マーレと鼬の出会い
「え、私が料理?」
ララは厨房へ連れられていた。彼女の眼前には、マーレがいる。そして彼女は駄々をこねるような表情をするララに呆れた目を送っていた。
「そーよ。勇気がちょっと調子悪いみたいだから、私達がってことね」
「え~。鼬と琴音がいるじゃ~ん。涼と私は料理できないし……」
「鼬と琴音は掃除。涼は……勇気の様子を見てたいんだとさ。まあ、アンタにとっては料理を覚えるいい機会でしょうよ」
「むぅ~」
マーレの正論に、ララは頬を膨らませて抵抗の意を示す。だが、マーレの方はそれに構う様子はないようだった。ララのことを無視し、手近なものに手を付け始める。そうしながら、ララへ指示を出した。
「まあ簡単な事だけしてもらうから。米とぎとか、ジャガイモの皮剥いてもらったりとか……」
「うぅ……まあ、それくらいなら」
「はい、じゃあまずは米とぎからね」
マーレは簡単な仕事だけを寄こすと言ってララを納得させると、自らも仕事に入るのであった……。
料理が始まってしばらく、二人共に割かし余裕が出て来た。ララは台所で皿を洗い、マーレは鍋の様子を見ている。
そんな中でふと、ララは口を開いた。
「あのさぁマーレ?」
「んぅ、何かしら」
顔は合わせず、一応自分達の仕事に準じながら少女達は話す。
「マーレって、鼬と二人で古株なんだよね」
「まそうね。それがどうしたの?」
「いや、確認確認。二人って、妙に息合ってるところがあるからさ」
「そう? まあそうね~。十年くらいだから。あいつに拾われて以来」
「拾われて? 拾われてって、太三郎さん達の内の誰かに?」
途中、気になることを耳に留めてララは問いかける。洗い物の手も、一旦だけ止まった。
反してマーレは平然としたままで話し続ける。
「いんや、鼬よ」
「……鼬に拾われた? 拾われたって……どういうこと?」
ララは思わずマーレの方を向いて、再び問いかける。マーレはそれに、また平然と応える。
「夜の街を歩いてる時、拾われたの。鼬に」
「きゅ、吸血鬼だからって、このご時世……十何年か前って言ったよね。マーレはその時から夜遊びとかをしてたの? それに、鼬もか」
「う~ん……。鼬は確かその時グレてたって話だけど……私に関しては、よく分からないのよね~」
「よ、よく分からないって……自分自身の事じゃん」
思わず、ララは呆れた目をマーレの方へと向けた。
それもそうだ。自分のことを、よく分からないと言ったのだ。十年も前とはいえ、流石にそれはなかろう。
マーレの方は……その時だけは少しだけ深刻そうに、目を鍋の方へと落として口を開いた。
「……いや、本当に。記憶が吹っ飛んでる感じなの。何も思い出せない」
「……へぇ」
「鼬と会った時のことは鮮明に覚えてるけど、それ以前のことはね」
「ふぅん。……だったら、鼬と会った時のことを聞かせてほしいかな」
ララは少し触れてはいけないところに触れたかなと、一瞬だけ顔を暗くした。誰だって記憶喪失なぞをしているのだとしたらそれを隠したいと思うだろう。だから、すぐ次の興味へと話を進めたのだ。
マーレはララの思惑通り、さっきまでよりも少しだけ顔を明るくし、再び話し始める。
「いいわ、聞かせてあげる。……私と鼬はね、夜の街のどこかであったの」
「どこか……普通の街並みで?」
「そ。それでね……私は何故か必死そうな鼬に会った。あいつはグレてたの。確か、自分のことが分からない、とかで。まあそこはあいつ自身に聞いてよ。出生とかの話だったはずだわ。あいつ、物心ついた時からここにいたらしいから」
「ああ、自分の親がとか、そういう。私にもそういう時あったよ……それで? 二人は会って……どうなったの?」
「うん。二人は会った瞬間、その日の夜にフツヌシに会ったの」
「……えっ!?」
ララは洗い物の手を再び止め、思わず大声を上げながらマーレの方へ顔を向ける。驚愕の極致だったからだ。何せ、子供の時にフツヌシに会うなど……
「だ、大丈夫だったの!?」
死を表しているも同然だ。ララは話の続きが気になって問う。
だが、その時こそ楽しそうに、マーレは語る。
「まあ、結果的には全然大丈夫じゃなかったけど。二人共大怪我したし、鼬を探しに来た太三郎さんが通りかからなかったら死んでたかも。でも、それまで鼬が守ってくれたの」
「守ってくれた?」
「うん。全然、かなうわけもないのにさ。私の前に立ってフツヌシに向かうの。それで後ろの私に、先に逃げてろ、何て言っちゃってさ~。よく覚えてるわぁ」
「へぇ……カッコイイね。普段からじゃ想像できないくらい」
「まったく。いつももさ、もうちょっとシャキッとしてくれてたらいいのにね~」
誇らしげに、まるで自分の事でも話すかのようにマーレは鼬との出会いの話を終えた。終始、鼬の話であったような気がするが……ララはそれを聞いて、愉快そうに笑う。
そうして、話はただの女子の会話になって行くのだった。
「そうだね。私はどっちにも気を持ってないけど、勇気と鼬じゃ、普段に限って言うんだったら勇気の方がカッコいいし。私のこと助けてくれた時も、その鼬みたいな感じだったのかな」
「そーかもね。んでまあ、普段の話をするんだったら……そうね。勇気の方が上だわ」
「だよね~。顔の質的にね~」
「頭も。ありゃ将来、結構上の企業行くわ」
「ただ性格に難ありかな?」
「ああそれはあるわ。ちょっと偏屈すぎる? マシになってはいるけど、まだ全然人間嫌いマンだからね」
「高校に入って、もし勇気が一人のクラスだったらどんな感じになるのかな。コミュ障みたいな?」
「何よそれ。まあ、見てみたいけどあいつにそういうのはないんじゃないかしら。でも、なんか電波みたいなことは言ってそうな……」
そんな感じで、料理は進んでいくのであった。




