くだらないやりとり
「えっ、琴音のお母さんの店には集まれないの?」
「あ、ああ。悪いな。母さんに用事があるんだよ」
高校で受験の結果を確認した後の勇気達一同は、件の高校から少し離れた公園にて、どこかに集まろうと話し合っていた。そしてまず最初に、琴音の母、愛音の店に集まろうと涼が言いだした。が、それは琴音自身に否定されてしまう。愛音に用事があるらしいのだ。それに対して、涼は残念そうにして息を吐く。
「ふむぅ……まあしょうがないかぁ。ああ、あとノートとかないし……」
「悪いな……」
「私としてはニンニクの入ってるラーメン屋とかお断りなんだけどね……(ボソッ)」
ラーメン屋に行かないと知って、マーレは一瞬ホッとする。彼女としては、吸血鬼の弱点たるニンニクの入ったラーメンを出すような店には行きたくないのだ。
しかしそんなことには関係なく、状況は変わらない。つまり、どこかしら集まる場所は探さなくてはいけないということだ。それに、ノートやらが必要だ。だが、そんな中で勇気が首を振る。
「いや、大丈夫だ」
「え……どういうことよ」
「俺はノートとペンさえあれば教えられる。その辺りは買えばいい。一組で十分だ。涼のことは一番見ていたから、弱点とか把握してあるからよ」
「はぇぇ~……すごいね勇気」
「全くだなぁ……」
勇気の言葉に、ララと鼬がそのすごさを理解しているのかいないのか分からないフワフワとした様子で声を上げる。彼ら二人は、どちらかというと阿保の子だから人にものを教えることがどれだけ難しいことか分かっていないのだろう。
紙とペンさえあれば物を教えられるなど、学校にいる教師でも難しいことだ。教える内容、その程度にもよるが、相当な経験がなければ出来ないこと。そんなことをやって見せると、勇気は軽々と言ってのけた。
マーレはそのすごさを把握出来たのか、へぇ、と少し興味深そうに声を上げた。涼は……鼬とララの二人と同じように、口を開けて阿呆そうな顔をしていた。理解が及ばない、という感じ。
そして琴音。彼女は始め、そのすごさに勇気へ関心の目を向けていたが……
「へぇ……ん、そういや勇気って、涼達と同じ孤児院にいるんだよな?」
「ん、そうだが……それが?」
突然の問いに、勇気は頷いて応える。それを受けた琴音は、ほのかに顔を赤くし、口の辺りを覆って小さい声で一同に言う。
「な、なんか……見てたから弱点分かるって、あ、艶やかな響きだな」
「……………………はっ?」
つい、琴音を除いた全員は揃って疑問の声を上げた。彼女の言った言葉、今の話の内容からは飛びようのない所へと内容が変わっていた。勉強の話をしていたのに、急に艶やかな話と言い始めたのだから。
彼女がそんなことを言ったのは、勇気の言い方がそれらしかったからというのが理由だ。艶やかと言ったのは、他の人が分かるか分からないか、ギリギリの表現で分かる人にだけ分かればいいと思ったからであろう。そういう内容だ。端的に言うとつまり、勇気が涼の弱点を理解しているというのが、ちょっと色っぽい響きだと思ったらしいのだ。
そうして、怪訝な色の濃い空気が過ぎる。異物を投げ込まれた湖のようである。だが、その中で一人、琴音の言葉の真意に気付いた者がいた。
「……琴音……艶やかって……。いや、そうかもしれないけど……」
鼬である。彼は顔を真っ赤にして、チラチラと涼の方と琴音を見比べていた。そうして、マーレの方へと目を向けた。そっち系の想像をし始めると、意中の子を頭の隅に置いてしまうあれだ。
だが、彼は失敗した。そんなこと、しなければ問われなかったのに。
「え、なに鼬? 琴音の言ってることが分かったの?」
「へぁぁっ? いや、なんでもな……」
鼬に問いを投げたのはマーレである。彼女は純粋な疑問の目で、顔を真っ赤にしている鼬に問いを投げたのだ。その彼女の興味は、止まることを知らない。それに、他の者まで乗り始めた。
「艶やかって何よ?」
「い、いや……分からな……」
「私も分からないんだけど。アンタ分かる? ララ」
「アデアデしてる……って意味かな勇気?」
「アデアデって……何急に変なこと言いだしてるんだララ」
「うん、私にもよく分からない」
「お、お前らもか……」
一同は次々と首を傾げ、その答えを鼬に求める。それに対して彼は、真っ赤な顔を震わせて、応えることが出来ずにいた。分かっているだろうが、艶やかという言葉の意味を教えてしまえば火傷は免れない。つまり、そういう想像をしていたと暴露することに他ならないのだから。
結局、彼は大声を出して琴音の方へ目を向けた。
「こ、琴音! お前が教えてやれよ!」
「え……わわ、私はちょっと……ヒューヒュヒュ~」
琴音は口笛を吹いて火傷を避ける。言い出しっぺなのに、だ。それを目にした鼬は更に顔を赤くして声を荒げる。
「おい! 逃げるなことn……」
「ちょっと?」
だが、咎められてしまう。またマーレだ。
「私は鼬に聞いてるんだけど」
「えぁっ……ああ、いや……その……」
「知ってるのに、答えてくれないの?」
「いっいや! そうじゃなくって……その……」
「はぁ……もういいわ」
何回か同じようなやり取りを繰り返した後で、答えるのを避けようとする鼬のことを見限り、マーレはため息を吐いて振り返る。どうやら、聞くのを諦めたらしい。加えて勇気、涼、ララの三人も、期待外れという風に白けた顔をした。
「あ、いや……あ……」
離れていく四人の背を、何ともいえぬ悲しい表情で鼬は見つめた。
だが、彼は強い男であった。決心をしたのだ。興味を解消してやろうという、良心からである。
「あ、あ、艶やかってのは!」
まず、そう声を上げた。それを受けると、琴音を除く四人は当然、期待をして鼬の方へ振り返った。その期待は自分達の疑問が解消される期待である。だが、お判りであろうが四人の期待はそういった風に解かれるものではなかった。寧ろ……
鼬はその先も理解したうえで、言った。
「艶やかってのは……え、え、え、え……エッチな響きとか、色っぽい女って、意味だよ」
ちょっと艶やかな、の意味を拡大解釈してますが、ご愛嬌ということで……お願いします!




