鈴木誠二の今後
「え、私のことだけ覚えてる……の?」
思わず、ララは問いかけた。それは記憶が喪失していると思われる発言をした少年が、彼女を指差して君の事だけは覚えていると言ったからである。
少年はララの問いを受けると、戸惑いながら首を縦に振った。
「う、うん……何で、だろう……こ、怖い……」
少年は自分の記憶がないのが、ゆっくり実感としてつかめてきたのだろう。自分の肩を掴み、まるで極寒の地にいる時にするような姿勢を取った。体の内から出る、不安による冷えに苛まされていたのだろう。
それを見たララは、彼の肩に手を置いて声をかける。優しい声だ。
「大丈夫だよ。私のことを覚えているなら、きっと、他のことも思い出せる……」
「うん、うん……」
少年は肩に置かれたララの手を掴み、その温かさを離さないよう、強く握りしめるのだった。
そんな二人を後ろから見ていた太三郎、天翔。二人は少年、鈴木誠二をどうするかを話し合う。
「天翔」
「分かっている。こいつをどうするか……」
「記憶を失っているのは全く想像がつかんかった。頭を殴られた衝撃のせいかもしれん。ただ、儂の煙では記憶を戻すことまではかなわぬ。目立つ外傷を塞ぐ程度が限界じゃ」
「ああ。重要なのは、鈴木誠二の記憶、それをどこまで話すか……。自殺したという事は話さない方がいいと、私は思う」
「そうじゃな。あの動揺ぶり……流石に火に油を注ぐことになりかねん。名前だけ告げるとしよう」
「ああ、それが肝要だな」
太三郎と天翔は話に区切りをつけ、行動に移す。二人はララの手を涙目で掴んでいる鈴木誠二へ向かい、話をした。
「少年」
「え、あ……はい」
「お主の名は鈴木誠二じゃ」
「僕の名前……鈴木誠二」
「そう。これからは誠二と呼ぶ。誠二、今までの事を知りたいかもしれないが……悪いが、私達も把握していない。そこにいる、ララがお前を連れ帰って来たばかりなのでな。お前のことはよく分からない」
「そう……なんですか」
記憶を失う前の手がかりがないと知ると、少年は俯き、暗い表情をした。辛いだろう。悲しいだろう。だが、今は現実に目を向けなければならない。
太三郎が話を続ける。
「うむ。それで……お主はこのままじゃと、身寄りがないわけじゃが」
「え、あっ……」
太三郎はまず、お主には身寄りがないと伝えた。記憶がなければ当然、家の場所も分からないだろうし、現実としてそれを聞くだろうと思ったからそう言ったのだろう。思った通り、少年は辛そうな表情をした。
ただ、太三郎の言葉に反応したのは彼だけではない。
「た、太三郎さんッ!」
ララだ。彼女は太三郎に、訴えるような目を向けた。
太三郎はその意をすぐに理解し、言葉を紡いだ。
「分かっておる、ララ。誠二、お主には身寄りがない……。じゃが、運が良かったの。お主が今いるこの場所は、妖館という孤児院のような場所じゃ」
「妖……館?」
「そうだ。私は天翔。こいつは太三郎。ここを運営している者だ。そこにいるのはさっきも言ったがララ。ここで世話をしている子供の一人だ」
「ここまでで大体察したかもしれんが……お主の身元が判明するまで、儂らが預かってやろうという話じゃ」
「えっ!」
太三郎と天翔の話を聞いて、誠二は驚愕を露にする。それは嬉しさ半分、申し訳なさ半分という中身のモノだろう。すぐに彼はそれを口にした。
「そんな……悪いですよ。僕はララちゃんに助けてもらったばかりなんです。その上で、生活面まで面倒を見てもらおうなんて」
つまり、そういうことだ。
だが、それにはララが応える。
「大丈夫だよ。太三郎さんと天翔さんは底が見えないくらいのお金持ってるから」
「ララ、お主余計なことは言わんでいい」
ララはスケールを大きく、誠二のことを安心させようと口にした。それを後ろから目を細めて太三郎が咎める。
とは言っても、誠二の気は楽になり切りはしなかった。
「でも……だからと言って……」
誠二はまだ、世話になるのは悪いと思っているようだった。指を突き合わせて……恐らくは受け入れるしかないという事は分かっているのだろう。記憶喪失、家無しが外に出て何が出来るわけでもない。だから、受け入れようとは思いつつも、すぐに頷くのは……という心理状態。
それを鬱陶しく思ったのか、天翔が苛立たし気に声を上げた。
「とにかく、面倒を見てやると言っているんだ。お前にはそれ以外、道はないだろう?」
「あっ、はい……」
「私と太三郎は話がある。だから、そこにいるララと、それに下の階にいるここの住人と仲を深めておけ。分かったな!」
「はは、はいっ!」
天翔の高圧的な言葉を受けると、誠二は肝っ玉が小さい性格なのか、身を縮めて頷くのであった。
それを見届けると、天翔は太三郎に目配せをする。太三郎もそれを受け取ると小さく頷いた。その後で、二人は並んでララと誠二のいる部屋を後にするのだった。




