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敵意

「買った買った~! 勇気、帰ったら即開封からの即プレイだ!」


「ふっ、分かったよ」


 勇気と鼬はゲームを買い終えた。鼬の手には青い袋、ゲームの箱が入れられている物がある。それを持ったまま彼は、ルンルン気分で人気のない通りを歩いているのだ。スキップを踏んで、鼻歌を歌って……随分と幸せそうな様子である。


 だが、二人の間で特筆するのは鼬だけではない。寧ろ勇気の方、彼は鼬の幸せそうに歩くのを、もっと幸せそうな様子で眺めていたのだ。


(ああ、俺はまた一つ、こんな良い奴らのために役に立てたんだ……嬉しい)


 顔を赤くして、自分の肩を抱き寄せるその様はまるで恋愛対象を見ているかのような表情。だが、まあお分かりの通り二人はそんな関係ではない。

 だが、ただの友人の関係であっても、勇気はそういう風に感じてしまうのだった。友人というだけではなく、役に立ててよかった、と。決して、一緒にゲームを買いに行けて楽しいとは思わない。


 彼の問題についてはまた語ろう。今は……勇気の耳に、異音が入る。


(ん、この音……何だ? ……敵意?)


 幸福そうな表情を顔から飛ばして、勇気は真剣な表情をする。彼の耳に入ったのは、安全な音ではなかった。敵意、またそれに準ずる悪意。だが、ノイズが走るようなその音に勇気は顔をしかめる。


(人間じゃない? それに、別々の方向から複数、一か所に……ここに向かって来てる!?)


「鼬!」


 勇気は悪意が自分達に近付いてきていることに気付くと、ルンルン気分で先を歩く彼の背に声をかけた。すると、すぐにその声色に異常を感じたのか、鼬は勇気へ振り向く。


「ん……どうした、勇気。何かあったのか?」


「いや、何かあったというより……何かが近付いてきてる。人間じゃない、悪意の音が周りから複数……六個」


「人間じゃない悪意? ……妖怪、か。勇気、俺のそばに来てくれ」


「あ、ああ……」


 勇気の言葉を聞いて、妖怪とつぶやいた鼬は緩んだ顔を吹き飛ばして一気に真面目な顔になり、勇気をそばに寄せる。そうして、持っていた袋を勇気に手渡して、自分は懐から二つ、ものを取り出す。勇気はそれを目の端に入れて、つい疑問を口にする。


「煙草に……ライター?」


 鼬は懐から、煙草とライターを取り出して一服するようにそれを口に咥えて火を点けていたのだ。そうしながらも、鼬は勇気の疑問に応えてやる。


「ああ、そうだぜ……。まあつっても、吸うことが目的じゃなくってな……すぅーっ、ふはぁ~……」


 煙草から息を吸って、煙を吐く。そうすると、その煙は天上へ昇ることなく、鼬の目の前にとどまった。勇気はその不思議な現象に、ただ目を一度も瞬かずに見る。

 煙が目の前に漂うままになったのを見止めると、鼬は手早く煙草の火を消して懐に突っ込み、ライターもしまう。そして、目の前にとどまる煙の中に手を突っ込んだ。そうしてすぐ、手を引く。すると、煙に突っ込んだ鼬の手には……


「え、なんだそれ」


「へっ、鎌鼬だからって、鎌を使うようじゃ時代遅れなんだぜ?」


 鼬の手には、刀が握られていた。二人の身長の半分ほどの長さで、真っ黒い漆塗りの鞘に覆われたそれを、鼬は煙の中から取り出したのだった。勇気はそれを見たすぐ後に、疑問を口にする。彼でなくともそうしただろう。当然、さっきも言ったが鼬は煙の中から刀を作り出したのだから。


「い、いやそうじゃなくてよ。煙草から出した煙の中から刀を取り出すなんてありえないだろ。え、鎌鼬ってそんなことが出来るのか?」


「出来ない出来ない! これは太三郎さんの力だよ」


「え、あの人の……? あ、そういやぁ煙草」


 勇気は太三郎の力だと言われて、そういえば鼬が煙草を咥えて煙を吐き出したのを思い出し、それを太三郎が煙管から煙を吐き出すのと重ねた。その、納得したような表情を見て取ってか、鼬が説明を加える。


「そうさ。あの人は、煙と煙を発生させるものに仕込みが出来るって力を持ってんだ。変化もさせられる。んで今回は、この煙草」


 鼬はさっきの煙草をしまったところのポケットを示す。


「この煙草に、煙を発生させたら刀になるって仕込みをしてもらってたんだよ」


「へぇ……すごいな。っていうか、有能過ぎじゃないか、あの人。俺の治療とかもしてもらったしよ」


「ま、そうだよな。太三郎さんは、優秀過ぎるんだよなぁ~……っと、そうじゃなくてな」


 他愛のないやり取りをしている最中で、鼬は思い出して緩んでいた表情を引き締める。そして彼の表情と、もう一つの物事を見て勇気も真剣な顔になる。もう一つの物事とは、鼬が刀を持っていること、だ。


 どうあれ、鼬は刀を持たなければならない状況だと踏んだのだ。そして諸君もよく分かっているとは思うが、刀とは物騒なことに使うもの。つまり、危険な状態なのだ。どんな芸当をしたところで、隠せない。

 それに、耳からも感じていた。悪意が、自分達のすぐ前と後ろに迫ってきていたのだ。


「よーっ!! 妖館さんとこの……えっと、鎌鼬、だよなぁ!」


 勇気の耳が心の音を捉えてすぐ、それは実質の音として姿を現した。挑発的な声を、その悪意を持つ人外が放ったのだ。


 勇気と鼬は、前方と後方を複数人に囲まれていた。彼らを囲んでいたのはどれも、凶悪そうな面をした男達だった

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