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荒療治

 太三郎の後に、勇気とララはついて行ってそのまま食堂へ連れられる。先ほどの衝撃的な発言に、まずはコーヒーを淹れてからじゃと、そう言われてきたのだ。ただ今、勇気がコーヒーを三人分、淹れている。そうしてそれを盆に乗せて、二人が座っているテーブルへ運び、椅子に座った。

 それを見止めると、太三郎はやっと口を開く。


「よし、では話すかの。今の儂の目的は、お主らの感覚器官、悟りにのみ備わっている“心眼”の扱いを……」


「待て待て待て待て待て!!」


 最初に、ついて行けないという反応を示したのは勇気である。彼は怒りでも焦りでもない、単純な、純粋なる疑問を顔に浮かべて首を振っていた。それだけ、意味が分からないのだろう。


 当然、太三郎はそれが至極当たり前かのように今、お主らと言った。お主らと言って、心眼の扱い方を教え込むといったのだ。それがどういう意味か……


 つまり、勇気を悟りとして、妖怪としてみているということだ。


「俺はいつ妖怪になった。いつ悟りになったんだ!?」


「そ、そうでなくとも……扱い方なんてものがあるのかな?」


 勇気の疑問に合わせて、座っているララも首を傾げる。彼女も太三郎の言葉を不思議に思っていた。彼女とて、今までの人生で自分が恨んでやまなかった能力を、止めることが出来るなどと言われて困惑していたのだ。

 そんな二人の飽和した疑問に、太三郎はゆっくりと応える。


「一つ一つ話す。まずは、勇気の話じゃ」


「ああ、頼むよ……」


「儂と天翔で話し合っての、お主が“はぐれ悟り”なのではないかと思ったんじゃ。つまりララのような者じゃが……それと性質が似すぎておるという結論に至ったのじゃ」


「はぐれの……?」


 思わず勇気、それにララも同時に首を傾げた。勇気はともかく、ララにとっても聞き覚えのない単語らしい。そんな二人に、冷静に太三郎は話を続ける。


「そうじゃ。親から、その能力の扱い方を教わる機会を持たず、不幸を味わってしまう子のことじゃ。ああ、心眼とはお主らの心を理解する器官の総称じゃ。色を見る、音を聞く、それは問わずにの」


 太三郎はフッと煙を吐き出し、頭を抱える。


「それで、勇気をそれと判断した理由じゃが……たまにおるのじゃよ、人の中にも異能というものを持つ者が」


「異能……?」


「漫画とか小説とかで、よく聞くワードだよ勇気。特別な力を持っている、みたいな」


 怪訝な表情をする勇気に、脇のララが説明を加える。太三郎はそれに小さく頷いた後で続けた。


「そんなものが生まれる要因が何かは分からぬ。じゃが、稀によくある、くらいの確率でその内のいくつかが儂らの血を、つまり妖怪の血を混じらせておる」


「……え、じゃあ俺はようか……!!」


「早まるでない。その可能性があるというだけ。それに、育った環境次第じゃ。妖怪も人間の中で育てば人間となるし、人間も妖怪の中で育てば妖怪となる。狼に育てられた子という話を聞いたことがあるじゃろ?」


 一瞬、底のない期待を浮かべた勇気のそれを、太三郎はぶつ切りにする。あまり期待させ過ぎないためだ。それを受けると、勇気は瞬時に気を落とし、上げかけた腰を椅子に戻した。

 それを見止めて、太三郎はまた口を開く。


「ま、ええんじゃそこは。重要なのは、今から儂がお主らにすることじゃ」


「…………?」


「荒療治をする。思わず眼を閉じたくなるほどの感情を、お主らにぶつけるんじゃ」


「…………っ!」


 太三郎の言葉に、勇気とララは顔を青くして息を飲む。それまではただただ疑問に首を傾げるのみであったが、その時ばかりは違う。太三郎のしでかすことが、恐ろしくてたまらなかったのだ。

 それを安心させようと、太三郎は声を上げる。


「安心せい。大丈夫じゃ。健康に被害が出ない程度のモノじゃ」


「いやそれ、大丈夫じゃない証拠でしょ」


「……太三郎さん。それ、本当に安全なのか?」


「うむ。お主ら以外にも悟りの面倒は見てきたことがあるが、それで大丈夫じゃった。これまで何度も見てきたことがあるわ」


 一応の結果を出していることを、太三郎は伝える。二人はそれを受けて顔を見合わせ、多少表情を緩める。が、完全にではない。全然、まだ安心しきれてはいないのだ。


「開く閉じるが自由になるんじゃ」


 おぼつかない様子の二人を、後押しするようにして太三郎が言う。煙管を口に咥えたまま、冷静な目で二人を見据えながら、だ。


「心を理解しようと思えば出来る、他人と真正面から向かい合いたいなら閉じればよい。それが自在になるんじゃ……。二人共」


「ん」


「何だ」


「フツヌシと戦った時のことを思い出すのじゃ。お主らの力、厄介に思うその力、役に立ったじゃろう? 実は、閉じること自体は簡単なんじゃ。ある薬を飲ませれば良い。じゃが、それでは閉じるだけ。二度と開くことはできない。それに、儂らのような妖怪は一生を安全なままで過ごすのはほぼ不可能じゃ。そんな中で、生き抜かねばならぬ」


 そういえば、二人は思い出す。フツヌシと戦い、逃げる際中の話だ。彼の攻撃が来る方向を理解し、先を読むことが出来た。それは悟りの能力のおかげ。いくら二人が厄介に思おうと、それは役に立つのだ。

 そして太三郎が言うには、それをオンオフの切り替えが自由にできるようになる。


「やるよ」


 勇気から。そうして、それにつられるようにララ。


「分かった」


 二人は頷いた。自分の力が思い通りに操れるようになるならば、ある程度の困難は乗り越えて見せるという決心のもとだ。何せ、乗り越えれば仲間を助けるためにその力を使うことも出来、腫瘍のように害をなすこともなくなる。受けない理由はないのだった。


 二人が頷くのを見止めると、太三郎は満足げな様子で頷き、椅子から立ち上がるのだった。


「よし。じゃ、二人共。儂についてくるんじゃ」

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