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人の友達

「遅いわね……」


「全くよ。あいつ、何をやっているのやら……」


 涼、そしてマーレは人気(ひとけ)があるようで無い公園のベンチに、二人並んで座って不機嫌な顔をしていた。二人共、厚手の服を着こんでいる。涼は勇気と初めて会った時と同じのコートを纏っていた。マーレは鼬の話通り、傘を差している。随分な可愛らしい装飾のある布が張られた日傘だ。


 まあそんなこととは関係なく、彼女らは暇潰し代わりに適当な、他愛のない話をする。


「は~……。寒。こんな時間によくも待たせてくれるわね……」


「っていうか、涼。別に待ち合わせの十分前に来る必要なんてなかったんじゃない?」


「え、そう? 普通、待ち合わせには少し前の時間に来ておくモノでしょ」


「有り得ない有り得ない。寧ろ四十分遅れるまでなら誤差よ誤差」


「えっ何? 吸血鬼だからって、昼間に寝ぼけてんの?」


「……何、この間の仕返し?」


「そゆこと。と言うか、普通に待ち合わせの四十分後は有り得ないでしょ。まあ、今は時間ちょっと前だけど……」


 涼はベンチの背もたれに深く寄り掛かってため息を吐く。その息は冬の冷えた空気に、白い足音を立てて消え去っていく。それを二人は見送りながら、また深くため息を吐く。そして、一度にこう言うのだった。


「もう少し遅く来ればよかった」


 涼も、そう口にする。待ち合わせ時間より早く来た弊害だ。二人が待っている人間は、遅れてきている訳ではないモノの、早く来た二人にとってすれば待ち時間が長くなるということ。


 一人であれば完全に遅れる気満々であったマーレは、ジト目で涼を睨む。


「それもこれも涼。アンタが待ち時間より早く行こうとか言い出すからよ」


「ふ、普通だから! そっちが普通! アンタが異常!」


「はいはい、分かったわよ。ああ、日差しが辛いわ~。アンタのせいで長い間日中に晒されて辛いわ~」


「ぐぅ……」


 マーレはわざとらしく額に手の甲を当て、声を上げる。それを耳に入れると、どうしても涼は抵抗しづらくなってしまう。

 マーレが吸血鬼で、彼女の言葉が本当だからだ。実際、今は余裕がある。傘もあるし、時間もまだまだ。だが確かに、日のあるところにはずっといさせてはいけないのだ。それを理解していた涼は、マーレに強く反発できない。


 二人の間に、沈黙が広がる。涼の方は更に口を開きづらい。だが……


「ねえ、涼」


 マーレが沈黙を破る。さっきのクソのような冗談を言った時とは打って変わって、神妙。声にもそれが現れている。それを察してか、涼もマーレの方へ目を向けて話を聞こうとする。


「どうしたの、マーレ」


「勇気のこと、どう見る?」


 マーレは傘をクルクルと手で回して遊びながら、語りだす。


「ここ一週間くらい一緒に過ごしてきて、一応、私は勇気を悪い奴ではないと判断したわ。収監所送りにされる奴より、全然。打って変わってって感じよ。真反対。他人の役に積極的に立とうとするし……」


「そうね。それに自分に自信満々って感じだし。人間ってこと以外で」


「そう、だけどね。悪い奴じゃなくても、私は勇気を気持ち悪い奴だと思った」


 急に、マーレは妙なことを言い出した。それについ、涼は眉をひそめる。悪い奴じゃない、つまり良い奴だと思っていると取れるが、気持ち悪いとは?

 マーレは説明を加えようと口を開く。


「勇気は間違いなく、良い奴なのよ。でも、何かがズレてる」


「それは……極端に、人間に対して差別的な目を向けてるってことかしら?」


「まあ間違いなくそこもそうなんだけどね。けど、違う。勇気は自分を大切だと思ってないんじゃないかしら」


「え? でもさっき、自分に自信満々だって話を……」


「違うのよ、多分。自分に誇りこそ持っていても、価値がないと思ってる。……いいや? 価値があるとは思っているのかしら……。あるいは、ある程度以上の価値があるなら、自分の命を引き換えにすることがためらいなく出来る……」


 マーレは熟考する。自分のことを真剣な目で見る涼のことがまるで目に入っていないようだ。傘を持つ手はいつの間にそれを回転させるのをやめて、しかと握りしめられている。目は静かに、息は白く吐かれた。


 そうしてしばらく、


「分っかんない!」


「…………はへ?」


 マーレは全身を伸ばしてそう叫んだ。涼は思わず、呆けた声を上げてマーレの横顔を見つめてしまう。その視線を感じ取ってか、マーレは体を伸ばすのをやめて背もたれに寄り掛かり、傘をちゃんと握りなおして口を開く。


「いやもう、分かんない。どうでもいいわ~つって」


「え、えぇ……? 今、核心に迫ろうとしてたじゃない」


「いいのよ、そういうのは太三郎さん達に任せれば。私達は、勇気が自分の問題と向き合えるように、仲良くしてやるってこと。まあさ、一つ屋根の下で暮らす上で、あいつの問題は影響ないってかいい影響だけだから、別に今はいいでしょ?」


「うっわ……最悪ね」


 マーレは途中から、いつもの熱がないような感じになって諦観の念を涼に表明する。それを受けた彼女は何とも言えず、呆れた感情を持ってしまう。それにされるがまま、深くため息を吐いた。

 涼の口から出たその白い吐息は、解けず、まるで小さい疑問が頭の隅に残るように、そこに居座った。


 と、その時だった。


「一つ……屋根の下?」


 涼とマーレの背後から、そう声がした。それは二人にとって、聞き覚えがある声だった。

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