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これからは

 勇気とマーレは飯田と会ったしばらく後で、そのまま帰った。槍はまたマーレの体の中に引っ込み、彼女の足についていた血は体を霧にすることで云々したのだ。つまり、二人は全然、荒事をしてきた証拠を残さずに妖館へ帰って来た。これはその後の話。


 二人は食堂に座っていた。そうして、目の前のコップに注がれたスープに目を落としている。これは勇気が琴音に出したものと同じものだが……その味も、勇気には朝と違っているように感じた。


「ねえ勇気」


「ん」


 二人がそろって静かにしていると、マーレが口を開く。少しだけ、力のない声だった。それに対して、勇気も少し脱力した感じで応える。

 そんな風で、二人は話を始めた。


「私達がさっきまでしてたことってさ、いわゆる、悪い事よね」


「……まあな」


「……これも、そうなのかしらねぇ?」


「……そうって?」


 マーレの言葉に勇気は首を傾げる。そう、とは何なのか。


 一応話しておくが、マーレの言うさっきまでしてたこととは鼠田達のことを襲うことである。もう少し詳しく言うのならば、琴音の虐げられたことに対する報復を行うこと。


 マーレはそのことを話しだした。そして、自分の頭の中のことを語りだす。


「つまり……友達のためにも、少し立ち回りを考えるべきなのかってこと」


「……もう少し分かりやすく言ってくれないか?」


「琴音さ、私達が助けようとするのを、最初強がって弾いてたの。でも、それは私達のことを、本当は考えていないことだったのね? まあ要するに、心配させてるだけの方が、私達にとっちゃストレスなのよ。もっと思い切り、手を掴んでほしいってずっと思ってた」


 マーレは遠巻きからはなす。勇気はそれを、静かに、スープを口に含みながら聞いていた。

 そのままマーレは続ける。


「だからね、それと同じなんじゃないかって。私達、もしかしたら涼や琴音、鼬にララが心配するだろうことをしてたんじゃないかって」


「……つまり、琴音がお前達のことを心配させちまってたのと同じで、独りよがりだったかもしれないってことか?」


 勇気はマーレの言葉をまとめて、そう言う。自分達のしたことは、涼達の心配をあおってしまうようなことだったのではないか、と。マーレはそれを聞くと、うんと頷く。


「……それをしたのだとしたら、私は……間違えたわ。ごめん、巻き込んで」


「……いや」


 マーレは自分が、親友のことを心配させてしまうようなことをしてしまったのだと、肩を落とす。


「正直、別にあの男のことはあれ以上に傷付けてもどうも思わない。けど、涼達に心配させちゃうのは……」


「ああ、そうだな。確かに……」


「……これから、行動するときはもう少し考える」


「俺も、そうするよ」


 二人の目には、反省の意があった。鼠田達のことを傷付けたことではなく、親友達に対して心配の種を作ってしまったという事に対して。その辺りからして、二人は何か、何かがズレているが……重要なのは、そこではない。


 しばらく沈黙が続く。反省が、二人の心の中を占めていたのだ。だが、突如マーレが腰を浮かす。


「でもさ!」


「んっ、何だ急に」


 勇気は急なマーレの動きについ疑問を示す。その声を聞いたマーレは、フッと笑って、勇気を見おろしてこう言うのだった。


「あいつらに対しておこったあの怒りは……別に間違いじゃないわよね。これは、琴音たちのことをそれだけ思っている証拠って……そう思っていいわよね」


 自分の親友への想い、それが強い故に、自分の怒りは生まれたもの。そう言ったのだ。


 それに対して、勇気は的確な言葉を返す。


「ああ。いいと思う。それで言い訳をするんじゃあないんだろ? だからこそ、自分達の行動についてはよく考えるべきだ、ってことだよな。親友に心配かけちまうかもしれないんだから。これからは……な」


「ええ、そう。そのまんま」

 

 勇気の言葉にマーレは頷く。


 二人の間に、さっきまでの反省を少し残したままのものではあったが、確かに、暖かい空気が広がるのだった。

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