悟りの性質
「じゃあな勇気、それにララ。帰ったら、暇潰しになんかやろうぜ」
「あーねむい。枕持ってこうかしら」
「ララ、勇気を見張っておいてね? 何かしたら、髪で首を絞めてもいいから。それじゃ」
勇気とララは、制服を着こんでスクールバッグを持った涼、鼬、マーレの三人を見送った。彼ら三人は、学校へと向かうのだ。ただ今の時間は八時を回るか回らないかというくらい。中学生なのだから、このくらいに家を出る。
鼬は元気に、マーレは眠いといって目をシパシパとさせて傘を差しながら、涼は未だに黒い目で勇気を睨んでいた。そんな凸凹とした様子で、三人は外の陽光へ身を晒した。
そんな三人を見送っていた勇気とララは、彼らがいなくなるとふうと同時に息を吐く。
「はぁ……」
「どうするかなぁ」
そう、二人は今からすることに困っていた。当然、中学生の年なのだから学校に行かなくてはならないが、二人はそういう普通には当てはまらない。学校へ行っている時は休みの日が尊いものだが、二人にとってはそれが苦痛だ。休日であれば、三人も妖館にいるからいいが、今は二人……と、
「そうだ!」
「ふぇっ?」
突如、勇気は声を上げる。何かを思いついた表情だ。そんな突然の大音量に、ララは飛び上がって驚く。が、そんなことは関係ないと言うように勇気は彼女にがっつく。
「ゲームだ。ゲームをしよう」
勇気が言ったのは、ビデオゲームの方である。この間、彼が鼬に誘われてやったら異常なほどにまでハマり、数日でクリアしてしまったあっちの方。そのことを思い出したのだ。
だがまあ、当然ララは疑問を顔に浮かべる。急にゲームと言われても、という様子だ。
「え……ゲーム?」
「そうさ。二人だけでも長く暇を潰せるし、何より楽しいぞ。昼飯とかは俺が作るし……」
ララの怪訝な表情に、勇気は熱心に説明を加える。どうやら、布教をしたくなるほどにゲームが好きになってしまったらしい。
だが、彼の熱弁は途切れる。
「残念じゃが、ゲームをする時間はないんじゃよ」
太三郎の声だ。思わず、勇気とララはその声のした方向へと目を向けた。するとやはり彼が、階段を下りてきながら二人に向かってきていたのだった。手には煙管を持って、口に咥えている。
「娯楽に勤しむのもある種、勇気、お主の役目かもしれぬが……。ララが来た。お主ら二人に、やってもらわねばならぬことがある」
「……俺達に」
「やってもらうこと?」
二人は太三郎の言葉に、同時に首を傾げる。勇気の方は掃除等、やることはいっぱいあるが……ともかくそれよりも、勇気はある疑問を頭に浮かべて口にした。
「ってかそれよりもさ、太三郎さん。まだ八時だぜ? 何で起きてんだ?」
「んあ? 一般的に、このくらいに起きるのが普通じゃろうが」
「いやアンタ、いつも十二時以降に起きるじゃないか」
「…………だらしない、不摂生」
ララはボソッと、太三郎の生活ルーティンを聞いて呟く。それをしっかりと耳に捉えた太三郎は眉をひそめ、オホンと咳払いをしてから言う。
「別にいいじゃろが。その分、夜起きておる」
「いやもっと駄目だろ」
「いいんじゃよんなことは! ……っと、そうじゃなくての、今回、こんな時間に起きたのはお主らのためじゃ。さっきお主らにしてもらうことがあると言ったが、それと同じことじゃ」
太三郎は、これが本題、そう言わんばかりに先ほどまでと目の色を変えて、勇気とララに向かった。そうして煙管を口から離し、二人と同じ目線に立って告げるのだった。
「お主らの目と、耳のこと。つまり、悟りの性質のことじゃ」




