行ってもまあ問題はないし……」


「はあ……」


 傍から見ると、太三郎は大分奇妙な格好をしている。言った通り、口に煙管を加えているのにも関わらず両手に煙草の一式を持っている。それをザ.日本人という着物を着た男がやっているのだから、ギャグっぽく見えなくもない。

 それに、どうやら太三郎は煙草に火を点けるのに困難しているらしい。手でライターを覆いながら、カチカチと音を立てている。ただ、何回も響くその金属音は、段々と聞く者にむなしい気持ちを植え付け始めた。


「あ……なんじゃこれ。オイル切れ? ……むぅ……」


「貸してよ太三郎さん!」


「ああ、う、うん。すまぬ、涼……」


 耐えきれなくなったのか、涼が太三郎からライターと煙草を奪い取り、火を点ける。

 そして、それは呆気ないほどうまくいった。一瞬だった。


 それを終えた後、火の点いた煙草を涼は少しイライラした様子で太三郎の方へと差し出す。彼は、少ししょんぼりとした様子でそれを受け取って、煙管へ火を移す。駄目な大人感満々である。


「……もう、なんじゃこれ。何で儂の時は点かずに……まあ良い」


 フッと音を立てて、煙草から煙管へ火が移る。それを見止めた太三郎は、やっとかという様子でライターを懐へしまい、火の点いた煙管も煙草も、一口に咥える。そうして、話の蚊帳かやの外であった勇気に向かう。


「さて、始めるぞ」


「あ、ああ」


 勇気は何を言うでもなく頷いて、太三郎に向かい合う。


 彼は、太三郎は、煙管と煙草を咥えていた。その姿はさっきまでの涼に頼り、情けない大人の姿という訳でなく、全然、静かな人間という様子だ。その目はゆっくりと勇気の傷を見た。そして煙草と煙管越しに息を吸い……


「フゥー……」


 吐いた。その煙は、勇気を覆い隠すほどの量。一口から出るような量ではなかった。それが目前へ急に現れた勇気は、驚き、一瞬口と鼻を覆う。


(うわ……急になんだ。煙を吹きかけて……ん)


 だが、違和感がある。普通、煙草の煙を吹きかけられれば嫌に思うだろう。だが、太三郎の吐いた煙にはそんなことがなかった。寧ろ、それは心地よいと感じるようなモノ。


(なんだ……これは。気持ちが……いい)


 体全身が、恍惚を感じるような煙。鼻の中で、真夏の葉が青く咲くような、冬の雪が解けるような、秋の葉が赤く乱れるような、春の桜が舞い散るような、そんな匂い。一瞬包まれただけで、みつきになる……いや、ならない。スッキリと、頭から退いていく。


「終わったぞ」


「…………ああ」


 勇気は恍惚に頭をやられ、半ば気絶のような状態になっていた。だが、それは太三郎の一声によって覚まされる。夢のようなひと時は終わった。


 その後で、勇気はゆっくり体を己が目で見て気付く。体にできていた傷が、全て治っているのだ。加えて、何故か服の汚れや裂け目でさえ全て直っている。

 さっきまで肩を背負ってくれていた涼は、いつの間にか離れていた。彼女の服も、血に染まることなく最初に見た清潔な状態へと戻っている。


「……これは」


「分かっておるか。全て、もう終わっておる。手も、肩もの」


「……すごいな。傷が治っているのもそうだが……ともかく、礼を。ありがとう。……んで、さっきの煙」


「ふっ、スーパーとかで売ってるモノじゃぞ、あれ?」


「…………へ?」


 勇気は耳を疑う。モノ、というのは恐らく今も口に咥えている煙草と煙管に入っている葉のことを言っているのだろう。勇気は信じられなかった。だって、先ほども言ったように、煙草と煙管の煙は病的なほどにいい香りのするものだった。


「いや、有り得ないだろ。あんな良い香り……」


「ブレスケア飲んでるからじゃないかの?」


「…………え?」


「実はこの間、そこな涼と、もう一人の女子(おなご)にの、言われたんじゃ。息が臭いと」


「あれっ!? あれ気にしてたの?」


「気にするわ! 気にしないわけが無かろう! 息が臭いとか……」


 勇気の戸惑いを無視し、太三郎と涼は言い合う。どうやら、太三郎の言ったことは本当のようだ。何故なら、この状況で嘘を吐く理由がおおよそ見当たらない。飛んだ冗談とかでなければ、一縷(いちる)の可能性も。

 それを理解した勇気は一人、深く深く、ため息を吐いた。さっきの煙を、少しでも吐き出したいかのように。


(……はぁ。なんだよ、ただのオッサンの息をあんなに勢いよく吸い込んじまったのかよ……)


「……もうええわ。勇気」


 勇気がさっき、自分の体を覆った煙のことについて考え、肩を落としていると、その意識の外から太三郎が声をかける。そっちへ目を向けると、どうやら涼との言い合いはひと段落ついたらしい。二人は並んでこちらを見つめていた。


「お主の話を聞きたい。涼と、そしてお主自身の口からも。無論、そちらの質問も好きなだけ受け付けよう。よいな?」


 太三郎はそう言って、煙草と煙管を手に持ち、口から息を吐き出す。涼はその隣で、静かに勇気を見守っていた。

 そして当の勇気だが、彼は少し思考した。だが、答えが変わるはずもない。


「ああ、分かったよ」


 断る理由もない。勇気はすぐに、太三郎の言葉に頷いた。

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