琴音
「一つ屋根の下ってどういうことだよ~涼、マーレぇ~」
涼とマーレは後ろに友人の少女を引っ提げて通りを歩いていた。その少女は、二人の肩に捕まって引きずられるようにしていたのだった。目には好奇心の光がキラキラ。こうなってかれこれ、十分ほどだ。二人はそれに対し、頑張って無反応を貫こうとしていた。が、表情が引きつってしまう。
友人のしつこさに耐えられなくなったのか、涼は歩みを止めて振り返る。
「んぐぅ……うるさいわよ、琴音。いい加減にしてよ」
「……そうね、言わないって言ってるでしょ」
涼の反発に乗って、マーレも歩みを止める。その二人の軽い注意に、友人の琴音はええっと、駄々をこねるような声を上げた。そうしながらも、三人はまた歩を進め始める。
琴音。涼とマーレの友人である彼女は、二人に負けず劣らずの尖った様相をしている。髪の毛に紫のメッシュを入れているのだ。それにヘッドホンを首にかけ……大分、やっちまってる系の少女である。
そんな彼女は、涼とマーレの話を盗み聞きしていた。公園で話していた、勇気の話である。その最後辺りでマーレが言った一言、まあ一つ屋根の下で暮らす上じゃ困らない、という発言が彼女の興味を引いてしまったのだ。
「既にお前達二人と鼬の奴が一緒に暮らしてるってことに楽しそうだなって嫉妬してるのに、これまたもう一人……ずるいぜ!」
涼とマーレは、琴音の言葉を受けてやれやれと目配せをする。
そう、琴音は二人と相当距離の近い友人であった。親友と言って差し支えない。そしてある程度の付き合いを持ってくると、やはり遊びだったり関係だったりでボロが出てくる。
「いくら孤児院だからって……まあ、その状況を羨ましがるのがクソ野郎だってのは分かってるけどよ~」
涼とマーレは自分らが一緒に暮らしている状況のことを、孤児院にいるからという理由で説明していた。琴音もそれを了解しているからか、ある程度退いてブーブーと鳴くのだった。だがまあ、それにしたって失礼だが。しかし、琴音には全然悪気はない。ある理由があって、本当に涼とマーレのことを羨ましいと思っているのだ。そしてそれを二人も了解しており、彼女の言った失礼を軽くため息を吐く程度で許す。そんなことが出来る程度には、三人の仲は良い。
しかし、これ以上この話題を長引かせるわけにもいかないとマーレが声を上げる。
「ま、いいわよ別に。気にしてないから」
「あっそ? そんなら、そいつについて教えて……」
「それは駄目。知ったらどうせ、会いたいとか言うんでしょ?」
涼がため息をついてそう言う。彼女の言った通り、琴音にはそのつもりが満々だったらしく、ニカッと笑ってバレたか、と自分の頭を軽く叩く。
そんな琴音を見て、またもマーレは息を吐く。そうして、さっきからずっと、思っていたことを口にする。
「さ、こんなくだらない話題で、私は時間を潰したくないんだけど。せっかく集まれたんだし、ちゃんと楽しみましょ?」
そんなマーレの水を差すような言葉を受けて、涼と琴音は顔を見合わせる。だが、それは文句を言いたげにとか、戸惑ってではない。確かにという意志を、互いに確認し合った感じだ。それを終えると、二人は口を開いて賛成の意を示す。
「そうね」
「そーだなっ」
二人のそれを見て、マーレも頷く。そうして三人で、歩き続けて辿り着いた場所、目の前の建物を見上げた。華美でない、ただのせまっ苦しい小さなビル。それの三階と四階には、カラオケ屋という看板があった。
目的地をしかと目に入れた三人は、顔を見合わせて元気に声を上げた。
「少なくとも4時間はぶっ通しで歌ってやるわっ!!」
「フッ、喉が枯れるまで歌ってやるわ」
「点数バトルで負けた奴の奢りなッ!!」
……セリフは涼、マーレ、琴音の順だ。三人とも、仲が良いにもかかわらずバラバラの文言を吐いているのだった。三人がこの後、気まずい雰囲気でカラオケ屋に入ったのは言うまでもない。
だがそこには、普通の女子の楽しみ、営みというのがあった。妖怪と、人との間に関わらず。




