報告、そして話し合い
勇気達の勉強会は、涼が離脱したことによってそのまま分解、解散となった。これはそのしばらく後……
「ただいま」
天翔は妖館の玄関をくぐり、息を吐く。
「早い帰りじゃの」
彼のそのため息に、建物の中に立っていた人影が反応する。太三郎だ。彼は玄関のすぐ前のエントランスに、煙管を吸いながら立っていた。その様子から、天翔の帰りを待っていたのは明らか。
そうして太三郎は天翔が帰ってくるとすぐ、こちらへ来いと手で示す。
「さ、成果はあったのか、ゆっくりと聞かせてくれんか」
「ああ、分かってるさ」
天翔も太三郎の意図はすでに理解していたのか、すぐに頷き、彼が奥の廊下へ進んでいくのについてくのだった。
「簡単に言って、一応成果はあった」
妖館の一番奥、天翔の部屋。そこは勇気や他の住人達の部屋とは違い、いくらか豪華な様相のあるものだ。クラシックな雰囲気のある、金持ちの一部屋と言うと分かりやすいだろうか。
その部屋の真ん中あたりで太三郎と天翔は向き合っていた。小さく背の低いテーブルを挟み、ソファに座って。
どちらも神妙な顔つきをしている。そう、今の二人の話題は先に語った天翔が勇気の孤児院へ赴いたことの話。自殺した人間のことを探っている話とあれば、空気が真剣になるのも当然。
「成果はあった。だが、勇気自体を支えることが出来るような成果はなかったよ」
「ふむ……そうか」
天翔の言葉に、太三郎は顎に手を添えて考える素振りをして応える。
「となると……あ奴自身の問題に、関係する情報は得られたのかの」
「ああ……。あいつはどうも、まずい環境で育ってきたらしいな」
天翔は足を組みなおし、息を吐く。そうして思い出すことはやはり、ハッピーハウスという孤児院にいたあの男のこと。彼が言った言葉、態度、全てを。それが頭の中をよぎった天翔は、顔をしかめる。不愉快だと感じたのだ。
「勇気の遺書と偽って孤児院の奴らに提示したところ、連中は表情を一変もさせなかった。勇気は愛されていなかったんだろう、嫌な話だが」
「……ふむ。愛されていなかった……」
「勇気が、自分の環境や今までの事々を聞くよりお前達のことを優先して問うてきたのは、やっぱりそういうことがあるからだと思う。勇気がああなったのはきっと、環境のせいだ。彼は悪くない」
天翔は自分の考えを口にするとともに、勇気のことをかばおうとする。天翔が何を思って勇気のことを擁護しようとしたのかは分からないが、ともかく、彼は大分肩入れしているようだ。
だが、それに対し太三郎はあまり興味がないと言うように次の質問をする。
「まあ良い。して、連中はどのような行動を取ると言っていた? やはり捜索かの」
「……まあ、そうは言っていた。だが、そこまで精力的に取り組むとも思えない感じだった」
「ふむ……。一応、対処はしておくかの」
太三郎は天翔から聞こうと思っていたことを大体聞き終えたのか、ソファから立ち上がって天翔の部屋から出ようとする。それを、自分から離れていく太三郎の背を、天翔は軽く睨む。
天翔は勇気のことを心配し、今の会話を静かな熱を持って行っていた。
反して、太三郎はそれとは全く違った。冷えている。天翔の話に興味がないのでなく、ある特定のことについて気が向かないという具合。
だがともかく、太三郎のその冷えた態度は、天翔の気に触れる。
「……心配はしないのか?」
睨むだけでは済ますことが出来なかった。自分の意志を、天翔は言葉にして示した。心配するべきだと、そう言いたいのだろう。
だが、その言葉を受けてなお、太三郎は冷えていた。天翔の方を振り返らず、口を開く。
「せんよ。それより、儂はあ奴自身の問題を解決するのに必死じゃ」
「……どうしてだ。あいつは、人の心の声が聞こえてしまう。だからこそ、愛されていないという状況を鮮明に、理解しながら今までの生活を送ってきたかもしれないんだぞ」
「じゃが、それだけでああはならんよ」
「ああ……ってのは?」
天翔は思わず問う。太三郎の言葉について。勇気の状態について。太三郎はまたも、当たり前と言うように静かにそれに答える。
「勇気はの、人間に対する憎みだけじゃないんじゃ。問題が」
「……それは?」
「今日、子らのやり取りを見ておった。その時、あ奴は人間が人のことを救おうとしても救えない、自分はそうしようとしたが結局、二人も死なせてしまった、というようなことを言ったんじゃ」
「……それで?」
「儂は思うんじゃよ。勇気は人の身でいたくなかったから死んだのではない。確かにそれもあるかもしれんが……恐らくは」
太三郎は長い説明をタラタラと続ける。もちろん、今の小難しい説明だけではありのままを天翔は理解出来ない。首を傾げている。それを見止めてか、それとも知らずか、太三郎は彼の方を振り返り、自分の考えをまとめて口にした。
「あ奴の一番の問題は、……じゃよ」




