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献身

「さて、良い所じゃねえか? まったく、自分でこんなところに連れてくるなんてよ」


 ララは黒髪の少年と男達を街の裏路地にまで連れて来た。人の目がない、陽光さえ入ることを拒むような裏路地。

 そこまで連れてくると、男達はニヤニヤとその顔にいやらしい笑みをまた浮かべた。そうして、ララの方へと近寄った。ララは……男達の方へは全く向かず、壁を見つめたままで彼らの声に応える。


「本当はさ、誘うためにあそこにいたんじゃないの?」


「……そう思う?」


「ああ」


「全然違うよ」


 ララと男達の受け答えを少年はずっと心配そうな表情で見守っていた。一歩下がったところで、どうすることも出来ず。

 だが、ララは全然、危険な状況にある少女というような表情をしていなかった。


「君達みたいなブサイク、こっちから願い下げだよ」


「……あ?」


 そう言って振り返った時のララの表情は、怯えも揺らぎもなかった。


 そうして……ララの髪の毛がふわりと動く。


 すると、裏路地の空間に一瞬だけ線上の光が発生する。煌びやかな金のきらめきが、張り詰めた糸のように光ったのだ。それと同時に、男達の立っている場所に何かの影がかかる。小さい影が一人に対して複数個。


「何だ……?」


「……お、おい! 何か……!」


 男達が影に気付き、上を見上げると……彼らの頭上にビール瓶や缶が振ってくるのがあった。それは容赦なく、男達の額、うなじ、こめかみの辺りへ落下した。降り注ぐそれらは、男達の頭にぶつかると割れ、中身の液体をぶちまける。缶は辺りに転がった。男達は自分の身を守る暇もなく、その落下物にそのまま頭を打ち付けられる。


「ぐアッ! んだよこれッ!」


「クソッ……!」


「いだっ……ぐぅ……!!」


 中身の入ったままのビール瓶や缶を頭に打ち付けられ、男達は地面に倒れこむ。どの程度の高さから落ちてきたのかは分からないが、ともかく、人間の意識を刈り取るに足る威力だったらしい。


 落下物が落ちてきてしばらく……しばらくというほども過ぎていないか。ほとんど一瞬だった。金の線状の光が発生して、裏路地に瓶類が降り注ぎ、それが男達の頭を打って意識を刈り取るまで。それは一瞬で過ぎた。


 事の終了を了解したララは、ふーっと息を吐いて力を抜いた。


(よかった……。近くのお店には迷惑をかけちゃったけど、髪で引っ張って落とした。でも、妙な力を持ってるって知られずに済ますにはこれしかないし……)


 ララは自分のしたことを頭の中で確認しながら、ふうと力を抜く。


 彼女はこの裏路地に来るまで、めぼしい店から落下させて凶器になるようなものを髪で伸ばして引っ張り、それを男達の頭めがけて落としたのだ。


「よかった……大丈夫?」


 ララは気を楽にした後で、少年の方を向く。そうして、無事かどうかを確認した。少年は……驚愕の表情を顔に浮かべながらララを見ていた。

 それも当然、彼は現場を無傷で見ていたのだから。その驚愕を、彼はそのまま口にした。


「きっ、君……一体、今何をしたんだい? 空から……偶然こんなものが振ってくるわけもないし。君がここにこいつらを連れて来たってことは……」


「あ~……えっと、えっと……ねぇ~」


 ララは少年の問いにどう答えるかを迷った。本当のことを答えるわけにもいかない。妖怪です、なんて普通の人間に言えるわけもなし。

 そうして、ララは答えを用意できずにオロオロとしてしまう。しばらくして……


「いや、いいよ。言わなくて」


「え……?」


 少年は首を振って、ララに言わなくていいと言った。それを受けると、ララは思わず疑問を露にしてしまう。当然だ。目の前でこんな不可思議な事が起こったのに、それを起こしただろう人物が目の前にいるのに、それを問わなくていいだなんて……


「君にも事情があるんでしょ。うん。それに、助けられたんだ。その上でプライバシーを侵そうなんて、僕は思わないよ。気になるけど……それは置いておこうかな」


 少年はララの表情を少し見ただけで、彼女がさっきのことを説明しづらい立場なのだろうと感じ取った。そうして、話さなくていいと言ったのだ。きっと、興味津々でしょうがないというくらいなのだろうが、それを我慢して。


 ララはその少年の優しさを受けて、体の力を抜く。話さない言い訳を考えなくて済むのだ。


「分かった。ありがとうね、聞かないでくれて」


「いや、別に。どっちかっていうと、僕が助けられたんじゃないか。守るつもりだったのに……」


「そんなことないよ。私一人だったら、うまくいってなかった。きっと、力ずくで殴られたりしたら何も出来なかったと思う。あの時、君が守ってくれたから」


「……悪いね。ありがと。君に何かの力があるにしたって、女の子に守られるなんて。力足らずでごめん」


 少年は最初の思惑とは違い、自分が助けられたことを恥ずかしく思ったらしい。頬を赤くして、所在がないようにもじもじとした。

 ララはそれに対して少年に歩み寄って声をかけることにより、彼の恥じらいの気持ちを取り払おうとした。


「そんなことないよ。結果は重要じゃない。踏み出そうとしたその心が、大事なんだ」


「……そうかもしれないね。ありがとう……。君は本当に、綺麗な心を……」


 少年はララの言葉を受けると、さっきまでの気まずそうな表情を清々しいモノへと変える。そうして、ララの方を向いて……


 その時、彼の目に異物が止まる。それは、ララの背後に立って彼女の頭に何らかの凶器を振り下ろそうとする影だった。


「危ないッ!!」


 咄嗟に少年は、ララのことをかばおうと彼女のことを突き飛ばすのだった。

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