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マーレの頼み

 勇気は朝食をうまく処理した。うまく、というか自分だけで二人分を食べたのだ。鼬と涼の分は九時辺りで起きてきた彼らに、温めたものを食べさせた。まあともかく、朝食の件でもう何かを気にする必要はないということ。ちなみに、勇気の朝食は美味そのものだったらしい。涼と鼬はそれを喜んで食べた。そして、自分で朝食を作ってしまったマーレはそれを、壁の端からジト目で睨んでいたのだった。







 そうして朝食の一件からしばらく経った後、勇気は食堂に来ていた。そう、マーレとの約束があったからだ。朝の十時、その時に食堂へ来いという話だ。

 しかし、時間はとっくに過ぎている。加えて、勇気は広い食堂の中で一人だ。彼は一度不安になって、チラと時計を見上げる。


(十時十分……ん、来ない)


 自分が呼び出され、そしてその呼んだ人間が来ないときはイラつくものだ。が、勇気は気長に待っていた。自分の分と、そしてマーレの分のコーヒーを淹れて静かに、静かに時を過ごしていたのだ。

 コップの端に静かに口を当て、すする。カフェインが彼の晴れた頭の中身を、更に澄ませていく。そして、息を深く吐いた。


(まあ気長に待とう。俺は世話になってる身分だ。人をかしたりは……)


 と、そう思案し始めた時だった。食堂の扉の奥、勇気の目に入らない部分から声が聞こえてくる。内容はこうだ。


「ちょっと涼逃げないで!!」


「い、嫌よ! 何でクソの役にも立つかも分からない勉強なんてしなくちゃいけないの!?」


「ま、まあまあ。受験あるし、頑張ろうぜ」


「うわあぁぁぁーっ!! 離してぇぇーーっ!!!」


 と、このような。誰が誰かは説明しないが、勇気には理解できた。理解が追いつくと呆れが頭に足を踏み入れてくる。自然と、それが汗となって額を伝った。勇気はため息をついて、コーヒーの入ったコップを置く。


 そうしてしばらく、勇気が声を聞いてからも素直に待ち続けた後だった。食堂の扉が乱暴に開かれる。バタンと、大きな音を立てて。

 

「く、くぅ……どうして、どうしてよぉ……」


「御託はいいから。ほら、行くわよ」


「うぅ……いざ目の前に来ると、俺も嫌になって来たな」


 中に入ってきたのは涼、マーレ、鼬の三人だ。その内の涼と鼬は、嫌悪の感情を顔に露わにしている。多分、話の流れから言って勉強に対するモノだろう。対し、マーレは呆れの表情を浮かべていた。勉強を嫌がる二人に対するモノ。加え、彼女は何かを隠すように後ろに手を組んでいた。


 勇気はそれらを見て、ある程度マーレの頼みに当たりをつけ、彼らの方へ歩み寄る。


「涼、マーレ、鼬」


「あ、勇気……。さっきはご飯、ありがとう」


「ああ、俺も」


「いや、全然大丈夫だよ。それで、マーレ」


 勇気は顔を合わせて第一に礼を言ってきた涼と鼬の言葉を受け流し、自分の疑問を解くことを優先する。まあ、もう既に考える必要もないほど、なんだか予想は出来ていた。だが、そうは言っても確証がない。

 一応、そういうつもりで勇気はマーレに問いを投げた。


「俺を呼んだ理由は……まさか」


「ふふ、そのまさかよ」


 勇気の意を察してか、マーレはほほ笑む。そうして、後ろに手を組んで隠し持っていたものを前に差し出す。それは、大量に束ねられた教科書と、ノートの山だった。そうしてマーレはそれを示しながら、勇気に渾身のドヤ顔を作って言った。


「あなたにはこれから、このクソバカ共に勉強を教えてもらうわ!」

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