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憎悪の根源

「クソがッ! 覚えてろよ神崎勇気ッ!!!」


「……ペッ……。言ってろよ。クソゴミ共が。何度でもぶっ殺してやる」


 夢の中で、勇気は学校にいた。学校の、体育倉庫の前だろうか。夕日が落ちてくるころ合いの時間だ。そんな中で、漏れなく怪我を負った中学三年くらいの少年達、ニ十人以上が逃げていくのを、彼は黙って見ていたのだった。その口の端からは、ツーっと血が垂れている。顔には殴打された跡が。


 だが、勇気の顔には達成感があった。


 彼の背に、体育倉庫の扉に寄り掛かるようにして倒れている少年がその達成感の元である。その少年は怪我を負っていた。おそらく、バットやらで殴られた跡だろう。いじめられていたのだ。

 それを、勇気は助けた。二十人以上のいじめっ子を全員殴り倒して。自分の顔の方が、後ろの少年よりも幾分がひどくなるのにもかかわらず、だ。


 そんな後で、勇気は少年の方へ振り返った。


「よぉ、鈴木だったよな。もう大丈夫だぜ」


 勇気は少しの笑みを浮かべて少年に言った。そうして、手を差し伸ばす。


「ほら、手を取って。立って帰ろ…………ッ!?」


(……これは、こいつの……心?)


 勇気の耳は少年の心を捉えた。それは、勇気の心をえぐり取って余りあるものだった。


(クソ野郎。どうせ、達成感とかを感じたかったんだろ!! 憐れむなよ、成績優秀で何でも出来て、何も出来ないことはないと思ってるクソ野郎がッ!! 憐れむ目でこっちを見るなッ!!!)


「……………………」


 勇気は少年の顔を見おろす。彼の顔には、まごうことなき憎悪が、宿っていた。それを見て、勇気は疑心暗鬼に陥る。


(……違うだろ? 俺は……こいつを助けた、だろ? ……そうか、こいつは今、ちょっとした混乱状態になっちまってるんだ。助けてやらないと……)


 勇気はそう思い込んで、少年に手を伸ばした。また、掴ませて立ち上がらせようとしたのだ。


「ほら、立って帰ろう。きっとよ、親も心配してるだろうぜ。だから……」


 だが、手は(はた)かれた。


「うるさい!! どうせ僕のことを助けて、満足したいだけだ!!! 憐れむな憐れむな憐れむなッ!! そんな目で僕を見るんじゃないいぃぃぃぃぃぃいぃぃぃぃぃッッ!!!!!」


 ………………








 夢の画面に霧がかかって、次の日だ。


 勇気は学校の前に、死んだ目をして立っていた。そんな彼の耳に、入ってくる。


(これって本当?)


(有り得なくない?)


(逆に、助けようとしてたよな……)


 何か、嫌な予感がした。勇気はスクールバッグをそこらに殴り捨てて自分の教室へ向かう。


 そうして辿り着くと、すぐに教室の扉を乱暴に開く。すると、その音を聞いてか、中の少年少女達が全員勇気の方へ目を向ける。そんな彼らは、ある一つの机に集まっていた。そして、勇気へ怪訝の目を向けている。


「あそこの机……鈴木!!」


 勇気はそれを思い出した瞬間、弾かれるようにして駆け出し、机へ向かった。周りに集まっていた人間達は勝手に退いていく。それは、彼が騒動の中心であることをうかがわせる。

 そうして、勇気は机の目の前へ。そこには、手紙が置いてあった。


「あの……神崎君。これ」


 一人の女子が、それを勇気へ手に取って渡す。それをもらった勇気は、手紙を開いて見た。

 その中身には、大量の文言が書いてあった。だが、勇気の目には一文しか入ってこなかったのだった。









 神崎勇気が、僕の自殺する決定打でした








「神崎勇気! お前、また騒動を起こしてくれたな!」


 ところ変わって、ハッピーハウスの一部屋。事務室のような部屋である。そこの大きな机に座るスーツを着た男を前に、勇気は目を見開いたままで説教を聞いていた。ちなみに、その男はハッピーハウスに訪れた天翔に対応した男であった。彼は不機嫌極まりないという怒りの表情を浮かべて、勇気にまくしたてる。


「貴様また、まただ!! こんな問題を起こして何度目だ。暴力に加えて自殺騒動……ハッピーハウスの評価が落ちてしまうだろうが!!」


「……だ、だけど俺は……」


 勇気は口を開いて、男の言葉に返す。


「俺は……助けようとした。いじめられてたんだ鈴木は。だから止めたんだよ、いじめを。殴ったのはいじめをしてた奴らだけだ。だってのに……」


「見捨てろそんなものはッ!!」


「…………ぁ?」


 勇気は絶望の表情の上に、圧倒的疑問の表情を浮かべる。本当に、不思議で不思議でたまらないという表情だ。どうあっても、考えても、どれだけ思考を走らせても、勇気は答えを得ることが出来ない。そんな勇気の横に立って、男は言い残した。


「そんな出来損ないは死なせておけ。無視が一番だ。手を差し伸べることなど、意味のない行為。助けるなんていうのは、自己満足。お前がそんな自己満足を敢行したせいで私達は迷惑をこうむった。忌々しいことこの上ない。他人を助けることは無駄しか生まん……。お前も、迷惑をかけるのら死ね」


 そう言って、男は部屋から出た。


 残された勇気は、男の言葉の意味を考える。ゆっくりと、ゆっくりと……。そうして、辿り着いた答えに彼は絶望し、膝をついて床に頭突きをした。


「助けるのは……無駄」


 そう呟く勇気の目には、明かりの点いていない部屋の影のせいで、黒く見える涙を流していた。

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