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普通の高校男子

「ふぅ。結構食べちゃったかなぁ」


「嘘だろ? 俺はまだ少し足りないなぁ」


「……お前はもういいだろ近藤」


 ララが少年を妖館へ連れ帰り、太三郎に様子を見てもらっている頃。勇気は鉄矢と龍也に連れられ、街を歩いていた。結構な人通りのある、駅が近い場所。丁度ファミレスでの昼食を終えた頃、彼らは次に遊ぶところを見つけようとしていたのだ。


「むぅ、次はどこに行こうか」


「ん~。まあ鉄板だが、カラオケでいいんじゃないか?」


「カラオケ?」


「……えっ?」


「知らない、のか?」


 勇気は龍也の言った言葉に首を傾げ、彼の方を見た。すると、龍也と鉄矢の方が逆に勇気を見返す。


 当然だ。二人にしてみれば、知っているだろうと思って言ったカラオケという言葉を知らないかのように勇気が振舞ったのだから。

 逆に、勇気がカラオケを知らない理由だが……。孤児院にいた頃はもちろんそんなものに行く余裕はなかった。そして、妖館に住むようになってからはあまり一人で外に出るのも危ういという事で、外に出てはいなかったのだ。それに、遊ぶとしても鼬に誘われてゲームをしたり、他の女子を交えてカードをやったりする程度だった。


「カラオケ、知らないの?」


 鉄矢が問う。それに、勇気は呻りながら答えた。


「うん……。いやまあ、聞いたことはあるぜ? 一人で入ると周りの目が痛いとか」


「ん、そりゃ知ってるって言わねえなぁ。ってか、誰から聞いたんだよそれ。ふむ……まあ、行ってみるのが肝要(かんよう)かねぇ」


「そうだねタツ。行こう。勇気も」


 鉄矢は龍也と勇気の様子を受けて、さっさとカラオケに行こうと宣言した。それに勇気は少し悩むようにしながらも頷き、鉄矢と龍也の後に続くのだった。


「ああ、行ってみたい。行こう」


 そうして彼らは、街中のカラオケに向かうのだった。











 三人はカラオケルームに入る。それで、鉄矢と龍也の二人は勇気にカラオケとは、ということをある程度説明した後で自分達が先に歌ってやろうと告げるのだった。そして、最初にマイクを取ったのは……





 カラオケルームにひどく耳障りな歌が響く。耳に攻撃するかのような音だ。勇気は思わず顔をしかめながら、隣の男に愚痴を言う。


「おい近藤。カラオケってのはガラスを爪でなぞる音を真似しようって場所なのか?」


「ああ……まあ、違う。普通に気分よく歌う場所だ」


「……じゃあ、鉄矢は歌が下手なのか?」


 隣の男とは龍也であった。つまり、今マイクを持って歌を歌っているのは鉄矢。さっきの音を奏でていたのも彼。

 龍也は勇気の問いを受けて、力なく笑って答えた。


「まあ、そういうことだ。こいつ歌クッソ下手だから」


「……聞いてて気分が悪くなる、まではないが……」


「へっ、まあ笑ってやれよ。こういうのを楽しむ場でもあるんだぜ? 歌下手だなぁ~ってよ。ほら、歌い終わるぜ。罵倒してやろう」


 龍也は鉄矢の歌が終わりそうになるのを確認すると、ニヤリと勇気に笑って見せた。ただ、勇気は流石に……という表情をして龍也に示す。龍也はそれを見ると、じゃあ俺だけで、と言って鉄矢の歌が終わるのを待つ……。


 少しして、鉄矢が熱狂的で下手な歌を歌い終える。ノリノリだった。そうして、次は君だと龍也にマイクを渡す。


「ふぅっ!! イイ歌だったね。今度、女の子連れてきて歌おっかなぁ~」


「女が逃げるぜ? こんな音痴な男だとよ」


「え? メッチャ上手かったじゃん。どうして逃げるのさ?」


 マイクを渡されるタイミングで龍也は鉄矢のことを罵倒するが……鉄矢には自分の歌が下手だという自覚が全くなかった。そのせいで、龍也が空ぶったようになってしまう。


「あぁ、うぅ……は、早くマイク貸せよ。俺の番だ」


「う、うん。貸すけど」










 次、龍也の番。彼の歌は……普通に上手かった。ただ、普通過ぎた。何もコメントすることがないかのような上手さ、平凡さ。

 いつしか勇気と鉄矢は他のことを話し始めた。結構なノリノリで歌っているために、龍也はそれに気付かない。


「なあ、さっきの」


「ん、どうしたの?」


「さっきのファミレスでのことさ」


「ああ、あれ……」


 話題は勇気から振った。真面目な話である。ファミレスで、鉄矢が店員の女性を助けた話。

 勇気がその話をすると、鉄矢はああと声を上げ、話を続ける。


「それで? あれがどうしたの?」


「あれさ、全部、あの女を誘いたいなって気持ちでやってたのか?」


「……ああ、うん。ちょっと違うけどね。憧れかな」


「憧れ?」


 勇気は思わず首を傾げた。人を助ける理由が憧れとはどういう意味で……


「終わったぜ、勇気」


「えっ、ああ……」


 しかし、勇気が鉄矢のことにどうこう考える間もなく龍也の歌が終わってしまう。どうやら龍也の歌は結構な短さの曲だったらしい。

 勇気は少し消化不良だという風な顔をしながら、龍也の差し出すマイクを受け取った。


「いい歌だった。ノリがいいな」


「だろ? さて、じゃあお前の歌を聞かせてもらおうかね。一応、テツのことを笑ったんだ。うまいんだろ?」


「くっ……さっきの、そのためかよ」


「ま、見せてくれよ、な?」


「……分かったよ」


 勇気は呆れた表情をしながらもマイクを手に取って、歌を歌い始めるのであった……。












「歌……まあ、歌だけどさ」


「ああ。うん。俺達くらいの年は……こういうの歌わないよな」


 龍也と鉄矢、二人は気まずい表情をしながら勇気の歌を聞いていた。何故、二人は気まずい顔をしていたのか。別にカラオケルームの中に響く歌が下手というわけではない。

 ただ……


「「まさか、演歌とは……」」


 勇気の歌っていた歌は、コッテコテの演歌なのであった。


「っしゃあ! 高得点!」

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