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気楽に

 勇気と太三郎は、ララが眠っている部屋に入って彼女がベッドの上に横たわっているのを見ていた。彼女の状態、それは傷自体は治ってはいるものの、意識を取り戻していないというものだった。それに、様子から熱を出しているようにも見える。ほおを紅潮させ、肩辺りに汗を浮かべて息を荒げているのだ。

 加えて、この事がこの話をする上で一番重要。服が汚いままだ。


 そして、太三郎はそれをしかと目に入れながら勇気に話す。顔を見ずに、ララの表情だけを見て。


「まず説明からじゃな。髪長、他の妖怪もそうなんじゃが、身の丈に合わないほどの能力を使うと体調を崩すことがある。今、ララはその状態になっておる」


「ああ、分かった」


「それと、このララの住処の話じゃ。こんな昼間の時分に、このような少女が出歩いているから気になったじゃろ」


「あ、うん。まあ、気にする余裕はあまりなかったけど、それでもやっぱり俺達と同じくらいの年なんだから、学校行ってないとおかしいからな」


「このララは、ここに移ってくる予定の子じゃった」


「えっ!?」


 思わず、勇気は声を上げて疑問を露にする。当然、そこらを通りかかって助けた妖怪の少女が、実は自分達と同じところで暮らす予定だったとは知らないのだから。勇気はそれを問いにする。


「今日、来る予定だったのか? どこから?」


「うむ。妖館は一つだけではないんじゃ。その二号店から、こ奴は移動している最中でフツヌシの奴に運悪く出くわしたのじゃろう。じゃが、お主がいてくれた。……と、余計な説明はこれ以降にするかの。今は、お主に頼みたいことの話じゃ」


 勇気は妖館が他にも合ったということに、追求を入れない。それは太三郎が早く話を進めたがっていたからだ。


 軽い説名を終えた後で、太三郎は手持無沙汰という具合の手で頭をかきながら勇気に言う。出来るだけ、彼から目を逸らすようにして、だ。何か裏がある。

 だが、勇気は目をキラキラさせてそれを聞くのだった。


「ああ、何でもするよ。俺は、ここの妖怪達に言われることなら何だって喜んでするさ」


「おお、よかった。じゃ、頼みたいことなんじゃが……」


 勇気のキラキラした目を見て、太三郎は一瞬、ニッと口元に笑みを浮かべる。どう考えても、悪だくみをしている人間の顔。その顔のまま、彼は言った。


「ララの服、及び下着を代えてやってほしいのじゃよ。こ奴の分は用意しとらんかったから、涼やマーレの服や下着から取っての」


 ……………………沈黙


「はっ!!!?」


 凍り付くような沈黙の後で、勇気は表情を一変させて声を上げる。顔が恥ずかしさで真っ赤だ。太三郎の言ったことの意味が、全然分からなかったのだろう。言葉は理解できても、その意が。

 それに対して、太三郎はあきれ顔をしながら付け足す。


「いやじゃから、こ奴の分の衣服など用意しとらんかったんじゃよ。それに、汗かいとるしの。あと服にお主のと思われる血もついとる。ガラス片もしばしば」


「いいいいいやいやいや!! チッ違うだろ? 問題はそこじゃないだろ?」


 勇気は声を震わせながらそう言う。そして、一つ目に付いた点を上げ、太三郎の頼みから自分を遠ざけようとする。


「そうだ! 前みたいに、煙草とか煙管とか吸って、煙で服も直せばいいじゃんか! それだったら、そんなことをする必要も……」


 だが、現実は非情。


「今、在庫がなくての。残念じゃが、お主らの傷を治す分でなくなってしまったわ」


 太三郎は肩をすくめて首を振り、なんとも簡単にそう言って見せる。だが、勇気の執念もそれでは終わらない。まだまだ自分がこれをしなくてもいい理由を探して挙げる。


「だったら、俺が下着一式と服一式、買いに行けば……」


「駄目じゃ。分かっておるじゃろ、フツヌシ、そしてそれ以外にも危険はあるんじゃ」


「じゃあ太三郎さんが……」


「儂は煙管やらが無ければ戦えん。戦えなくもないが、素手じゃとフツヌシ相手に万一があるからの」


「じゃっじゃあ、ララに毛布にくるまるだけで満足してもらうとか……」


「年頃の女子(おなご)に素っ裸で眠っておれと言うのか? お主も酷なことを言うのう」


「うあっぐ、じゃあ太三郎さんが涼達の下着を取ってきて……」


「あ奴らにしてみても、儂に見られるよりお主の方がマシじゃろうて、のう?」


「……ララに髪で自分を巻いてもらって……」


「さっきもほぼ同じことを言ったし、それにララは能力を酷使した後じゃ。しばらくは安静にしとかなくてはならん」


「あぐ、うぅ…………」


 しばらく、勇気と太三郎は言い合いを続けていた。が、勝負は明確だった。勇気はドンドンと、自分がやるしかないような状況に追い込まれていく。実際は、言うほどそうでもないのだが……今の言い合いの状況で、そう見えてしまっているのだ。彼は肩と膝をガクンと落として、その場に崩れ落ちる。

 そんな勇気に、太三郎が彼の頭をさすりながらとどめの一言。


「さっきお主は、儂らに頼まれることならなんでも喜んでやると、そう言ったじゃろ? 儂はお主を、信用しておる。ま、気楽にの?」


 ニコ~……っと、太三郎は柔らかい笑みを浮かべて勇気にそう言った。それを片目に入れてしまうと、勇気はもう何も言えなくなってしまう。その代わりに首をうなだれ、涙目になって憂うのだった。


(さっきとは、全然頭をさすられる感覚が違う……ううっ)

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