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琴の音

「うごぉ……腹が」


「私は頭痛が……」


「ぐぅ……髪が元気なくしてるよぉ」


 受験当日より一日後、受験結果の張り出しが行われる日だ。その日に、勇気達は五人で受験をした高校、その敷地内に向かっていた。

 まあ五人の内、三人は随分な不調のようだったが。お分かりの事であろうが、鼬、涼、ララである。ララなんかは彼女の言葉通り、本当に髪がしなっているように見えた。まるで雨の日、そこらに転がっているビニール袋……は、言い過ぎか。だが表情を合わせれば、そんな風に見えなくもない。

 そんな三人を、余裕のある勇気とマーレは呆れた顔で見ていた。


「はぁ……全く。そんな不安になるんなら、努力は惜しまないようにするべきなのにね」


「全くだ。鼬、ゲームを節制するべきだったんじゃないか?」


「いやそりゃお前だろ。お前がやり過ぎて、俺達の面倒を見切れなかったんじゃないか?」


「ぐ……そ、そんなことはないだろ」


 勇気は鼬の指摘を受けて、唸ってしまう。実際は……半分ほどそうだったという所か。確かに規定の時間以内はずっと三人の面倒を見ていたが、それ以外は本当に、ゲームに明け暮れていた。


「ハマり過ぎだっての……っと、いたぜ」


 鼬はそう口にしながら、高校の校門を入って少しした辺りで目の端に何かを入れる。どうやら、誰か人を見つけたらしい。そちらの方へ指を指す。

 他四人が鼬が指をやった方向へ目を向けると、結果発表の張り出し板があった。そうしてそのすぐ隣には一人、ヘッドホンをして、とてつもなく目立つ姿の少女がいた。琴音である。どうやら鼬は、彼女のことを指差したらしい。


 琴音がそこにいるということに気付くと、まず涼が声を上げ、琴音の方へと走り寄っていく。


「あ、本当。琴音~!」


「んあ、涼。遅かったね。……っと、鼬にマーレ。あと二人は……」


 琴音は涼の方へ振り返ると、自分が今まで一緒にいた親友と、そして見知らぬ人間が二人いることに気付く。そうして、その二人の様相に顔をひきつらせて涼を見る。


「ああ……私もそうだけどさ、涼。アンタらの友達って、変な奴しかいないの?」


 言ってはいなかったが、勇気とララはそれぞれ、例の心眼を閉じるための道具を着用していた。つまり、勇気はヘッドホンを、ララはサングラスを。それが、日傘を差しているマーレと一緒にいるのだから、凸凹な集団だとは見られるだろう。それを見て、琴音は変な奴しかいないと言ったのだ。


「すごいわね、壮観よ? お嬢様風のマーレの隣にパンクな見た目のが二人……」


「アンタのがすごいわよ。さ、勇気にララ、こっち来てよ」


 困惑する琴音と、それに一歩踏み出せない勇気とララの間を涼が詰める。そうして近付いた三人のことを、脇にいる涼が紹介する。勝手に。


「よし、んじゃ……この金髪の子はララ。なんかポワァっとしてる奴って感じね」


「何それ」


「んで、こっちが勇気。変態で変人よ」


「おい」


「んじゃ、勇気にララ。こっちはね……単純に良い奴、琴音よ」


「単純にって何よ……」


 涼の、言葉が足りているのか足りていないのか分からない紹介を受けて、三人は戸惑う。しばし、元から緊張感の漂う受験結果発表の現場で、もっと濃い緊張が広がる。友人だけが知り合っていた、自分の知らない友人との初対面はこうなりがちではないだろうか。ともかく、三人の間はそうなっていた。


 だが、その中でまず琴音が口を開く。


「えっと……涼が紹介してくれたけど、改めて。私は琴音。いや、大変だな。こんな奴に変態って言われるなんて……逆にって感じだよな?」


「ちょっと?」


 琴音は緊張している最中でも、出来るだけフレンドリーに二人に接そうとした。それに対して、ララも応える。


「ああ……そうかも」


 そして勇気は少し、遠慮を知らずに反応する。初対面で少しだけ冗談を交えて喋っている、という感じで。


「フッ、全くだ。涼に変人だなんて、こっちのセリフ、という感じだ」


「ぶちのめすわよ?」


「あっはっは、本当にな! 作る飯全部ゲロだし」


「おいアンタら」


「ああ……ここまでにしておくか」


 場の空気がある程度温まったのを目にすると、涼のこともあって、勇気は一旦この話を終える。そうして、自分のことを示して言った。


「俺は神崎勇気、勇気って呼んでくれ、琴音。ああいや、気まずいなら上でもいいが……」


「いや、いいさ。うし、これからよろしくな、勇気! それとララも、な」


「あ、うん。よろしくね、琴音」


 涼へのちょっとした悪口を、まるで潤滑油のようにして勇気と琴音は距離を詰める。勇気も、人間が嫌いとは言っていたが、最低限のマナーやそう言ったことを破るようなことはしなかった。琴音もそうだ。彼女も初対面を相手にする割には、柔らかく接す。


 だが、マナーを破ることはないとは言ったが、勇気にはまだある考えがあった。


(マーレの顔を立てるためにも、な)


 未だ、人間を信用しきれてはいなかったのだ。だが……彼は早速、涼や鼬を交えて、ララと談笑する琴音を見て思う。


(でも……良い奴なのかも、知れない)


 心は溶けかけているのだろうか。勇気は遠い目をして、妖怪に囲まれる人間を見た。彼女は本当に楽しそうに、もうララが初見の相手であることを感じさせないほどに溶け込んでいた。


 だがともかく、ここに来た理由はそんなことではない。サブとして大きい目的ではあったが、主な目的ではなかった。


「はい! おしゃべりはこの程度にしておきましょ?」


 マーレがパチンと、手を叩いて皆の集中を寄せて言う。そうして彼女が示すものは……


「さっさと結果、見ましょうよ」


 当然、受験結果発表板である。

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