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出会い

「ただいま~!」


「おかえり。まずはお主らの結果を教えてもらおうかの」


 妖館に帰ってきてすぐ、五人を迎えた太三郎はその結果を聞いた。結果とはつまり、受験結果のことを指している。それに対して、四人は静かに涼の方を見た。少しだけ俯いている彼女の方に。

 それを受けて、涼は自分自身から言い出す。


「四人は合格で、私だけ補欠合格。……まあ、一つ及ばなかった……って感じかな」


「ふむ……涼だけ補欠合格、の。となれば、まだ勉強はせねばならんな?」


「うん、そうね」


 太三郎の言葉に、涼はまた少しだけ俯いて頷く。そんな彼女を見て、周りの四人も少しだけ気まずそうにする。涼だけが補欠と言っても、その重さはかかってしまうものだ。一つ屋根の下に暮らすものにとって、それは当たり前。


「ま、結果は受け入ればならぬ。……それで、話は変わってしまうんじゃが……」


「ん、どうしたの、太三郎さん」


 一人が落ちているというのに、他の用事で話を変えなくてはならないことに若干の気まずさを感じながら、太三郎は話を変える。それをフォローするように、ララが相槌を入れた。

 太三郎はまた続ける。それは、五人それぞれに対する指示であった。


「うむ、マーレ。お主は涼の面倒を見てやるんじゃ。涼も、分かっておるな?」


「あ、うん」


「分かったわ。教えておくわね」


「よし、次じゃな。勇気とララ。儂と一緒に来い。やることは分かっておるな?」


「了解した」


「おっけー」


「鼬、お主は……掃除でもしておれ」


「……え、なんで俺だけ雑用みたいな感じなの?」


「別に構わんじゃろ? 何も指示せんかったら、どうせゲームでもやるんじゃろうし、の? では頼むぞ~」


 太三郎が全員への指示を終えると、四人はそのままに動き始める。だが、鼬だけは自分の受けた指示が急に雑用的だったために、声を上げる。だが、その声は誰にも届かずに消えてしまうのだった。

 それぞれが部屋に帰っていき、指示の通りに動く中、鼬はエントランスで一人、膝をつくのであった。


「どうして俺だけ……」









「さて、もう習慣になっておるが、心眼の開閉、その練習の確認じゃ」


 太三郎は食堂に勇気とララを呼び、ヘッドホン、サングラスを外させて一つのテーブルに座らせる。そうして自分は立ち、講釈をするように二人の眼前を歩き回って話す。


「お主ら、今の所どれくらい開閉に時間がかかる?」


「……俺は一時間くらい」


「私は三十分くらいかな」


「なるほどの……ま、個人差はあるものじゃし」


 太三郎は煙管を口に咥えて、椅子に座る。そうして二人に向き合いながら、また心眼のことについて話す。


「それで、心眼を限界まで閉じ切った時、どれだけ余計に感情が入ってきてしまうのじゃ?」


「……耳の調子がいいと、やっぱり遠くのも聞こえちまうかな」


「壁越しなら、色が見えなくなるくらいには」


「ふむ、ララの方が成長は早い、の」


 

 説明していなかった。ララが妖館に来てより三日後、つまり二人の荒療治が終わってしばらくした時から。太三郎は二人に悟りの力の扱い方を教えていた。つまり、心を理解してしまう能力。それの扱いだ。

 現在の問題は、心眼の開閉が出来るとはいえ、相当な時間を必要としてしまうこと。そして、閉じ切ったとしてもまだその器官に、感情が届いてしまうことだ。

 それらの問題を塞ぐために、今、太三郎は勇気とララに心眼の閉じたり開いたりを義務化していた。どうやら、それをすれば扱いが出来るようになるらしい。二人は最初、半信半疑という様子でその指示に従っていた。だが、それは確かな形となって表れていた。ララは初め、閉じるのに三時間かかっていたのだ。それから一か月ほど、三十分にまで縮んだのだから、信じるだろう。



「ゆくゆくは、すぐに出来るようになる。これからが大変なところじゃが、励むのじゃぞ」


「ああ、分かってる」


「うん、頑張るね」


 太三郎は煙管を口から離しながら、息を吐く。彼の言葉に、勇気とララは頷いて示した。


 そうしてしばらく。太三郎は思い出したようにして声を上げ、二人に話す。


「……あ、そうじゃった。今日、あ奴らがこっちに来るんじゃった……」


「あ奴ら?」


 太三郎の言葉を受けて、勇気とララは同じように首を傾げる。あ奴ら、聞いていない話だ。二人が疑問に思うのを目に捉えて、太三郎は頭を抱えて話し始める。厄介だと、顔だけで言っているかのような表情で。


「いや、の。ララは聞き覚えがあるじゃろうが、もう少しで……」


 と、太三郎が途中まで説明をした時だった。


「たーさーぶーろーーーーッ!! 僕が来たよ!!!」


 食堂の中に、声が響く。どうやらその声はエントランスの方から聞こえているようだった。そして、その声を耳に入れたそれぞれの反応は……


「ん、聞き覚えのない声だな」


「あれ、この声って……」


「ああ、もう来てしまったのか……」


 勇気は首を傾げ、ララはハッとした表情をする。太三郎は、額を抑えてため息を吐いた。そうして彼は、二人の方を見て言う。


「迎えに行くぞ。一応ララにとっては恩人でもあろうし……それに、お主に会いたいらしい、勇気」


「え、俺?」


「ああ、そうじゃ。では行くぞ」


 必要最低限のことを告げると、太三郎は椅子から腰を上げ、二人についてこいと示すのだった。








「さて、そろそろ……」


「照! 久しいの」


「あ、来た来た……」


 エントランスには、一人の男が立っていた。見た目、二十歳かその辺りだろうか。男にしては少し長い藍の髪をした美形で、他の男とは比べ物にならないほどの色気がある。加えて特徴的なのは、白衣を着ていることだ。何かしらの研究職か、医者なのだろうか。ともかく、その男は半分緊張しているような様子で、一人エントランスに立っていたのだった。


 太三郎が食堂から声を上げてエントランスに入ると、彼はパッと顔を輝かせる。そうして、太三郎に向かう。


「久しぶり! えっと、一ヶ月ぶりくらいかな?」


「そうじゃな。あの日以来じゃから……」


 と、太三郎が指で計算を始めた時だった。


「照さん、久しぶり〜!」


 ララが、太三郎の背の陰から飛び出して照と呼ばれた男に向かう。その顔には、満面の笑みがあった。どうやら、二人は知り合いらしい。ララが自分の前に出てくるのを見止めると、照も笑顔になった。


「あ、ララちゃん。どう、変わりはないかい?」


「変わりはあるよ、いい方に! 元気にやってる」


「そうか、よかったぁ……」


 と、照はそこまで言った時、あるものを目に入れる。


「…………」


「ん、君は……」


 太三郎の背に半ば隠れるようにして立っていた勇気である。彼は少しの緊張と、警戒を持って照を見ていた。

 だが、照は勇気とは対照的な、満面の笑みを浮かべて彼に向かったのだった。


「君が、勇気だね。僕は照。天野照あまのてる。よろしくね」

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