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顔合わせ3

 緊張の一瞬、そして……


「えええ、え、え、えっとぉ……私は、ララって、い、いいましゅ……」


 ララは顔を真っ赤にして、自己紹介をした。どうやら彼女にとって、他人と会うということは心が聞こえてしまうという問題の前に、もっと根本的なものがあったらしい。つまり、恥ずかしいやらの気持ちのせいでまともに話せない、と。どもりとかが発生してしまうらしい。


 それを見て、太三郎は頭を抱えた。天翔も、はぁ、と軽くため息をつくのであった。

 だが、子供達は違った。同年代ということもあって、呆れというよりも好奇心や、興味というのが先に来るのであろう。まず、鼬がララのことを見ながら思ったことは……


(か、可愛いなぁ……涼とかマーレにはない、ふわっとした可愛さがある気がする……)


 そんなことを思って、口の端をにへらっと、崩していたのだった。

 次、マーレ。彼女は緊張するララの顔や、モジモジする足や体の動きには目を向けていなかった。胸である。マーレのララを見る目は、彼女の少し大きめな胸に向かっていたのである。そうして、こんなことを思っていたのだ。


(……胸、大きい。私と涼はほとんどないし…………チッ。おっぱいに牙突き立てて吸ったらしぼまないかしら)


 随分猟奇的なことを思って、黒い目をしていたのだった。

 そうして、涼。彼女はマーレほどではないが、黒い目をしていた。それは、ララの服を見てである。頬杖をついて、こんなことを思っていた。


(……私の寝巻じゃん。何でこの子が着てるのかな……いや、勇気がああ言ってたし……)


 まあ、別に不純なことは思っていなかった。至極当然の疑問、そして納得である。鼬とマーレに比べれば随分と澄んだ色。


 そうして、その三人を赤い顔をしたまま見ていたララだが、彼女は困惑していた。彼女の目に移る、三人の心の色にバラつきがあったからだ。目をシパシパとさせて、それを確認する。だが、どうやっても色は変わらない。


(え……何。何でこの人達、こんな別々の……。憧れと、疑問と……嫉妬。嫉妬!? 私、嫉妬されるようなこと、したかな……)


 ララはマーレの感情の色を見て、思わず恐怖におびえた顔をしてしまう。敵意でなく、嫉妬とは何なのかという恐怖である。まさかいつの間にか、自分は知らぬ間に彼女を嫉妬させてしまうようなことをしたのだろうか、と。


 しかし、マーレの切り替えは早かった。とてつもない嫉妬を心に浮かべながらも、それを脇に置いてララの方へ顔を向けたのだ。


「初めまして、ララ。私はマーレ。吸血鬼。そのまんま、マーレって呼んでもらって構わないわよ。ってか、そうしなさい」


 そう言って、自分のことを示す。そんな彼女のことを見て、他の二人も動き始めた。


「俺は鼬だ。鎌鼬。そんな緊張しなくていいんだぜ? なあ涼」


「ええ、そうね。丁度この間入ってきたすごい馬鹿は、もっと最初から砕けてたわよ? あ、私は涼ね。これからよろしく」


 涼は勇気のことをすごい馬鹿と形容しながら、ララに笑いかける。ちょっとした、冗談という感じであろう。ララはそんな彼女の言葉を聞いて、そして鼬とマーレの言葉を聞いて、幾分か緊張をほどき、椅子に座る。


「あ、えっと……はい、よろしく……」


 だが、まだだ。まだ緊張が解き切れているというわけじゃなかった。未だに、顔はほのかに赤いままだ。そんな彼女を見て三人は、そんな顔はしなくていいと口を合わせて言うのだった。


 と、そうしてしばらく。三人とララが話し始め、あと少しで完全に彼女の緊張も解けるかといった時だった。脇に座っていた天翔が、口を開く。自己紹介だ。


「初めまして、ララ。私は天翔、一応、立ち位置的にはここの主だ」


「え……あ、はい。タマさんと照さんから、少しだけ話は聞いてる」


 ララは天翔の言葉に、彼のことは他の人から聞いていると言って応じる。そんな彼女の言葉を聞いて、厄介極まりないという顔をした後で、天翔は話を進める。


「そうか……全く、碌な話はしていないのだろうな。っと、そうじゃない」


「……ん?」


「鼬と、マーレと、涼はな。お前が悟りだということを、もう知っているぞ」


「…………えっ、嘘」


 天翔はこう言った。涼達は既に、ララが悟りだということを知っている、と。それを聞いて、ララは信じられないという表情で涼達を見た。


 それはどういうことか。ララは最初から、いつ言うか、いつ言うかとタイミングをうかがっていたのだ。悟りだということを知っていないだろうから、いつ、いつ自分が嫌われてしまうかもしれないことを言おうかと。だが、それは元から済んでいたというのだ。

 それに加えて、そう、それに加えてだ。涼達はララを嫌うようなそぶりは全く見せていなかった。それが、彼女にとって一番、驚愕する内容なのだった。何せ彼女は、絶対に嫌われると思っていたのだから。悟りは、私は、絶対に嫌われると。


 ララは目を驚愕に見開き、心ここにあらずという感じで口を開いた。


「なん……で? どうして、私が悟りだって知ってるのに、嫌わないの?」


 まるで、自分が忌み嫌われるのが当然かのように、彼女はそう言った。

 それに対して、涼達は顔を見合わせる。当然のことを聞かれて、おいそれ知らないのかよ、と言う前のような。そうして、そんな感じで見つめ合った後だ。涼が、まず口を開いた。


「心を読まれること如きで、何で嫌う必要があるのかしらねぇ」


 その言葉に、思わずララは反論してしまう。


「い、いや! すごい大きい事でしょ、心を読まれちゃうって。それだけで充分……」


 だが、彼女がそのまま反論を続けることはなかった。途中で、マーレが口を挟んだためである。結構な、イラついているだろう目で。


「別にそんなんどうでもいいわよ。ああ、嫌う理由というか、妬む理由はあるわね。その乳よ。ムカつく……」


「え……チチ? チチって、何の話してるの?」


 ララは乳と言われても、ハッキリと、すぐには理解できないようだった。まあそりゃあ、一般的にいきなり乳と言われておっぱいのことをすぐさま連想できるような人は少ないであろう。だが、長年の付き合いから鼬は彼女の意思を感じ取った。そして、引きつった笑みを浮かべてララがそのことについて考えるのを止める。


「ま、まあまあララ。別に、そんな大した問題じゃないんだ」


「え……でもすごい嫉妬の目……」


「い、いいんだ! 人には人のよさがあるって話だよ! 俺はない方が……何でもない。ともかく!」


 脱線しかけた自分の意識を修正し、そして、鼬はララに目を向けた。真剣な目である。


「心が読めるから、嫌いなんてのは有り得ない。お前を嫌う理由には全然ならないぜ。そりゃあ悪意を持って何かするってんなら嫌うかもしれないさ。けど、そうじゃないだろ? んなら、嫌う理由になんかならないさ、些細なことだ。安心しろよ!」


 そう言ってニカッと笑い、ドンと自分の胸を叩いて見せた。その様は、見る者の心を心底から温かくするような、そんな笑顔であった。それを受けたララは……


「い、鼬。マーレ、涼…………」


 三人の顔を、泣き顔とも笑顔ともつかないような顔で、見渡した。その表情にはどうしようもないほどに、喜びというのがあるのだった。


 同じテーブルに座っていた太三郎と天翔は、ララのそんな顔を見てアイコンタクトをする。そうして二人共、フッと笑った。互いに、満足そうな笑みである。自分達のやってきたことが、合っていたことだと確信したのだろう。子供をここまで笑わせられるのだから……。


「ありがどおおぉぉぉぉぉぉぉ―――――っ!!!!」


 顔中を涙にぬらしながら、ララは三人が座っている方向へ飛び込んでいく。その様は、金の薄い(はね)を生やした、蝶のようであった。












 尚、本日のMVPであると言える勇気は、一人薄暗い自室にて、睡眠、(もとい)、気絶しているのであった。

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