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冷たい視線

(ふぁぁ……気持ちいい……)


 バタンッ


「勇気! 来てやったわ。さて、新顔の子はどんな感じ…………」


「………………?」


 セリフだけでは分からないだろう。だから、事後ではあるが説明をば。


 勇気はララの胸に顔をうずめたまま、涼、鼬、マーレの三人を迎え入れてしまったのだ。迎えたわけではないが、備えることが出来なかったということ。ちゃんと三人が部屋に来ることを知っていれば、ララの少し大きい胸に顔を押し付け続けている、ということもなかったろう。だが、それは出来なかったのだ。


 結果として、涼を先頭として三人が入ってきたのだ。来てやった、と言ったのは涼である。彼女、そして後ろの二人も、勇気の状態を見てしまった。そうして、その声を聞いた勇気が目を覚ます。ララは深い眠りについていて、起きていなかったが……


 一瞬にして、四人に気まずい空気が流れる。三人組は邪魔してはいけないところに足を踏み入れてしまったという青を顔に、逆に勇気は、恥ずかしい現場を見られてしまった時の恥じらいの赤を、お互い浮かべていた。


「あ……あぁ……」


 勇気はララの胸に顔を挟まれながら、口をあんぐりと開けて三人の方へ目を向けた。そうして何をきっかけにしたのか、急にララから体を離そうとして口を忙しく動かし始めた。


「違う! これはこの子に言われたんだ本当に!! 決して! お前達が思っているようなことは一つも……うごっ、離れない……ぐおっ!」


「むにゃぁ……勇気ぃ……」


「ちょっ……何言って……」


 が、勇気の言葉は思惑とは真反対に働く。彼はララの腕から逃れようと首を振ったが、眠っている間のララの髪に縛り付けられたのだ。寝相、という奴だろうか。だが、そんなことは関係ない。寝言で言った、勇気、という言葉が二人の関係を誤解させたのだ。


 その誤解を信じ切った三人は、青い顔をしたまま頭を軽く下げ、静かに外へ出て行こうとする。勇気はそれに対し、一人一人声を荒げて反対したが……


「悪かったよ勇気。まさかお前が、一日の内で彼女を……」


「違うぞ鼬!! 違う違う、少し手助けをしたから距離が近くなって……」


「少しじゃこうはならないでしょ? きっと、抱きしめてたのよね」


「何言ってるんだマーレ違うぞそれは!! そんなことしない!」


「……胸に顔をうずめながら言っても……」


「涼違うって言ってるだろ! どうして信じてくれないんだぁ……」


 勇気はララの胸に顔を挟まれながら涙を流し、憂う。まあ当然、女子の胸に顔を挟まれながら何を弁明しようと、聞き入れられないのは当たり前だ。


 三人は、勇気の言い訳を背に部屋を後にしようとゆっくりと足を後ろに向けた。ララと親交を深めるのは後でも出来るだろうという考えだろう。


 だが……


「………………はっ???」


 最初に部屋に入ってきたために、最後に部屋を出ることになった涼。その彼女の視界の端に、映り込んだ。ララが自分のサイズとは合わないと言って、棚の上に置きっぱなしにしていたあの、勇気が涼の部屋から取ってきた彼女自身の下着が。


「…………鼬、マーレ」


 彼女の口は、自身が気付くこともなく勝手に動いていた。二人は訳も分からないという様子であったが、そんなのはお構いなしと言う具合で続ける。


「アンタ達は先に戻ってて。私は勇気に言わなくちゃいけないことを思い出したの」


 その彼女の目には、まるで泥沼のような闇があった。訳は分からなかったが、鼬とマーレはそれを見て本能的に危険なものを感じる。とりあえず頷いて、ララの部屋からそそくさと出て行く。


「お、おう。分かったぜ、好きにしてくれ」


「じゃ、じゃあ後で」


 涼は二人が出て行くのを見送る。勇気はそれを、二人と同じように訳が分からないという様子で、ララの胸に顔をうずめながら見ていた。

 涼はドアがギシッとなって閉まるのを見てから、勇気の目線を気にしていない様子で棚に向かって無表情で歩く。そうしながら、勇気に問いを投げた。どこまでも、平坦な声で。


「ねぇ……」


「へ、何だ? 涼……信じてくれt……」


「私の下着よね、これ?」


「……………………ーーーーーーッッッッ!!!!!」


 その時、勇気の頭に戦慄が走る。目の前で涼が自分の取ってきた下着を摘まみ、白い眼をして見てきているのだから、緊張もする。彼の体にはまるで、髪を一瞬で白にしてしまうかのようなストレスがかかった。


 そうして勇気の頭には、あることが浮かぶ。


(……隠さなければ)


「いっ、いや分かんないなぁ……」


 勇気は顔を引きつらせながら、弁明する。そうするしかない。だが……


「なわけないでしょ? 知り合ってもないその子が私の下着を盗むわけもなし、だったらアンタくらいしかいないわよね」


 至極当然、自明の理。涼は勇気がやったしかないと判断した。それを受け、勇気は……脂汗を浮かべながら、喉を震わせてこう言った。


「…………違うよ?」


 が、駄目。


「脂汗が一リットルくらい出てんのよ!!! アンタしかいないでしょうがっ!!」


 勇気の苦し紛れの言い訳、言い訳にもなっていない言葉を一瞬にして打ち下ろし、涼は勇気の額に人差し指を突き付けた。そうされた瞬間、勇気は惨めな顔をして身を縮めながら言い訳を始める。


「ちっ違う! 俺は、熱を出しているララが服を着替えた方がいいと思って、でも下着まで替えようと思ったらこいつ、持ってなかったんだ服を! 多分襲われてたから移住用の荷物をどこかに置いてきてて……だから、借りなくちゃいけないなぁって……」


「じゃ、マーレのでもよかったんじゃない?」


(そう来るのかッ!!)


 勇気の言い訳の最中で、涼は勇気に漆黒のような表情を向けて問う。借りるのだったら、マーレでもいいんではないかと。勇気はそれに、どう答えたらいいか分からない。

 そして長い沈黙の(すえ)、勇気の行きついた答えは……


「……お前を、信用しているからだ」


 キリッとした表情で、そう言い切って見せた。


 だがまあ当然……ねぇ?


「死ねボケがあああァァァーーッッ!!」


 涼はその手を握り締め、拳を作り、渾身の一撃を勇気の顔面に放った。


 その後、勇気が無事でいられたかどうかは、語るまでもない。

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