鉄矢と龍也
別作の主人公が二人登場!
「そこのバカに絡まれてたんだろ? 悪いな」
勇気が鉄矢にからかわれ、顔を赤くし震えていると二人の間に赤髪の少年が入ってくる。バサバサとした髪の、見るからに不良っぽいと感じる見た目の少年だ。
彼はどうやら、鉄矢のことをバカと言って勇気のことを気遣っているようだった。
「タツ~。僕はただ、新しいクラスメートと仲良くしよっかなって思ってただけさ~」
反し、鉄矢は赤い髪の少年のことをタツと呼んで言い訳のようなことをする。へらへらと、気楽に。
それを見たタツ? は深くため息をつき、今度は勇気の方へと目を向けた。
「悪いな、どうせまた下の名で呼び合おうとか言って困らせてたんだろ? ええ……神崎?」
「あ、ああ。まあ、それもあるが……」
勇気は少し言葉に詰まる。間違ってはいないが、間違っている。タツの言葉は確かではあるが、勇気が今現在、顔を赤くした要因は別にあるからだ。
ただ、そんなことには構わず鉄矢は口を挟んで勇気をからかう。
「勇気って言うんだけどさ。な~んか隣の大江って子と仲良さそうなんだよねぇ~」
「おいっ!」
勇気は大声を上げて鉄矢を睨む。が、鉄矢の方はニマニマ笑うだけで、真正面から取り合う気がない。それを見たタツはこめかみに血管を浮かび上がらせ、鉄矢の方へ歩み寄り……
ボガッ
「いった! 何すんのさタツ!」
頭を殴る。本気ではなさそうだが、戒めの意味はちゃんと伝わる程度の強さ。そうやって拳を落とした後で、タツは鉄矢に怒鳴り声を上げる。
「他人をからかうのはやめろっていつも言ってんだろうが! そういうことが許されんのは仲が詰まって、冗談だって分かるくらいになってからだ。そういうので傷つく奴もいるんだからな!」
「むぅ~。じゃあこれからずっとタツのことをバカにするね、仲詰まってるから」
「殺す」
「こっわ〜」
鉄矢とタツは二人で勝手に話し始めてしまう。話慣れている様子だ。鉄矢の言った通り、結構な仲なのだろうか。仲がいいのか、こんなやり取りをしていてもお互いがお互いを本気で嫌悪する表情がない。
ただ、蚊帳の外にされる者としてはたまったものではない。勇気は声を上げた。
「ま、待ってくれよ。置いてくんじゃない」
「ん……ああ、悪かったな」
「ごめん。勇気のこともからかわなきゃね」
「テツ、後でお前はしばき倒すから覚えとけよ。んで、そう。神崎。自己紹介もしてなかったな。悪い」
赤髪のタツは鉄矢のことをテツと呼んで軽く脅した後、勇気に改めて向き直る。その後で、していなかった自己紹介をする。
「俺は近藤龍也。近藤でいい。同じクラスだな、よろしく」
「ああ。よろしく。俺は神崎達也だ」
タツ改め、近藤龍也。彼は神崎勇気に恐ろしいまでの型にはまった自己紹介をした。勇気も、彼の真面目な様子に応えて真剣な自己紹介を返した。
……大方の生徒が帰った後の教室に、沈黙が響く……。
「つっまんな」
沈黙を破ったのは、鉄矢の言葉であった。灰色の目をした鉄矢が、勇気と龍也の自己紹介をつまらないと言ったのだ。……確かにつまらない。
「黙れ」
「自己紹介に面白さは求めていない」
だが、勇気と龍也は口をそろえてつまらないという言葉を吹っ飛ばす。強めの言葉一つで一蹴したのが龍也の方。勇気は必要ないからと言って、言外に黙れと言った。
「えぇ~。最初なんだからさ。もっと愉快に行こうよ~」
「鉄矢。お前はちょっと、緊張感がなさすぎなんじゃないか?」
「まったくだ。神崎のことを考えろよ。知り合いじゃない奴二人、そいつらは知り合ってる仲で一人だけ省かれてるんだぜ?」
「タツ、君ってバカみたいな見た目してんのに空気読めるよね」
「うるせえ」
「……近藤と鉄矢ってよ」
龍也と鉄矢のやり取りを見ていて、勇気は口を挟む。そうして、当然の疑問を示した。
「んぅだ?」
「どうしたんだい?」
「中学同じなのか? テツとタツって呼び合ってて、随分と仲いいみたいじゃないか」
まあ、順当な疑問である。龍也と鉄矢、二人は愛称で呼び合ってる割に、外見そこまで仲が良いようには見えないが……それは深い仲であることを示す要因だ。互いを気遣わなくて済むような仲、という事だから。
勇気の問いを受けると、龍也と鉄矢は顔を合わせた後で、同じようにフッと笑って答えた。
「まあな。中学と言うか小学校から同じだったよ。腐れ縁、みたいな奴だ」
「うん、そうだね」
「へぇ~。小学校から、か。いいなぁ、そういうの」
勇気は龍也と鉄矢の仲のことを聞き、羨ましそうに頬杖をつく。それを聞くと、鉄矢は椅子に座ったままで、龍也は脇にあった机に腰かけて首を傾げる。そうして、続きを促すのだ。それを受けると、勇気は少し物憂げにしながら言う。
「俺、あんまりいい思い出がないからさ。学校に関しては……まあ、全くない。悪い思い出しかないな」
重い。重い。龍也と鉄矢は思わず顔を合わせてしまった。こんな話をされても、困るというのが普通だろう。
が……
「ふふん、じゃあこれから良い思いをしなきゃ、ね?」
「え……」
鉄矢が椅子から立ち上がってそう言う。元気そうに、顔に笑顔を灯して。全く、さっきの重い話を気にしてもいないような様子だ。思わず勇気は呆けた顔をする。
だが、二人はそれを気にさせる暇を与えない。鉄矢の言葉を受けてすぐ、龍也が口を開いたのだ。
「フッ、そうだな、神崎。手始めに、一緒に飯でも食いに行かないか?」
「あ……いいのか?」
「いいさ。というか、僕は元からそのつもりだった。君は面白そうな人間だと、見た時から思っていたからね」
「キモいこと言うなテツ。ま、そういうことだ。行こうぜ。他の連中も、外に出てることだしよ」
龍也はそう言って、勇気へニヤリを笑って見せた。その笑みには優しさが。龍也にきついことを言われた後の鉄矢も、さっきまではからかうことしか考えていなかったというのに、爽やかな笑みを浮かべて勇気を見ている。二人共、同じ気持ちなのだろう。
勇気はその二人の笑顔を見て、ある種の感動を得た。それは、彼が妖館以外で掴むことの出来なかったものだ。鉄矢と龍也は、勇気にとって妖館の外で出来る初めての友達。琴音は……妖館にいるのでノーカン。
ともかく、勇気は感動を胸に、笑いを返すのだった。
「……ああ! 行こう」




