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妖怪と人間、その間

「よぉ、人間共を助けてる、クソみたいな奴らの一員だぜ」


 勇気と鼬を通りの前と後ろから取り囲む男達の一人が、声を上げた。二十歳かその程度の彼らはいやらしい表情とも、恨みを持っているとも取れる表情をしながら、鼬に顔を向けている。勇気はほとんど、眼中に入っていないというような感じだ。

 そのまま、彼らは懐に手を突っ込む。そして、それをまた引っ張り出すときには片手に持てる程度の小さいナイフをそれぞれが持った。


「やる気なのかよ」


 鼬が刀を持ったまま、真剣な表情をして男達に問う。勇気は鼬と背を合わせながら、周りの様子と、心の音に耳を澄ませる。


(こいつらは俺達に敵意を持ってる……。特に鼬だ。どうしてだか分からないが、ともかく俺は出来るだけ鼬の邪魔にならないよう、手助け出来るよう動けばいい)


「やる気ぃ? ったり前だろうよ。善人気取って、そんなクズ共助けてんの見てて腹立たない訳ねえもんな……」


 男達はナイフを持つ手にしかと力を入れる。その行動から、勇気は耳に頼らなくても彼らの敵意をハッキリと自覚する。危険だろう。それでも、少し気になって問いを投げてしまう。


「鼬……。こいつらは何だ」


「……ああ、名無しって呼ばれている妖怪。それだけ言っておく。今は……」


「妖怪? こいつらが……」


 勇気は鼬の言葉に、目を見開いて驚く。

 なぜ彼は驚いたか、それは男達が妖怪だと知ったからだ。口ぶりからして、人間ではないことは分かり切っていた。だが、勇気は彼らのことを妖怪だとは思っていなかったのだ。それは彼の心の中で、妖怪とは心の澄んだ生き物と、そういう評価をしていたからであった。勇気はそれを知って、ある種のショック症状に陥る。


(こいつらが……こんな悪意を持つ奴が妖怪……。い、いや、モノによるってことだろう。人間にも一人だけ、まともな奴はいたし……)


 勇気は軽く頭を抱えて、自分にそう言い聞かせた。そうしないと、立てなかったのだ。


「よー人間」


「……ん?」


 勇気が頭を抱えていると、男達の一人が勇気に声をかける。勇気はその声に顔を上げて、チラとそちらを向く。声を発したと思われる男は、恨めしくてたまらないと言うような表情をして勇気を睨んでいた。そのままで、口を開く。


「テメエは……妖怪ってのにどういう印象を持ってるよ、ん?」


「どうって……今は、美しくてたまらないものだと思ってるが」


「……ああ、そっちか。テメエはきっと、創作やらで昇華されてる妖怪を見てそう言ったんだろうな」


「は? ちげえ……」


「黙ってろクソ人間がっ!!」


 勇気が抗議の意を口にしようとしたのを、男が怒号を上げて塞ぐ。そうして、そのまま語り始める。


「なあ、いるだろ? ゲームや、小説、漫画……。そん中でよぉ、キラキラした主人公って奴に踏みつぶされる妖怪がよぉ」


「……ああ、ごめん。漫画も小説も読んだことないし、ゲームやったことないんだが」


「…………え?」


 当然、知っているだろうと思って名無し達は話をした。が、勇気は生を受けて以来、娯楽やらをほとんどたしなんだことがない。だから、名無し達の言っていることがよく分からなかったのだ。


 名無しは例え話をして、襲い掛かる予定だった。いや、分からないがそうだろう。きっと、恨みの理由を話してから、それをぶつけるつもりだったのだ。だが、予想もしない要因によって、それが邪魔されてしまう。


「あ、え、あ……知らないの? ゲーム、やったことないの?」


 つい、名無しの一人が問う。それに、勇気は素直に頷いた。


「ああ、まったく」


「…………」


 名無しと、勇気と、鼬の間に気まずい空気が流れる。どうも、さっきまでの空気を取り戻せる状況ではない。話が詰まってしまった。


 だがしばらくして、名無し達は自分達がここに来た理由を思い出す。


「……も、もういいっ! とりあえずぶっ殺すっ!!」


 顔を真っ赤にしながら、六人の名無し達はその手に持った得物を振りかぶって勇気と鼬に飛び掛かるのだった。その顔の赤は恥ずかしさからか、怒りからか……きっと両方だろう。

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