勇気の耳
勇気、そして鼬は妖館を出てしばらく歩いた。当初の目的の通り、ツタヤに向かってゲームの新作を買うために。
そして、二人は開店前のツタヤに辿り着くことが出来た。今は二人で開店するのを待っている最中。二人の周りには、他にも開店を待つ者達がいた。それを目の端に入れながら、鼬は口を開く。
「勇気、開店したらダッシュだぜ、ダッシュ。周りの奴らも、テイルスを狙ってるかもしれないからな」
「あ、ああ……分かったよ」
「……ん? どした。調子……悪そうだぜ」
鼬の言葉に応えた勇気の声は、随分と調子が低かった。それに疑問を覚えた鼬は勇気の方へチラと目を向ける。見てみれば、勇気の顔は随分と青い。冷や汗を浮かべて、軽く肩が震えているようにも見える。傍から見れば、少し吐き気を覚えているようにも取れる。
「ああ……今日、随分と調子がいいんだ」
「…………へ? 調子が良くって……」
「ああ、すまん。ここの調子、な」
自分の言葉に疑問を覚えた鼬の顔を見て、勇気は説明を加えようと己の耳をトントンと示す。
そうだ、この日の勇気の耳の調子、つまり心の声の聞こえ具合は結構よかった。具合が良い、調子が良いと言うとさもいいことのようにも思えるが、実のところはその真反対。勇気にとっては、雑音が常に耳に入っているようなものなのだから。
その意をすぐに理解した鼬は、委縮する。当然、彼が勇気を外に連れ出したのだから、ある程度の罪悪感を覚えてしまうのは当たり前だ。すぐに、鼬は軽く頭を下げて言う。
「わ、悪い。その……俺が連れ出しちまったせいで……」
「いや、そうじゃねえよ鼬。調子がいいから、聞こえちまうんだ。仕方ないこと。それに、俺はお前の提案を受け入れてただろ? こうなることは大体わかってたが、それでも、だ。お前が悪く思う必要はない」
「ん~……つってもな」
「いいんだよ。あ、少し早歩きで帰るくらいはしてもらっていいか?」
「あ、おう。全然大丈夫だぜ!」
勇気は空気を読んで、軽い頼みごとをした。少しでも鼬の気を軽くしようとしてのことだ。そしてそれはうまくいったらしく、鼬はドンと胸を叩いた。
それから、二人は開店の時間まで軽い小話をして時間を潰す。そうして店が開いた直後、二人は走り出してゲームを買いに行った。そうする勇気の表情、そして素振りはまるで、普通の人間のようなのであった。




