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それから 3

 それから、二週間ほど……


「はぁ……はぁ」


 涼を筆頭にした妖館の一同は、妖館の固定電話の前に立っていた。ぎゅうぎゅう詰めになるようにして、全員で何かを待っているようだ。

 電話の目の前にいるのは涼だが……彼女は真っ白な顔をして、息を荒げていた。相当な緊張を持っている表情である。それは、今待っている事柄に彼女が一番深くかかわっているからであるが……。そしてそれは、他の者達も同じである。涼のすぐ後ろにいる勇気とマーレ、それに琴音も白い顔をしていた。一番まともな顔をしているのはララと鼬だろうか。


 まだ緊張の薄い方であるララと鼬は、電話を必死に待っている涼達の後ろで話し合う。


「……涼、補欠合格、受かってるかなぁ」


「……い、いや。そればっかりは、結果を待たないとよ」


 そう、妖館の一行が待っていたのは涼の補欠合格、その通知だ。涼が一番緊張しているのはそのため。勇気とマーレ、琴音がその次に緊張していたのは彼女に勉強を教えていたからだろう。ただ、鼬とララは勉強に関して口を挟まなかったために、あまり緊張していなかった。

 とはいっても、緊張するものはする。親友の受験結果だ。緊張しないことがあろうか。


 嫌な汗が、全員の額に流れる。涼なんかは本当に死にそうな面をしてガタガタと震えていた。


 そうして、しばらく………………


 トゥル


 ガチャッ


「はいもしもしィッ!!!?」


 電話が鳴った。その瞬間、涼は弾かれるようになどという表現が生ぬるいほど、雷のようなスピードで電話機を手に取る。そうして、顔の横にそれをあてがったその後に電話相手の言葉を聞く。女声だ。


「え……あ、はいもしもし。こちら星学院(せいがくいん)です。補欠合格の結果をお知らせに電話をかけたのですが……妖館という孤児院で間違いありま……」


「はいそうです結果はッ!!?」


 電話がとてつもなく素早く取られたことに対する動揺を持った女性の声を、涼は思わず遮ってしまう。悪意からではなく、ただただ必死だったのだ。証拠に、彼女の顔は本当に、首を絞められたうえでシベリアに放られたかのような真っ青な顔になっていたのだから。


 また、電話の相手は戸惑ってしまう。え、あ……というどもりが電話の奥から響くが……その後で、優しくこう言葉が響いた。


「大江涼さん。合格です」


「はっ……」


 涼はその、合格という言葉を耳にすると一旦固まってしまう。電話を持ったまま、目を見開いて固まるのだ。ただ、変化していく点はあった。白かった頬が、赤くなっていくのだ。後ろの勇気達はその驚きと喜びで口を押える。電話の失礼にならないように、声が出ないようにするためだ。

 だが、ララと鼬はその感情を抑えられない。無言のままで、ハイタッチしているのだ。お前達が一番勉強に関して貢献していなかったというのはあるが……恐らく、自分達と同じ勉強できない組の最後の一人が受かっていたと知って、嬉しかったのだろう。


 六人の喜びに構わず、電話の相手は淡々と続ける。


「後の教科書等の購入日は先日にお配りしたプリントに記載してあります。通常の合格した方々と同日になっているのでよろしくお願いします。では、失礼します……」


「あ、はい……ありがとうございます」


 ガチャッ ツー ツー


 涼の無機質な返答を最後に、電話は終わる。呆気なく、受験の結果発表は終わったのだった。









 しばらく、沈黙が続く。……その後、


「ふぉぉぉぉぉ――――――ッッ!!」


 奇声が響いた。涼である。彼女は座っていた椅子から立ち上がって咆哮したのだ。喜びの頂点に至ったのだろう。顔には興奮の赤が。それを見た、そして良い結果を知った他の五人は、口々に喜びを示す。


「よかったな、涼ッ!!」


「本当、私と勇気、それに琴音。アンタがいてくれたおかげでもあるわ」


「へへ、ハイタッチ!!」


「ふうっ!!」


 奇声を上げて、涼は琴音とマーレのハイタッチに応じる。喜びすぎて、奇声しか発せなくなっているのだろう。三人の様子は、本当にうれしくてうれしくてたまらないという様子の、普通の子供達だった。

 三人に加え、少し離れた所で一足先に喜びを享受していた鼬とララも笑顔で叫びだす。


「こっちまで気が抜けるみたいだよぉ~……よかったね、涼」


「本当によかった、こっちも安心したぜ涼。いやぁ~俺達の応援もあってかな」


 一瞬、鼬は応援とか口走った。それをマーレは聞き逃さない。


「ふん、アンタらは私達が勉強してる間にゲームやってただけじゃないのよ」


「げっ」


「い、いや……私達も応援してたよぉ~。ねえ鼬?」


「おっおう。めっちゃ応援してたぜ!」


「よく言うわ」


 鼬とララはあくまでも、自分は涼の受験に応援をしていたという事で貢献したと言いたいようだった。だが、それは言い逃れに過ぎない。それを理解しているマーレはやれやれと、呆れたように首をすくめた。そんな彼女に……


「まあまあマーレ」


 琴音が声をかける。


「本当に二人は応援してたと思うぜ? なあ? 一番勉強できなかった三人だもんな」


「えちょっ、その言い方は……」


「ひっ、ひどくないか……?」


「……ふっ、ふふ。琴音がそう言うのなら、そうかもしれないわね……。うん、一番勉強できてなかったから! クク……」


 琴音が、悪意なく言ったことに対してマーレはツボに入ったようだった。それを見た鼬とララ、それに琴音は……最初にそう言った理由もどうでもよくなったのか、一緒に笑い始める。それを傍から見ていた涼も、確かにねと、ようやく奇声以外の声を上げて笑った。五人は屈託のない笑みを、その顔に浮かべていた。










(……やっぱり、変だ)


 勇気は胸を押さえ、自分の気持ちを確認する。彼は、涼を始めとする妖館一行が喜んでいるのを見ていた。少し、一つ離れた所にて。だが、彼は騒いでいなかった。一人、騒ぎから離れて五人の様子を見ていたのだ。

 それには理由があった。彼は自分の心の内の感情を、どう片づけていいか分からなかったのである。


(……涼が、幸せそうにしてて……嬉しい。嬉しいのは、そう、そうなんだが……も、モヤモヤする。あの日からだ……)


「勇気?」


「うんっ!!?」


「え…………」


 勇気は涼に声をかけられた。そして、それに気付くと……涼のが移ったかのような声を出して飛び上がってしまったのだ。それを見た一行は、ドン引きした目を勇気に向ける。さっきの涼の合格の喜びが、取り払われてしまったかのような冷えた空気が六人の間に広がった。


 その沈黙を前に、勇気は思わず繕いの言葉を口にする。


「あ……いや、その……違くて。嬉しすぎて、さ」


「……そっ、そうよね。う、うん。あ、ありがとね。そんな……喜んでくれて」


 勇気の繕いの言葉は、ドン引きした目をしている涼に寄ってフォローされた。だが、それはもっと、もっと勇気の心を惑わしてしまう。


(ちがっ、ちがっ、ちがうって……違うんだよ涼……こっ、こっこれはぁ……うぁあ……)


 傍から見てもかわいそうだと思うほどに、勇気は震えた。そうして、涙目になる。そこまで涼にドン引きした目で見られるのが効いたらしい。憐みの目で見られるのが効いたらしい。


 だが、彼は今の状況を打開する一手を見つけた。


「そうだ!」


「ん?」


 突如、勇気は大声を上げた。何かを思い出したように。それを聞くと、勇気を除いた五人は彼を見る。なんだなんだという具合に。

 自分に視線が集まったことを確認すると、勇気はまた口を開く。繕いの言葉……というより、ごまかす言葉を思いついたのだ。


「ケーキを作ろうと思い至ったんだ。お祝いに。ほら、俺達の受験合格の祝いも、涼が一人不確定だったからできてなかったじゃないか? だから、俺の手作りのケーキを作ろうって……なっ!?」


 最後、勇気は自信がなくなって来たのか五人に対して確認を取る。


 だが、その心配は必要なかった。五人は顔を見合わせて、喜びの声を上げたのだ。


「本当!? ……すごい嬉しい!」


「ケーキかぁ……当分の間食ってなかったな」


「そうだね鼬。っていうか、ケーキなんて作れるんだ、勇気」


「へぇ……面白いじゃない。だったら、夕飯は私が作ってやるわ」


「あ、私も手伝うぜマーレ。いやぁ……勇気のケーキかぁ。楽しみだなぁ」


 五人はそれぞれ、喜ぶのと同時に自分が出来ることを探し始めたりした。さっきの勇気の声によって冷めた空気も、また彼によって温められたのだった。その状況に、彼は満足したように息を吐く。


 だが、彼はそんな平常を長く保っていられなかった。それは……


 そんな騒ぎの中で一人、涼が静かな笑みを勇気に向けたからだ。


「ありがとう、勇気」


(っ!!)


 涼の笑みは、普段の荒々しさや、男勝りなものからは程遠いものだった。柔らかで、優しい笑み。元から彼女の顔の作りがいいとかそういう話でなく、素直に。

 それを見た勇気は、ボンッと、顔を真っ赤にした。その後で上ずった声を上げる。


「お、俺はもう仕込みに入るから!」


「え、もう?」


「あっああ。そうだ。うまいケーキを作るのは、仕込みからが大事だからな、うん。じゃあ、先に出てる。うん」


 そう言って、勇気は足早に妖館の応接間を出る。恥ずかしくて恥ずかしくてたまらないような表情を持って。それを、後ろの五人は不思議そうに、首を傾げて見送ったのだった。











「はっ、はっ、はぁ~…………」


(胸が締め付けられるみたいで……なのに、なんか……いい気分だ。なんなんだ、これ?)


 勇気は一人、応接間の扉に背を預け、にへらにへらと口に気持ちの悪い笑みを浮かべるのであった。

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