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行く末

 勇気が鉄矢と龍也の二人と共に遊び、またララが少年と共にいる時、妖館では既に帰っていた四人が他愛のない話をしていた。








「はぁぁぁぁ~~…………」


「どうしたのよ、そんなクソデカ溜め息出して」


「勇気が一緒に帰ってくれなくて、不機嫌なん……」


「殺すわよ、琴音?」


「へぇ~」


 涼が食堂で大きくため息を吐いたことから会話は始まった。マーレがそれを心配すると、琴音が悪戯っぽく笑って冗談を言う。そうして、その冗談を脇で聞いていたマーレと鼬はニヤリと笑った。


「ゴリラみたいなアンタにも可愛いとこあんのね」


「マーレ? 殺すわよ?」


「まあまあからかってやるなよマーレ。人を好きだっていうのは別におかしいことじゃないだろ?」


「鼬? 何かしらその気色悪いニヤつきは」


 そんな感じで、他愛なく。入学式を行った後でも、妖館の中の空気は変わらないのであった。


 その雰囲気を、遠目で太三郎は見守っていた。欠伸をし、その後で煙管を口に咥えて。まるで、孫や血縁の子供達が遊ぶのを笑顔で見守る老人のような雰囲気。


「捗るのぉ」


「ん、なんだって、太三郎さん?」


 そんな風でいて、老人は捗るという言葉を吐いた。それを片耳に止めた涼が太三郎の方へと目を向けると、彼は二ヤァ~と笑って応える。


「儂ら妖館のことを広く伝えられるかもしれんからの。くっついて、なんやかんやして、増えれば~……」


「それ以上言ったら太三郎さんでもぶん殴る。セクハラじゃない」


「フッ、すまんの。じゃが、重要な事じゃから。儂らのことを伝える者が増えればそれだけ助けられる者も増える。それでなくとも、最近は助けられる子供も少ないからの。じゃから、鼬もマーレも琴音も、励んでくれれば……」


「「黙れ」」


「「黙ってくれよ」」


 太三郎の言葉は途中でその場にいる彼以外の全員に遮られた。が、彼はくじけずに話を続ける。


「お主ら、彼氏彼女ができたとかそういう話はないのか? ララや勇気の話でもいいんじゃが、そういう話、首を突っ込みたくてしょうがないんじゃよ~」


「はぁ……私達くらいの年って、そういうのに首を突っ込まれんの、一番嫌がる年だぜ?」


「そーだな琴音。俺も、よ~くそう思うぜ、太三郎さん」


「ぬぅ……。ま、いいがのぉ」


 太三郎は鼬と琴音の叱責を受け、唸り声をあげて頬杖をつくのだった。


 と、しばらく妖館の食堂にはしょうもない空気が広がっていた。別に何かの目的を持って話すでもなく、だらぁりと。

 ただ、そんな空気は長く続かなかった。


 五人が話を続けていると、急に食堂の扉が乱雑に開かれる。バタンと、大きな音を立てて。すぐに中にいた五人はそちらに目を向けた。すると、入り口には……


「ララ?」


 ララがいた。金の髪が若干、荒れた状態のララ。必死そうな表情を携えて、どうやら食堂の扉を髪で弾き開いたようだった。琴音にバレるわけにもいかないから、髪は通常の状態へ戻していたが……そんなこと、彼女は普通しない。


「あれ、そいつ……?」


 マーレはあるものを目に止める。それは、ララが肩を貸すようにして引っ張っていた少年であった。その彼は昼間にララが肩をぶつけた少年その人である。

 ただ、おかしい点があった。見た者が全員、座ったままではいられず、その場で立ち上がってしまうような異変。それを、少年に見覚えのある鼬が口にする。


「どうしたんだよそいつ! 頭っから……血が……」


 少年は頭から血を流していた。相当量の出血だ。それに、気を失っているようだった。それをララは連れていたのだ。鼬はその点について問うた。


 だが、ララはマーレと鼬の疑問の声を無視し、奥にいた太三郎に目を向ける。そうして必死な声を上げた。


「た、太三郎さんっ!」


「分かっておる。診せてみるんじゃ」


 ララの言葉を受けるより前に、太三郎は動き始めていた。椅子から腰を上げ、足早にララと少年の方へと向かう。

 そうして辿り着けば、ララに少年のことを寝かせるように指示した。その後で触診を始める。


 ただ、涼達も静かにはしていられなかった。少年とララの方へと走り寄り、ララへ問いかける。


「こいつ、どうしたんだよララ。あん時別れた後、一体何が……」


「い、色々。ただ、ガラの悪い奴らに絡まれたの」


「絡まれた? ……この怪我、誰かにやられたのね」


 少年のことを見たことのあるマーレと鼬はまず最初に問いかけた。別れた後に何があったのかと。絡まれたという答えを受けると、マーレ達が何らかの被害を受けたのかと顔をしかめた。

 二人につられて、琴音と涼もララに問う。


「それで、一体何があったんだよ」


「絡まれただけって言っても、これは……」


「そ、その後で……絡まれる私を助けてくれたの、この子が。そしたら、殴られちゃって……その時は大丈夫だったんだけど、その……」


 ララはそこまで言って口を閉ざす。そうして、琴音を見た。それはあることが理由だ。


 話の流れ的に次は彼女が男達を追い払ったことを説明するはずだ。ただ、それを説明しきるにはどうしても髪の毛の話が必要になる。しかし、ここには妖怪でない琴音もいた。話す訳にはいかない。そして、追い払ったという話をしても不自然なのだ。ララと、このか弱そうな少年が男達を追い払ったとあれば、違和感が残る。何かしらの言い訳を考えなければならないのだ。


 だが、応える必要をなくそうと思ってだろうか。ララがそれを考える間を与えず、少年の頭の様子を見ていた太三郎が声を上げる。


「頭を何かで殴られておる。石、瓶、そこら辺の手近なものでじゃな。……今から儂が様子を見る」


「え、太三郎さんって医者かなんかなの……?」


 太三郎の、儂が様子を見るという言葉を聞くと琴音が首を傾げた。当然、彼女は太三郎が煙を操ってある程度の怪我ならば治せるというのを知らない。

 だが、そこのところはマーレがカバーする。


「そうよ。太三郎さんは医者の免許を持っているの」


「へぇ、すげえな」


 流れるように嘘を言って、ごまかしたのだ。


 ただ、二人のことが目に入らないという風に太三郎はララの方を向き、指示する。


「ララ。お主にはこ奴が殴られた時のことを聞かせてもらう」


「うん、うん……」


 ララは力なく太三郎の言葉に頷いた。それをちゃんと確認すると、次は他の者達の方へと目を向け、指示する。


「お主らは別室にいるんじゃ。気ににせんでもらっていい」


 太三郎の冷静な声を受けると、涼、鼬、マーレ、琴音はうんと頷いた。


 それをしかと見止めると、太三郎は少年を抱え、ララへ声をかけた後で食堂を後にするのだった。


「ララ、行くぞ」


「うん、うん……」


 ララは不安そうな表情をしながら、頭から血を流している少年を抱えた太三郎について行くのだった。

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