武神との戦い1
ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。
違和感を感じられたかと思いますが、この武神との戦い1、二つ存在してしまっています。消そうとも思いましたが、これが消せないということで……
ですので、この場所にて注意喚起しようと思い立った次第です。
この武神との戦い1は、前回と全く同じ内容となります。武神との戦い2に読み進めてもらって大丈夫です。
ご迷惑をかけること、本当に申し訳なく思います。すいませんでした
勇気はフツヌシに相対して焦りながらも、落ち着いていた。それは、一応はフツヌシの持つ刀に対する対応を思いついていたからだ。それは彼のすぐ背後に落ちている鍋だ。拾って受けさえすれば、破壊はされるだろうが一撃は受けられる。
そう確信を得ていた勇気は、ゆっくりと頭で考えた後、口を動かす。
「そういえば」
「あ、何だ? 辞世の句でも言うつもりか」
フツヌシは敵意のこもった言葉を、刀を手に持ったままで放つ。だが、勇気はそれを意に介さずに、あくまで思い出す素振りをして話を続ける。
「お前は、理由があってこんなことをしているんだよな」
「……ああ。この世を……」
「奥さんと、息子だか娘だかを殺されたらしいな」
「………………貴様……!!」
勇気の言葉に、フツヌシは目を見開いて怒りをあらわにする。否、それはただの怒気ではない。嫌悪と怒気、そしてどこまでも届かず、深い深い悲しみと……
(罪悪感。それに自分に対する嫌悪感? 分からない……)
勇気は耳に突き刺さる嫌な音に顔をしかめながらも、それをしっかりと捉える。それは、彼の作戦のためだ。勇気はフツヌシの心の内を耳で聞きながら、また口を開く。
「煽ってる訳じゃない。ただ、お前と話し合いたいんだ」
「…………ああ? 言ってみろよ」
「……確か、お前の妻と子供は妖怪と、それに自殺した人間達に殺されたらしいな。……悲しいことだ。だが、俺は思うんだ。妖怪には理由があったんじゃないかって。だから……」
勇気は自分の首を親指でかき切る仕草を取って、フツヌシに言い放つ。他の誰もが、普通は言わないだろう、考えもしないような狂気の一言を。
「俺の首は切ってもいい。人間も好きにしていいだが! そこの妖怪には手を出さないでくれ」
「な、何言ってるの、勇気は……!?」
ララは逃げ込んだ部屋の角で、聞き耳を立てている最中に聞こえてきた狂っているとしか思えない勇気の言葉に驚愕する。彼が言ったのはつまり、彼自身の身と引き換えにララのことを救うということだ。そんなのは、助けられる側はたまったものではない。
それに、ララは既に勇気へ特別な感情を抱いていた。
(そんな、嫌……初めて、初めて……綺麗な色を見せてくれた人なのに!)
彼女は悟り。悟りという妖怪だ。それは、人の心を把握することが出来るという能力を持った妖怪。その心を把握するという形は悟りそれぞれ。彼女は、人の後ろから輝くように見える色を見て相手の感情を把握することが出来た。
ララは勇気に手を引っ張られながら、彼の背を見上げた時のことを思い出す。勇気の背からは、滝の奥から光が差すような色が発されていた。その色を思い出して、彼女は義務感に駆られる。絶対に、彼を助けなければならないという義務感だ。
「助けないと……勇気を、助けないと」
彼女はそう思い至ると、自分の髪を束ねていた櫛を手に取って外す。すると、彼女の長い長い金色の髪が、流れる池に手を差し込んだ時にキラキラと輝くように辺りに広がる。そして、それを頭の感覚でしかと確認すると、ララは目を閉じて念じた。
(お願い……少なくとも、今だけは。今だけは言うことを聞いて……!)
「自分の命を引き換えに、だと?」
フツヌシはまたも、度肝を抜かれることを勇気に言われて目を見開く。彼は、勇気の言っていることの真意を全然、一縷でさえも理解することが出来なかった。普通、そうだ。理解できるはずもない。自身の身を引き換えに、他を救うなど。
フツヌシは一度息を深く吸って、それを吐いて……軽蔑する目を勇気に向ける。
「お前は……賢人ではないな」
「何?」
「賢人というのは、本当に、自分がしたいことをしても、それが道理を外れない。他のためを思った行動になってしまうような人間のことだ。だがな、お前は一番の道理を外している」
そう言い切って、また口を開く。だが次は口だけでなく、足も動かした。勇気の方へ、刀を引きながら踏み込んだのだ。
「己が命を大切にするという、一番の道理をだ、この愚か者め!!」
フツヌシは圧倒的なまでの怒気を持って、勇気の方へと一息に近付いた。刀に力を込めて、この一撃にて全てを終わらせるという気迫だ。それを目の前にした勇気は、目を見開いて眼前の情景をすぐに把握し、舌打ちをする。
(チッ、やっぱり駄目か!)
自分の作戦が失敗するだろうと思っていた勇気には、心構えは出来ていた。そのために、すぐ行動を起こす。
足を一歩後ろにやって、目を付けていた鍋の取っ手に足を引っかける。そして、自分の目の前までそれを蹴り上げて手に持った。次はフツヌシの心、思考の音に耳を傾ける。どこから攻撃が来るかというのを把握するためだ。
(上段から首にめがけて……振り下ろし!)
勇気は態勢を低くし、鍋を持ち上げて迫ってくるフツヌシの刀を鍋で受ける。嫌な金属音が部屋の中に鳴り響いて、鍋が刀に両断される。
「チッ、面倒なことを!」
「っ…………」
勇気はフツヌシが鍋で防御を取ったことに驚くその隙を突いて、彼から距離を取る。
「だが寿命が少し伸びただけだぞ」
勇気が自分から距離を取ったことに対して、フツヌシはゆっくりと彼の方へと振り返りながらそう言い放つ。その言葉を受けた勇気は、相対し始めてからずっと浮かべていた冷や汗を、脂汗へと変える。焦りが彼の頭を支配し始めたのだ。
そうしながらも、勇気は思考を止めない。
(クソが……話で時間を稼いでいる最中に何かしらの策を立てられると思ったが……全然だ。どうにか出来るのか? 時間を稼げるなら……)
だが、彼がちゃんとした策を立てるまでの時間はなかった。フツヌシがもう一度、攻撃の態勢へと入ったのだ。
「愚かな奴。死ねッ!」
刀を振り上げ、また勇気へ一撃が放たれる。勇気はそれを、思考を読んで躱す。無駄なく、完璧に。一歩足を引くだけで、刀が目の前を通り抜けるほどのスレスレを無駄なく、だ。そしてんなやり取りを、幾重にも結ぶ。
だが、身体能力の差というのはどうしても存在する。勇気も体力がある方ではあったが、普段から刀を振り回しているフツヌシには敵わない。回避を続けている最中で、勇気の体に汗が浮かび、足の動きが鈍くなってくる。そしてそれは……
「あっ……!」
大失敗となって、現れた。勇気は後ろに一歩引いたところで、転んでしまったのだ。頭から転ぶということはなかったものの、フツヌシが彼に一撃を加えるには充分過ぎる隙。
「死んだな、違えた人間」
フツヌシは最後だと思い、静かに刀を振り上げて勇気に迫った。そうして、とどめを刺そうとその切っ先を、倒れている勇気の額に向かわせる。
(くっ……ここまで、か。ララ、逃げて……)
そうして勇気が、頭の中で辞世の句を詠み始めた時だ。
バタンッ
扉が開く音。それが勇気とフツヌシの耳に入って来た。二人は同時に身を固まらせ、すぐに音のした方向へと目を向けた。そうして、次に彼らの意識の中に入って来たもの……
それは星が輝くように流れ、広がり、煌めいて部屋を覆ったのだった。




