失踪者
「あの子、なんだったんでしょうね」
「ララを助けたらしいけど……」
妖館の食堂の中。ララと勇気、そして太三郎を除いた一行はそこで浮かない顔を突き合わせていた。涼とマーレは唸りながら話し合っている。ララが連れて来た少年のことだ。まあ、答えが出るわけもないが……
ただしばらく、何もないまま時間が過ぎる。気まずい沈黙が響き渡っていた。
だが、それをある音が破る。
バタンッ
それは食堂の扉を乱暴に開ける音だった。ララの時と同じようなもの。ただ、人は全然違った。食堂の中にいた子供達が入口の方へと目を向けると、そこには……
「天翔さん?」
天翔がいた。何か焦っているようで、どうやら急いで来たらしい。肩で息をし、首筋には汗が。彼は入ってすぐに子供達に問う。
「太三郎は?」
「え?」
「太三郎はどこにいる? 伝えなくてはならないことがある。お前達は何も聞くな」
天翔は焦燥を顔に浮かべたままで子供達に問いを投げた。涼達の疑問には答える気もないらしく、自分の疑問だけ通そうと先に釘を刺す。
天翔がそんなになるのは相当だ。彼は良識のある人物。疑問のある状態で話を前に進めるようなことはないが……それほど彼は焦っていた。
「えっと確か、二階の空き部屋……右の方の奥に」
天翔の問いに琴音が答える。すると……
「すまない、ありがとう」
天翔はすぐに話を終えて、また駆け出す。そうしてそのまま、食堂の外へ出て行った。
残された子供達はまた、訝しげに顔を見合わせるのであった。
「ふむ、なるほどの。つまり、お主が男達を倒した後で、一人起きていた奴がこの少年を後ろから殴った。お主はその残った一人を、一人だからという理由で髪を使って倒したが……少年は寝たきりじゃったと」
「うん……そう」
ララと太三郎は一つの部屋の中、椅子に座って話し合っていた。話題はもちろんララが連れて来た少年、そして彼が怪我した理由、その時の状況についてだ。
太三郎はまとめるようにしてララに確認を取ると、その後で脇のベッドに寝かせている少年を見た。彼の頭の怪我は既に塞がっている。血も、今は流れてはいない。スースーと寝息を立てて寝ている。
だがそれでもララは心配だった。確認が終わったと見るや否や、彼女は太三郎に問う。心配、その極致という表情で。
「たっ、太三郎さん! この子、大丈夫なの!? 起きるの!?」
必死だった。自分のことを助けてくれた人間が倒れてしまったのだ。その気持ちは察するに難くない。
ただ、太三郎は落ち着いて応える。
「大丈夫じゃ、ララ。傷は癒した。起きる」
「はっ…………! はぁぁぁぁ~……」
太三郎の大丈夫だという確信のある言葉を受け取ると、ララは一瞬だけ、息が詰まったようになった後で深く息を吐いて気を抜いた。緊張していたのだろう。自分が要因で、名も知らない他人が死んでしまったかもしれなかったのだ。
「よ、よかったよ。もう起きないんじゃないかって」
「うむ、実際、相当な怪我じゃった。出血量がもう少し多ければ危うかった。お主の連れてくるのが早かったからじゃ、こ奴が助かったのは」
「そ、そう……かな」
「うむ、そうじゃ。ともかく、こ奴は起きはするじゃろう。まあ一時間するかせぬか、その辺りで何事もなかったかのように、の」
「ふ、ふひゅぅ~……よかったぁ」
ララはまた、気を抜くのと同時に息を一気に吐いた。
それだけ安心したんだろう。椅子に深くもたれかかって、そのまま目を細めた。色々な事があったというほどではないが、疲れが溜まっていたのだろう。少しの眠気があるらしい。
そんな風にララと太三郎が少年のそばで座っていると……
バタンッ
また扉を乱暴に開く音。部屋の中にいたララと太三郎は音のした方向へとすぐに目を向けた。
そこには天翔が。
彼は部屋を見回して太三郎を目に止めると、すぐに彼へと焦りの含まれた声を上げた。
「太三郎、まずいことが起こった」
「なんじゃ? お主がそこまで焦るなぞ、そうない事じゃが……」
太三郎が目に入って少し落ち着いたのか、天翔は息を深く吐いた後で部屋の中に足を踏み入れる。そうして、彼の目の前へ立って告げた。
「まずいことの内容だがな……自殺した奴らの一人が、あそこから抜け出したんだ」
「何じゃと?」
太三郎は思わず聞き返した。自殺した人間が抜け出す……異常事態だ。太三郎と天翔にとっては、保護していた人間達がどこかへ消えたという事なのだから。
だが天翔は太三郎の驚きを無視し、続けて説明しようとする。
「ああ、本当だ。これから探さなくてはならない。特徴は…………」
だが、天翔はそこまで言って言葉を一旦切る。何かに目を止めたようだった。それを見たララと太三郎は首を傾げて彼のことを見る。
「……あ?」
二人が天翔のことを見ていると、彼は声を上げる。本当に、虚を突かれたという感じで。彼はある一点に目を向けていた。
天翔が目を向けていたのは、ベッドで眠っている少年の顔だった。それを見ると、天翔は信じられないという表情をする。そうして口をあんぐりと開け、次には恐ろしいという表情を浮かべた。
「こ、こいつ……!」
「どうしたんじゃ、天翔?」
天翔が驚愕の表情を浮かべるのに太三郎が問いかけた。落ち着いた表情で、天翔をなだめようと。
すると天翔は冷や汗を浮かべながら、ゆっくりとそれを告げるのだった。
「自殺した人間……こいつだ。鈴木誠二」




