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「堀田!」


「はい……」


「放課後、生徒指導室に寄れ」








「さて……何回目だろうな、お前の居眠りを咎めるのは」


 所変わって、学校。そこでは琴音が教室で居眠りを咎められ、生徒指導室に呼ばれていた。

 まあつまりは、さっきまでの言葉のとおりである。涼達の教師、飯田が前のように、授業中に居眠りをする琴音をしかりつけているということ。


「……悪かったな」


 飯田にいつものような言葉を受けて、琴音はすねるようにしてそっぽを向く。だが、それを飯田は許しはしなかった。彼と琴音を挟む机をバンと叩いて、彼女の顔を覗き込む。その目には、明らかな怒気があった。


「お前……ふざけているのか?」


「ぐ…………」


 低い声で、飯田は琴音のことを威圧する。それを受けて琴音は、半ば震えるようにして座ったままになる。飯田の様子から見て、この叱咤はまだ全然終わっていない様子だ。

 ……だが、飯田の怒鳴り声は琴音に対する怒りだけを含んでいる訳ではなかった。


「お前は休むということを知らんのか!?」


「……え?」


「お前はいつも、朝からそうだな。いつもいつもだるそうにして……まるで部活を終えた後のような顔をしやがって。家でしっかりと寝ているのか! 中学生は最低七時間は寝ないと駄目だぞ!」


 飯田は怒気を孕んだ顔で、琴音をそうしかりつける。彼女はそれを、恐怖と怪訝な目で見つめていた。怪訝が八割だろう。


 と、そこまで言って、怒鳴り過ぎたと思ったのか、飯田は息を吐いて生徒指導室の出口へ向かう。そうして、戸に手をかけて口を開いた。


「お前はまだ十五だ。受験か何かは知らんが、思いつめるんじゃあない。少なくとも俺の数学では、お前達が寝れる時間を作れるような教育をしているつもりだが?」


「…………」


 飯田も、琴音も動かない。静かなまま、さっきの言葉は床に落ちる。飯田の、遠まわしだが確実に聞く者に届くはずの言葉が、だ。


 しばらくしても、琴音に反応はない。このままでは仕方がないと思ってか、飯田はもう一度口を開く。


「まあ、好きにすればいい。若いのは自分で道を切り開くものだ。だが、言っておくが、知らないかもしれんから言っておくがな。一人で切り開くんじゃあないんだからな。……それじゃ、また明日に会おう」


 そうして、飯田は戸を開いて廊下に出た。










「ん、お前達」


 飯田が廊下に出ると、生徒指導室の前にはバッグを持った涼と、鼬と、マーレが立っていた。三人共、心配そうに飯田の顔を見上げている。

 だが、彼はそれに真っ向からは向かい合わない。その代わり、通り過ぎざまに三人へ、一つ言葉を残すことで応えた。


「お前達が一緒に歩いてやれ。どう考えても、無理をしているんだからな」










 飯田がいなくなってしばらく、琴音は一人、生徒指導室で黙っていた。だが、何をきっかけにしたわけではないが、戸に手をかけて外に出た。すると……


「はぁ……飯田の奴……」


「琴音ッ!」


「ほえぇっ? い、いきなりなんだよ三人共」


 外では涼達三人が待ち伏せていた。そして三人共、同時に琴音の名を大声で呼んだのだ。急な展開について行けず、思わず琴音は呆けた顔をしてしまう。

 だが、そんなことは構わないとでも言うように、三人は琴音の周りをワイワイとしながら帰路につこうとするのだった。


「いやいっつも寝てるよなお前は! そんなんで大丈夫かよ!」


「い、いや大丈夫だけどよ、鼬。急にどうし……」


「まだ涎ついてるんじゃないの?」


「ちょっ、涼! そんなわけねえじゃねえか!」


「飯田の奴に何もされなかった? あいつ、多分ああ見えてもムッツリだから」


「え……そんな心配してたのかよマーレ」


 








 少し空ぶっている気がしないでもないが、三人はちゃんと、琴音のことを気遣って励ましていたのだ。それを琴音は、それとも気付かず、満面の笑みで受け入れるのであった。


「ったく、いいけどよ……へへっ」

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