事後談 2
「照、聞いとくれ!! 今日、鼬達が……鼬達がぁっ……ズズッ!!」
「太三郎、もうそれ聞き飽きたよ。気付いてないみたいだから言うけど、その入り、今ので七週目ね?」
「じゃってぇ……じゃってぇ……!」
妖館の子供達が寝静まったころ、太三郎は自分の部屋でスマホを顔の横にあてがっていた。そうしながら、涙目になって電話の相手にむせび泣いている。電話の相手は、照という少年のような声をした男であった。その彼は、優しい声で太三郎のことを窘める。
「よかったね。でもさ、僕は思ってるよ、ずっと。太三郎が、子供に好かれるようなカッコいい奴だって」
「む、むぅ……そう、かの? 最近自信が……息臭いとか言われるしのぉ……」
「君の唯一の欠点だから、それを面白おかしく言ってるだけさ。……いや、欠点は他にもあるけどさ。でもともかく、君のしてきた事。それに今している事、全部間違ってなどないさ」
太三郎が、納得が出来ないと言うように人差し指を突き合わせていると、照はまた優しい語調で語り掛ける。それは本当に穏やかで、聞く者の心に薄ら赤い温かさを感じさせる。太三郎はそんな声の、優しい言葉を受けて鼻水をすする。
「ズズッ!! んぅ……しょうかのぉ?」
「うん。それに、人の考えに悉く、間違いなんてないしね。まあそれを抜きにしても、全然、僕から見て君はカッコイイし間違ってないよ」
「……そうか。ありがとうの、照。お主の言葉のおかげで、大分心が軽くなったわ」
「ううん、大丈夫さ。僕の方こそ、こんな時間に君の声が聞けて良かったよ。ああそれと……」
しばらくして、太三郎の泣き上戸のような調子で話し続けるのが落ち着く。それを確認してか、電話の相手の照が話を代えようと声色を変えた。好奇心の色を含んだ声だ。そんな声で、こう言う。
「近く、そっちに行くよ。タマも連れて。“見回り”を兼ねてね」
「ふむ……。この前ぶりじゃな」
「うん。僕が運悪く、その勇気君ってのが自殺しちゃった時に、太三郎と天翔を誘っちゃった日以来」
照の言葉を聞いて、太三郎は見えているはずもないのに一人で頷く。そうして思い出すように、かみしめるように、呟いた。
「うむ、そうじゃな……。そういえばあの時、お主に会いに行かなければ、あそこの見回りは天翔の担当じゃった……。もしそうなっておれば、勇気は妖館にいなかったかもしれんの」
「ん? どういうこと」
「見回りを涼に任せておったんじゃよ。もしあそこに、気の早い天翔が行っておれば……もしや勇気は、詰め所に送られていたのかもしれんからの……」
太三郎は目を細めて、遠くを見るようにして言う。そうして、感慨深いと言うように電話へ向かった。
「お主はもしかしたら、偶然とはいえ、勇気を救ったのかもしれんの」
「……そう、それはよかった」
電話の相手、照は多少の達成感のようなものを感じさせる声でそう言った。偶然でも、自分が人の命を救ったことを嬉しく思ったのだろうか。まあそれはともかくとして、照と太三郎の間には良い空気が漂うのだった。
しばらく、心地の良い沈黙が流れた。その後で、急に照が妙なことを言い始める。
「あ、言っておくけど電話、朝までするつもりでかけてきたよね?」
「…………は? 何を言っておる。今日は疲れたし、もう寝……」
「いやいや、僕に電話かけたら五時間は離さないよ。それに太三郎とあれば、七時間は……」
太三郎は照がそこまで言った瞬間に、停止のボタンを押して通話を切るのだった。
照の言った言葉は本当で、太三郎はそれをよく分かっていた。別の話ではあるが、昔、太三郎は照に一日中付き合わされたことがあったのだ。それが今の太三郎にはしんどくてたまらない。だから、通話を切ったのだった。ひどい対応とはいえ、致し方なし。太三郎はスマホをそのまま自室の棚の上に置き、布団に入ったのだった。
その後、三時間にかけて電話のコールが鳴り響き、太三郎が一睡もできなかったのはこれもまた別の話。




