支えよう
「あ……悪い。もうニ時だ」
まだ全然、日が頂点に浮かんでいる頃。実際は少しだけ傾いているが、その時辺りで琴音が声を上げる。前回と同じで、ファミレスの中でである。彼女は勇気達が涼の勉強につきっきりになっている横で、自分の腕時計をちらと見てから立ち上がったのだ。
「店の手伝いがあって……悪いな」
「あ、そっか……。こっちこそごめんね、長く引き留めちゃった?」
琴音の言葉に、小さく涼が頭を下げる。だが、琴音はそれに首を振って応えた後で、他の一同にもじゃあなと言う。その中で、勇気とララに一度目を止めた。
「勇気、ララ……」
「ん、どうした」
「いや、さ。初めて会った日に、もっと長く一緒にいれたらよかったんだけど……悪いな。用事があって」
どうやら琴音は、今日に顔を合わせたばかりの人間と、もっと深く交わっていたかったようだ。それが出来ず、中途半端な形で別れてしまうのを悔やみ、相手もそう思っているだろうと。
実際、ララも勇気もそう思っていた。だが、彼らは顔を見合わせた後で、琴音の方を見上げて笑った。
「大丈夫だよ。別に、これから付き合いを持っていけばいい話だしね」
「ああそうだ。きっと、いつか会うさ。共通の、友達がいるしな」
「勇気……ララ」
二人の言葉に、琴音は一瞬だけ表情を崩して笑った。その後で時間の無さを思い出し、自分の分の領収書を手に駆け出す。そうしながら、五人に振り返った。
「ありがとな、そんじゃまた!」
そう言って、琴音はファミレスの出口まで駆けていく。そうする彼女は、勇気と初めに顔を合わせた時よりも輝いて、笑みがあった。きっと勇気とララのことを友人と認めたのだろう。最初から疑っている訳ではないが、少しの緊張があったのだ。それを越えたからこその、屈託のない笑み。それを持って、彼女は外へ駆けていくのだった。
そうして、琴音の背を見送った五人は一度静かになる。だが、そんな中でふと勇気が口を開く。
「なあ、琴音って、何でこんな時間に帰るんだ? 一応、あいつは受かってただろ」
受験の話だ。受かっていたら、別に勉強に時間を大きく割く必要はないし、そこまで用事はないはずだろうと。その勇気の問いに、鼬が答える。
「あいつ、母子家庭で、借金があって……」
「ちょっと鼬」
「別にいいだろ。勇気とララは知っても大丈夫さ。琴音だって、認めてただろ」
「…………まあ、そうね。悪かったわ」
鼬の言葉を一度制止しかけたマーレは、鼬の言葉を受けてその腰を落ち着ける。彼女は、琴音のプライバシーを重んじたのだ。それを鼬の目と、言葉で考えを変えたというわけ。
そうして、鼬はまた説明を開始する。
「あいつの家はラーメン屋で、お母さんが一人で経営してるんだけどよ。それをいっつも、手伝うって言って早めに帰るんだ。自分自身のことをさておいて、さ」
「……そうか」
鼬の重い説明を受けて、勇気は唸る。それは当然、さっき友人になった人間が、相当につらい状況で体をうねらせて必死に歩いているのだと知ったのだから。
だが、勇気がそのことで長く苦しむことはなかった。
「私の補欠合格」
「……ん?」
勇気が頭を抱えていると、その正面の涼が口を開く。気になって見てみれば、彼女は優しい笑みをしながら頬杖をついていた。
「もし結果が駄目だったら、私の受験が終わるまで。オッケーだったら、結果が出てすぐ。手伝いに行きましょうね……。私の都合に合わせてもらって悪いけど、さ。」
「ああ…………ああ!」
勇気は涼の言葉に、大きく頷いて応えた。彼としても、琴音は今日中だけで相当に近くなった友人だ。彼自身に元から友人が少ないというのもあるが、琴音が本当に、良い人間だったからということが大きい。彼はまた、希望を見たのだ。今度は人間の一人に
そんなことで、彼としても琴音は助けたいということ。だから、涼の言葉にこう応えた。
「ああ! んじゃ、もしもの時のために、めっちゃスパルタで勉強しようぜ!」
「………………え?」
「あ……やっちゃったわねぇ……」
「……可哀そうだなぁ」
勇気の言葉を聞いて、涼は顔を青ざめさせ、マーレは口元に呆れたような笑みを浮かべた。鼬とララは、哀れむような目で涼を見る。
「さぁ、こう来たらさっさと帰ろうぜ。ちゃんとした教材も、あっちにはあるしな!」
そんな感じで、五人はすぐにファミレスを出た。それぞれに違う表情はあったが、同じ目的をもって。




