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勉強会!

「涼……。お前、相当に勉強ができないな」


「ぐぅ……うるさい」


 勇気は呆れていた。教科書の山の中、涼の成績をの当たりにして。


「本当に、まずいだろ。受験目前の時期だ。だってのに、助動詞が全然……」


「う、うるさい! だって私、別に外国行く気はないからっ!!」


「中三だろ? 何で確率が分からな……」


「計算系の仕事にくつもりもない!」


「漢字、大丈夫か? 百足(むかで)を、ひゃくあしって……」


「ひゃくあしって読むもんっ!!」


 いつしか、勇気の教科書をあさりながらの追及を受ける涼は目に涙を浮かべていた。勇気は責めている訳ではないが、彼女としてはそういうつもりになってしまったのだろう。勇気はその凄まじさに、つい一歩引いてしまう。


「そ、そんなに言わなくてもいいじゃないの!」


「いっいや、別にそんなつもりは……」


「まあまあ、落ち着きなさいよ涼」


「マーレ?」


 勇気と涼は同時に、間に入って来た声に首を傾げる。それはマーレだった。彼女はまた、涼しい顔をして椅子に座っている。そして二人の方を見て、教科書を片手に語る。


「確かに涼はぶっち切り且つ底辺レベルで頭が悪いけど……」


「ひどくない?」


「まあ、鼬と同レベルだったでしょ。でもこいつは、出来るようになってるから」


「へ? 鼬が……?」


 マーレの言葉に、涼はキョトンとした顔で鼬の方へと目を向けた。すると、そちらには安らいだ表情をした鼬がマーレの方へと目を向けているのがあった。のぼせているようにも思える。


「はぁ……幸せ」


「ん?」


(この音……あまり、聞き覚えがないが……)


 勇気は顔をしかめる。彼の耳に入って来た、その音。ポワポワと花畑に蝶が悠々と飛び交うようなそんな。勇気にはその音に一応、聞き覚えがあった。


(恋、か。鼬って、マーレが好きなのかぁ……。涼を教えている間、聞こえてきた快感の音はそういう……)


「こいつが何を思ってここまで伸びたのかは分からないけどさ、試してみる価値はあると思うのよ」


 勇気が聞こえてきた音に対して思考を巡らしている間、マーレは話し続ける。どうやら、何かしらの案があるようで、涼に目を向けている。そして話の転換点で、彼女は勇気へ目を向ける。


「ちょっと勇気、どいて」


「ん、どうしてだ」


「私が教えたら鼬は分かった。同じように涼に教えてみるの。アンタは鼬を見てて」


「あ、ああ。分かったよ」


 勇気はマーレの提案を聞いてそれを受け入れ、椅子を立ってそこを彼女に譲る。そうして、次は恍惚の表情を浮かべている鼬の方へと向かった。

 涼のことは心配しなかった。マーレに任せておけば大丈夫だと思ったからだ。


 それで、鼬の方へと向かってすぐのことだ。


「勇気っ!!」


「え? な、何だ」


 鼬は自分の方へと向かってきた勇気の首に手を回し、自分の方へと引き寄せた。勇気は戸惑うが、鼬はそんなことはお構いなしという具合だ。そうして、囁き声だったが、それだけでも分かるほど喜々として語る。


(マーレのこと、どう思う?)


(え、なんだよそれ)


(可愛いよな、なっ!!)


(え、えぇ……?)


 急な問いに、勇気はまた呆けた顔をしてしまう。


 しかし急すぎる。勉強会を開いているというのに、突然女子が可愛いか可愛くないかという話をし始めたのだ。勇気はどうしてもそれについて行けず、戸惑った表情をしてしまう。

 が、よくある話だ。勉強会と言って集まって、学力が上がるだろうか。つまり、鼬は他とあまり変わらないことをしていると、それだけのこと。


 だがまあ、乗らなくてはならないと思った勇気はしっかりとマーレの方を見る。涼に勉強を教える、その彼女の姿を見たのだ。

 美しい。白磁(はくじ)のような肌。髪の彼岸花のような赤。整った顔立ち。落ち着いた雰囲気。しっとりとした目付き。


(ま、まあ……可愛いんじゃないのか?)


 勇気はそう答えた。鼬のことを考えたわけじゃない。ただ、普通に可愛らしいと思ったのだ。儚くもそこに柔らかく立つ花のような雰囲気を目にして。

 そしてそれは、鼬の意に沿う答えだ。だが、そのはずが……


(おい、マーレに惚れてんじゃないだろうな……!)


(え?)


 急に、鼬の表情が変わる。敵意だ。


(惚れたらぶっ飛ばすぞ)


(えぇ……お、お前が可愛いかって聞いてきたんじゃないか)


(あ、また可愛いって……。やっぱりお前、マーレに惚れてるんじゃ……)


(ち、違う! 俺は惚れてない! 勘違いだ)


(は? 何で惚れてないんだ)


(んぅ……????)


 勇気は理解がまたも追いつかず、頭に疑問符をいくつも浮かべてしまう。勇気は鼬が、自分がマーレに惚れているかもしれないという可能性が気に入らないのだと思って、惚れていないと明言した。


 だが、そんなことはなかった。惚れていないと言ったところで、逆に鼬の顔には不機嫌が上り詰めてきていた。


(男ならマーレに惚れて当然だろうがっ!!)


(え、ええ? わ、分かんねえよ。どういう……)


(問答無用だっ!!)


(え、ちょ待っ……)


「いってぇッ!! ぐ、あぁ……」


 瞬間、勇気の頭に拳骨が叩きつけられた。その威力たるや、意識が薄らいでしまうほどだった。


 勇気は薄れる意識の中、この理不尽に対して愚痴を申し立てていたのだった。


(意味、分かんねえ……心が聞こえづらいのって、こんなにも……)

鼬は純情な男の子というイメージで書いています。そんな感じになってるかなぁ……

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