芳しくない結果
「えっと、最後らへん最後らへん……!」
「クソ、見づらいんだよ……」
「端っこ……端っこぉ……」
涼、鼬、ララ。彼らは血眼になって受験結果発表が張り出されているのを見ていた。つまり、自分の番号を探していたのだ。受験に合格しているか否か、彼らにとっては相当な分水嶺である。
そんな必死な背をしている三人を、勇気、琴音、マーレは呆れた目で見つめていた。
「すげえ血眼って感じだな。命がかかってる訳でもないだろうに」
「本当にな……って、琴音。お前はもう、受かってるかは確認したのか?」
「ん、ああ……」
勇気は自然に、隣の琴音が言った言葉に問いかける。少しだけ気になったのだ。勇気とマーレは自分達が勉強が出来て、合格していると確信しているからこそ平然としているが、琴音はどうなのだろうと。
問われた琴音は、心ここにあらずという感じで応える。
「一応、受かってたよ」
「一応……? お前、見た目によらず結構勉強できるみたいだな」
「んぇ、どうしてだ?」
「いんや、合格とかにあんま頓着がないらしいところを見ると、勉強できるから余裕でもあるんじゃないかって」
勇気は自分の考えを口にして、琴音の方へと目を向ける。つまり彼女のフワフワとした様子は、余裕から来るものだと。それに対して、琴音は……これもまた、あまり興味がない様子で応える。
「まあ、得意って訳じゃあないけど、それなりかなぁ……」
「ん、そうか……。じゃ、俺も探すかな……。あ、あった」
「あ、私も」
話の途中で、何のきっかけもなく受験の結果が気になった勇気は、結果表に目を寄こす。すると彼は一瞬にして、自分の番号を見つけた。それに加えて、隣のマーレも声を上げる。どうやら二人共、自分が受験に受かっているらしいことを確認し終えたらしい。
その二人を見て、琴音は本当に嬉しそうに拍手して迎える。
「おーっ、おめでとう! やったじゃねえか。これで、しばらくは安心して夜を迎えられるな!」
「ま、そうだな」
「まあ、受かってるのは分かってたけどね、ふふん……って、あいつらまだ……」
琴音の熱い対応に対して、当然だ、と二人は言った。自分達が合格していると確信していたからだろう。
そうして、勇気と琴音の興味はマーレの言葉によって、次に向かう。マーレの見ている方向には、受験不安組の三人が未だ番号を探しているのがあった。
「探し始めて何十秒よ」
「焦ってると、周りが見えなくなるもんだ。涼達も、そうなってるんだろ」
「すげえな……。つっても、受かってなかったら結構、笑い話にもならねえからよ。見守ってて……」
と、琴音が言いかけた時だった。
「ふぉぉぉぉーーーー受かってたぁぁァァァ――――ッ!!」
「あ、私もあった。あったよ!!!」
死にそうな表情をして番号とにらめっこを続けていた鼬とララの雰囲気が、一瞬にして太陽のようになる。その様子はさながら、水を得た河童のようであった。そうして、お互いが受かっていることを確信すると、顔を見合った後で抱き合うのであった。
「ぃやったぁぁぁーーッ!」
「ふううぅぅぅぅぅうううううーーーーッ!!」
それにしたって、密着しすぎである。喜びで周りが見えなくなっているのだろうが、それでも。それを勇気と琴音は、呆れながら見るのであった。
「すごいな。まあ、受かってたんならよかったけど……」
「そうだな。二人共、すげえ……て、マーレ?」
言葉の途中でふと、琴音はマーレに目を向ける。それが気になって、勇気も彼女の方を見たが……琴音が気を引かれた理由を一瞬にして理解する。
マーレが、黒そのものというような表情をしていたのである。嫉妬……敵意、そんなものを感じる目を見開いて、鼬とララの間を見ていたのだ。口からは、……タチ……、みたいな言葉が聞こえてくる。何やら、二人の間に彼女が敵意を感じるようなものでもあったのだろうか。
勇気はマーレの様子を見て、首を傾げる。
「どうしたんだ、あいつ? なんかすげえ怖い顔してるけど……」
「ん、勇気。マーレ達とどのくらいだ?」
「え……一緒にいる期間か? 一か月くらいだが、どうしてだ?」
「ああ、それじゃ気付かないかもしんないかぁ……」
琴音は急に、意図がパッとは分からない質問を勇気に投げかける。そうしてその答えを受け取ると、ああ~と、頭を抱えるのだった。そうして、彼女は鼬の方を勇気に指し示し、言った。
「マーレ、鼬のこと大好きだからさ」
「………………え?」
勇気はつい、ボケた表情をして疑問を顔に露わしてしまう。そんな彼の顔を見て、琴音はさぞ面白そうな顔をして言う。
「あいつ、鼬が他の女と二人でしゃべってる時とかああいう顔すんの。自分で気付いてるか分からないけど、多分、大好きなんだろうぜ?」
「へ、へぇ……そうか。意外だ」
「そうだな。多分孤児院だと、あんま涼と鼬、鼬とララみたいにならなかったんじゃないか? それに、二人きりになってもマーレがそこにいない可能性が高いから、その一面を見ることが出来なかったんだろ?」
(確かに……妖館で鼬と涼が二人の所を見ない。ララもだ。それに、マーレが無自覚なら、心が聞こえても分からない、のか……)
勇気は琴音の説明に納得する。つまりは……
(あいつら両想いなのに、お互い気付かなかったり隠そうとしてたりで、遅れてるだけじゃないか……)
勇気は頭を抱えて顔を赤くする。それもそう、見ているだけでこちらも顔が赤くなってしまうほどの青春だ。その勇気の反応を見た琴音は、ククッと笑い、改めてマーレと、ララと抱き合っている鼬を見比べる。
「いやぁ、鼬は明らかにマーレのこと好きだしよぉ~。羨ましいほど青春してるよな、あいつら」
「ああ、まったくだ……」
琴音の言葉に、勇気は顔を赤くしたままで応える。なんとも、その通りである。琴音にとっては親友達がただ青春しているだけであるが……勇気にとっては、妖怪が普通に青春を謳歌しているという風景ともなっていた。ただでさえ、見てるこっちの顔が燃え上がりそうな恋だというに……
だが、そんな恋に全く興味を示さない人物が音を立てる。
バンッ
何か、板を殴ったような音である。その大きな音に、抱き合っていた鼬とララ、死んだ目をしていたマーレ、それらを見ていた勇気と琴音がそろってそちらの方向へ目を向けた。そちらでは……
「私だけ……補欠合格」
死んだ目で結果表に頭突きをくらわし、その状態から一歩も動かない涼が鎮座しているのだった。




