表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/222

慎重だったのに大胆(ド変態)

 さて、勇気が太三郎の話を泣く泣く受けたすぐ後。彼は涼の部屋のすぐ前に来ていた。真っ青な顔をして、息を吸って吐いての繰り返しをして緊張を解こうとしている。その手には、鍵が握られていた。太三郎からもらった、妖館のマスターキーである。勇気はそれを睨んで、深くため息を吐く。


(こんなものが無ければ……くっ)


 頭を抱えながらも、決心はつけていた。静かに、勇気はマスターキーを涼の部屋の鍵穴に差し込む。そうして、ゆっくりと回した。ガチャリ、そう鍵が開く音が鳴ると、勇気はまた体に緊張を走らせる。そして、ドアノブにゆっくりと手を乗せた。そうする勇気の首筋には、冷や汗が玉のように浮かぶ。


(よし……いくぞ)


 再び自分に言い聞かせ、ノブを下ろし、ドアを一息に開く。そうして、部屋の敷居をまたいで涼の部屋に入った。


 この日この時、神崎勇気は人生において初めて女子の部屋というのに入った。が、それは彼と皆が想像しているような、綺麗な花園ではなかった。それは、それを目に入れた勇気が一瞬にして顔をしかめてしまうほどのモノだった。どういうことかというと……


「なっ……! 涼、あいつ整頓って言葉を知らないのか……!?」


 今の勇気の言葉のとおりである。涼の部屋は、本当に整頓を知らない人間が暮らしているかのような、その程度の疑問を見る者に与えてしまうほどの散らかり具合をした部屋であったのだ。別に、汚れがあるという訳ではない。ただ、散らかっているのだ。


 勇気はそれを見て思わず、自分の感情を抑えることが出来なくなってしまった。先ほどまでためらいの意志が彼の足を止めていたというのに、今となってはそれはない。ドカドカと部屋の真ん中に立ち、誰もいないのに涼の部屋の問題点を指摘し始める。


「教科書! どうしてベッドの上に散らばっているんだ!? それに棚に入っている部分でさえも、どうして教科がそろっていない。制服! どうして脱いで脱ぎっぱなしなんだ。片づけておけよ。棚! 開きっぱなしだ。どうしてこんなことが出来る……ああもう、手を付けずにはいられない!!」


 勇気は耐えきれず、腕まくりをして作業に取り掛かり始めてしまった。つまり、涼の部屋の片づけ、掃除を開始してしまったのだ。本来の目的を忘れたわけではない。だが、倫理は忘れていただろうな。

 つまるところ彼は、個人で管理するはずの女子の部屋に勝手に入って下着を取ろうとしただけでなく、プライベートまで踏み込む可能性のある片付けという行動をしてしまったのだ。


 だが、彼はそれに自覚がない。フンスフンスと片付けをしながら、時間は過ぎ去っていくのだった……。









「ふぅ……。俺が手を付けた後を水とするなら、前はゲロだな」


 ひどい言いようではあるが、実際その通りである。勇気は涼の部屋の片付けを、およそ三十分で終えたのだった。手際よく、無駄なく。それを終えた勇気は、腰に手を当てて部屋を、自分の行動の成果を見ていたのだった。

 まるで、ホテルの一室かのように整えられているのだ。最初は乱雑な男子の部屋という感じだったのが、だ。同じ部屋とは思えない。それを確信した勇気は、満足げに息を吐く。


「これで良し、と。じゃあ、申し訳ないが服と下着をもらっていくか。いや、報酬と考えればまあまあだろ」


 急に厚かましくなり始めた勇気は、結構ためらいなく自分が整えた棚の中を漁り、必要な分の衣服と下着をたたんで外に持ち込んだ。そのまま廊下を歩き、ララの眠っている部屋へ向かう。









 そうして、勇気は当初の目的を果たした後でララの部屋まで到達した。だが、ここからである。勇気は棚の上に衣服類を置いて、息を吐きながらララの横たわっているのを見下ろす。彼女は、ひどく汗をかいて大分辛そうだった。


「……ララ。あの時、俺を助けようとして……」


 ララの深刻な状況を目にして、勇気はフツヌシに追われていた時のことを思い出す。彼女が、自分の髪を酷使して彼女自身と勇気の体を支えてくれたこと。そして、彼女が自分を奮い立たせて希望を見せてくれたこと。

 それを思い出した勇気に、最早ためらいはなかった。


「……少しでも、少しでも力に」


 勇気は元から用意しておいた冷水の入った桶に、タオルを突っ込んでそれをきつく絞る。それを手に、ララの方へと歩み寄って彼女を覆う掛布団をどかす。ララの全身が、勇気の目に入る。まだ服を着ているが、それさえも汗で濡れている。


「すまないなララ。あまり、見ないようにするから……」


 勇気は軽く断って、ララの服をサラリと脱がせる。ララの白い柔肌が、勇気の目の前に露わとなった。下着までも。それを、出来るだけ勇気は見ないようにしながら、ララの体の汗を先ほどのタオルでふき取る。肩、腕、腹、背と上から下へ。あまり手を触れないようにしながら、だ。


(拭き終わったらさっさと着替えさせて、布団をかけてやらくては。体は温めておかないと……)


 手早く全身の汗を拭きとり、勇気はタオルを冷水の桶に投げ込んでもう一度、ララの体に向かう。次は、一番重要というか、勇気にとって難関なステップだ。体を拭いて、衣服を全て取り換える。その中には下着も入っていて……脱がせる必要がある。


「………………」


 その一環にて、勇気は一度、ほんの、ほんの一瞬だけララの裸体をまじまじと見てしまう。白い肌に、少しだけ大人っぽさのある黒い下着……


(やめろっ!! ……クソ、人間の女に興味はなかったが……クソクソ! 同じものとして……見れない。……こんな気分になるのは、初めてだ)


 勇気は自然と、自分の顔が赤くなるのを感じてララの体から勢いよく視線を外して棚に手をつき、息を荒げる。冷静さを取り戻すためにそうしたのだが、それでも、彼の頭の中からはララの下着が離れない。首を強く振って、それを振り払おうとする。


(考えるな考えるなッ!! …………はぁ、はぁ……。このままでは、ララの体が冷えてしまう。さっさと、着替えさせなければ……)


 勇気は鋼の精神力でララの下着という、色濃く残っていた記憶を飛ばし、気分を変えた。そして、ララの裸に向かったのだった。








 これは、ある髪長と悟りのハーフという珍しい妖怪の少女が見ていた夢である。夢、と言うよりは、覚醒しかかっている意識で、瞼の奥に見える色をもとに頭を動かしている、とでも言ったところだろうか。ともかく、これはララの思考。


(ああ……。綺麗な色。希望そのモノみたいな、そんな。こんな色、誰が……名前、覚えてない。確か、何があったんだっけ。……こんな、黄色とも、水色とも、赤ともとれる綺麗な光を出す人。……ゆう……き。ゆうき。勇気……そう、勇気。勇気。君に……もう一度……!)


「勇気!」


「ギャアアアァァァァァーーーッ!!!」


「え……………え?」


 セリフだけで、理解できただろうか。まあ、大雑把には理解できただろう。詳しく説明する。


 ララは、覚醒しかかった瞼の奥に、勇気の心の色を見ていた。あの、彼女が快いと感じたその色を見ていたのだ。それを頼みの綱にし、彼女はただ今、ようやく目を覚ました。普通なら、もうしばらくは眠っているはずなのに、だ。正に奇跡的なことを為したのだ。一人への思いで。


 だが、その思いを向ける相手、勇気は……ララが目を覚ました時、彼女の黒いパンツを脱がしている最中であった。股を開かせて、女性が一番恥ずかしがる態勢の一つをララにとらせながら、下着を脱がしていたのだ。さっきの叫び声は勇気のモノ。まずいものを見られた時に湧いてきてしまうあれだ。当然。悪気はなし、善意のみの行動だったとしても、女子の下着を男が脱がしていたのだから。


「あ……ああ…………」


「…………あ、う……あ」


 しばらく、二人の間には沈黙が響くのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ