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失意を持っていてもなお 2

「可愛い子だねぇ。俺達とどこか、遊びに行かない?」


 ララと少年が公園のベンチで話していると、二人のそばに五人ほどの男達が寄ってくる。ナンパ……ではないだろう。ナンパならばここまでの数は連れない。それに、目に悪意がある。ただ女を連れようというだけではない。


 ララはそれをすぐに察する。悪意の色を男達から見て取ったのだ。


(……どうしよう)


「ねぇさあ。そんなナヨい感じの男捨ててさぁ。遊ぼうよ」


 ララが迷っている暇もなく、男はまた声をかけてくる。いやらしい目だ。それを受けると、ララは気分が悪くなってくる。悟りの性質、自分に対する悪意や敵意を受けると、気分が悪くなってくるというもののせい。


(……髪を使うのは……)


 ララは周りを見渡し、実力行使のことを考えた。今の彼女は髪を十二分に扱える。以前にフツヌシに襲われた時とは違い、扱いをある程度は覚えていたのだ。

 ただ、それだけでは使えない。今、ララのいる場所は公園だ。公園には当然、子供やそれを連れている親がいる。見られるわけにはいかない。


(人目につくのは……まずい。私だけならまだしも、妖館の皆に迷惑が……)


「ねぇ無視ってないでさ。こっち見なよ」


「っ!」


 ララが黙ったままで悩んでいると、男の一人が彼女の顎を掴んで無理やり自分の方を向かせた。ララは驚いて身を固まらせるが、どうすることも……


「やめなよ」


 ララにはどうすることも出来なかったが、少年が、ララと肩をぶつけただけの少年が、ベンチから立ち上がってララの顎を掴む男の腕を振り払った。そうする彼の目には、決意があった。

 男は腕を振り払われると、そのこめかみに血管を浮かび上がらせる。後ろに控えていた男達も、少年に敵意を向けた。


「ん? なんだよテメエ。今、俺がそこの子と話してんの、分かる?」


 そう言って少年のことを追い払おうとした。が、少年は退かない。ララの前に立ったまま、男達を睨む。


「分かってるさ。お前達がふざけたことをしようとしているってことぐらいはちゃんと分かるぜ」


「あ? んだとぉ……」


「それがゴキブリみたいに害をなすことだってのもよく分かるよ」


 少年は敵意を込めた目で男達を睨む。その心の奥には、ララに対する心配と、彼女を助けなければという意志があった。

 それを彼の後ろにいたララは、ありありと見せつけられる。輝かんばかりのその意思を。いつか、勇気の背に見たような光を。


(……助けなくちゃ。このままじゃ……)


「テメエ……ざけてんじゃねえぞッ!!」


「ぶっ……ぐ」


 ララが冷や汗をかきながら、この状況をどうしようかと考えていると少年が男の一人に殴られる。顔をだ。当然。さっきのあおりに対しての返しだ。

 少年は殴られると後ろに吹っ飛んで、地面に倒れ伏してしまう。それを見た瞬間、ララは追って駆け、少年の顔を覗き込む。


「だ、大丈夫!?」


「ふ……く。だい、じょうぶ」


 少年は大丈夫と言ったが、明らかに大丈夫ではない。口内が切れたのか、口から血を流している。フラフラとしているし、元から細身だったのもあって立てそうもない。

 だが、それでもしかと立ってララの前に出る。


「君は逃げてよ。どうせ僕はこいつらを倒せるような勇者じゃないし、殴られて時間稼ぎすることしかできないからさ」


「あ? んなこと、させる訳ねえじゃんよぉ。ガキが、イキがってんじゃねえ。お前くらいすぐに潰して、その子モノにしてやるよ」


 少年がララの前に立って言った言葉に対し、男の一人がそれを嗤った。五人もいれば、お前なんてすぐにのせるし、後でララのことも追えると。

 だが、少年はそれでも皮肉げに笑ってララの前に立ちふさがるのをやめない。


「どうかな。自慢じゃないけど、殴られ慣れてるから。バットで殴られたこともあるよ。君のさっきのは……ふっ、今までで殴られた中で十位にも入らないかな」


 そう言って、少年は煽るように男へ笑ってみせた。自分へ怒りの矛先を向けて、ララへ目を向けさせないようにするためだろう。思惑通り、男は少年へ手を振り上げて……


「やめてッ!!」


 その拳が振り下ろされるより前に、ララが少年の前へ飛び出す。両手を横に広げ、背の少年をかばうように。

 そうして、彼女はこう言った。


「……ここじゃ人目がつく、でしょ? だから、街の方。裏路地とかに行って……」


 そう言って、目を伏せる。まるで、傍から見れば諦めているかのように。

 それを見た少年と男はそれぞれの反応をする。


「なっ、君は……!」


「へぇ~。ノリ気じゃんよ、この子。へっ、残念だったなガキ。……ああ、君も逃げようとしたらただじゃないからね、可愛い子ちゃん?」


 少年は悲壮の表情を、男達は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


 ただ、ララの目には諦念の鈍い光は灯っていなかった。男達を先導するようにして歩きながら、少年へ耳打ちする。


(大丈夫だよ。考えがあるから)


(え……)


(だから、今は静かに)


 少年はララに聞き返そうとする。だが、ララはそれを遮るようにしてシッと口だけで静かにと示した。それを受けると、少年は素直に、男達を先導するように歩くララへついていこうと……


「おいガキ、お前、ついてくんじゃねえよ」


 したが、男の一人に止められる。少年はどつかれ、その場に倒れこんでしまった。だが、向かっていっても仕方がない。少年は男に対して有効な手など一つも持っていない。


 ただ、ララがそれに対して声を上げた。


「駄目。その子がついてこなかったら、私はここで叫び声上げるから。昼の公園なんだから、一人くらい通報するでしょ」


「……チッ」


 ララの言葉を受けると、男は不機嫌そうに舌打ちをした後で少年の方を見るのをやめ、先導するララへついて行くのだった。

 先まであった陽気な公園の風景など、今はない。

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