射抜くこと鉄の矢が如く
勇気、龍也、鉄矢が昼のファミレスで食事をとっていると、途中で誰かが大声を上げる。そちらの方へ視線を寄こしてみれば、中年男性がイライラした様子で片付けのされていない席に座っているのがあるのだった。
「ほら、あれ見てみなよ勇気」
「あれ……?」
鉄矢はソファ席からフロアへ体を半分出すようにしながら、首を傾げている勇気へ声をかける。その視線は、怒声を上げた男の方へと向かっていた。
勇気の方はというと、状況を把握できていないせいで呆けた顔をしながら鉄矢の方と男の方を見比べる。そうしながら、鉄矢の言葉に応えた。
「あれって……あいつだよな?」
「そ。でもあいつ自身じゃなくて、テーブル。片付けられてないでしょ?」
「あ、ああ。そうだな」
見てみれば、鉄矢の言った通り怒声を上げている男が座っているテーブルは片付けが済んでいないようだった。彼はそのことについて文句を言おうとしているのだろうか、店員を怒鳴り声で呼んでいる。
それを一瞥した勇気は、またも首を傾げる。
「でも、そのことについて文句を言ってるんじゃないか? まあ迷惑な話じゃあるが、理にかなってはいるだろ」
「違うよぉ。重要なのはさぁ、他に片付けられてる席あんのに、どうして店員さんの案内を待たずに片付けられてない席に座ったのかってこと」
「……どうしてだ?」
「悪意があった、ってことか?」
勇気が呆けた表情をし続けていると、龍也が口を挟んだ。あの男には、悪意があったのかと。そう鉄矢に問う龍也の表情は、真剣なものだった。
勇気の反応が遅れたのは、耳を閉じていたからだろう。心を捉える耳を。
龍也の言葉を耳に入れると、今度は勇気も同じような表情を取った。
「悪意。……それで?」
二人の問いを受けると、鉄矢は首をすくめて答えた。
「知~らない。八つ当たりでしょ? タツは知ってるけど、僕、喫茶店の手伝いをしたりするんだけどさ。そこでもあるの。わざわざ片付けの済んでない席に座って店員に八つ当たりするの。あそこまでひどいのは稀だけどね」
鉄矢はサラリと、怒声を上げている男がただクレームをするためだけにこの店で行動を行っていたと告げる。
それを聞いた二人、勇気と龍也は顔に怒りをあらわにした。
勇気のことは皆さんも知っているだろう。人の劣情が大嫌いで、許せないタチ。ただ、それは龍也も同じであった。同じように、悪意ある行動が嫌いな性分だったのだろう。
彼らはほぼ同じタイミングで席を立とうと……
「駄目だよ二人共、ってか勇気は意外だな。君も正義感強いタイプかぁ」
したが、立つ前に鉄矢に止められた。すると、二人はすぐに彼へ反発を示した。
「どうしてだ? ほら、今もあの店員、文句を言われて困ってるじゃねえか」
「そうだぜテツ。ああいうのは殴り飛ばさねえと」
「まったくだ近藤」
「気が合うな神崎。行くか」
「おう」
鉄矢へ反発する内、勇気と龍也は意気投合し、またも腰を上げようとする。だが、それをまた鉄矢は制止する。
「だから駄目って言ってるじゃない。話しぐらい聞いてくれる?」
鉄矢は少し、イラついているようだった。勇気と龍也が二人そろって彼の話を無視し、強硬な手段を取ろうとしたためだろう。それを察した二人は、顔を合わせた後で腰の位置を直し、鉄矢に向かった。
「話ってなんだ、鉄矢」
「手短にな」
二人は今すぐにでも行動を起こしたいという風であった。
ただ、鉄矢はそんな二人を前にしても落ち着いて話を進める。
「いい? 僕らは今日に入学式のあった高校一年生。そして高校の名前はある程度知れてる。この辺りでも制服を見たらあの高校だって分かる人がいるかもしれないくらいね。で、周りにいる人がそうだったとして。君らが面倒な事したら、学校に報告が行くかもしれない。結果は? 悪くて退学さ。だから」
鉄矢はそこまで言って、後は分かるでしょと言うように首をすくめた。それを見た勇気は、その首をすくめるのを諦めろという意味で取ったらしい。こめかみに青筋を浮かべ、立ち上がろうとした。
「放っとけってのか? そりゃあ……」
「違うよ」
だが、勇気は反発の言葉を最後まで言えなかった。鉄矢が遮ったためである。
そうして、彼は付け加えた。
「脳筋なことしかできない龍也と同じ部類っぽいからさ、君も。だから、君達二人に代わって……」
そう言いながら、鉄矢は立ち上がる。今も店員へ怒声を上げている男へ、鋭い目線を向けて。
「僕が丸く収める、ってことさ」




