表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
169/222

教師飯田

「何で先生がここに……」


「それはこっちのセリフだ。それに……」


 マーレは鼠田にとどめを刺そうと、彼の首筋に槍の刃先を当てた。そうして、それを引こうとした瞬間だった。槍を持つマーレの腕はある男に捕まれる。真夜中、裏路地に現れてマーレの暴力を止めたのは、飯田であった。


 飯田とマーレは向き合うと、お互いに驚いた表情をする。当然だ。マーレにとっては自分が復讐をおこなっている現場に教師が現れた。飯田にとっては、自分の生徒がヤクザの男を殺そうとしていた現場に居合わせた。二人共、驚愕の嵐に頭を支配されることだろう。


 だが、いち早く飯田が正気に戻る。


「どんな力があるかとか、何故槍を持っているのかとか、そういう話は置いておいて……お前は、この男を殺そうとしていたのか?」


 彼は一番、重要な点を聞いた。何故にこんな夜に歩いているのかでなく、何故物騒なものを持っているのかではなく、後ろで驚愕に目を見開いている少年は何者なのかではなく……生徒が、殺しをしようとしていたのかどうか、を。


 問いを受けると、マーレは飯田の手を振り払おうとしながら口を開く。苛立たしげだ。


「そうよ……。文句ある? 琴音を……陥れた男よ。学校に行ってる間だけでもわかってたでしょ? 琴音がおかしいって。こいつは、琴音をああした男なのよ。殺して、何が悪いのかしら」


 揺らぎのない目で、マーレは飯田を見上げてそう言う。その表情には、静かな怒りがあった。止めてくれるなと、そう顔で言っている。

 だが、飯田はそれを受けても全然、揺らがない。マーレの肩を掴んで、言う。


「何が悪いとか、そういう物じゃあない!」


 そして、次に飯田の目はマーレの後ろに立っている勇気へ向けられた。彼の事に気付くと、飯田はそちらに目を向けて言葉を吐く。


「お前もだ! お前、こいつの友達だろ。こんな夜中に一緒にいるんだからな、さぞ仲がいいんだろ。だったら、止めてやれよ!!」


 飯田はガラにもなく、必死に声を荒げてそう言った。だが、それに対して勇気はドライに、乾いているかのように応える。


「いや……俺も止める必要はないと、そう思っていたから止めなかったんだ」


「……なに?」


「アンタが、マーレの先生だってのは分かった。どういう人なのかも、何回か聞いてる。その上で、言いたいんだ。親友を、親友の親を殺そうとした男を、仕返しで同じ目に合わせようってのはそんなに悪い事なのか?」


「……お前」


 飯田は勇気の言葉を受けて、思わず体の力が緩み、マーレの肩から手を下ろしてしまう。それは、打ちのめされたからだ。二人の目を見て、突き放されたように感じたのだ。


 自分達の報復が正しいものとする勇気とマーレの目は、飯田の目と同じような色をしていた。奥に、暗い何かが含まれている色。


「……もういい」


 飯田はため息をついて、肩を落とす。何かを、諦めたようだった。そうしてすぐそばに倒れている鼠田に目を向ける。


「そいつは俺が持ち帰る」


「……許すと思う?」


 飯田の言葉に対して、マーレが口を開く。その表情には未だ苛立ちがあった。だが、飯田はそれに落ち着いて対処する。


「別に、警察に突き出そうというんじゃない。こいつがしたことは、まあ分かっているつもりだ。俺の生徒、お前の親友をあと一歩で殺す所だった……。こいつは俺で、死なないくらいに罰を入れる」


「……殺さないの?」


「お前の気にすることじゃない佐々木。……それに、俺には力の限り、生徒が幸せでいるようにしなくてはならないという義務がある。教師だからな。それには、お前の手を汚させるわけにはいかないんだ。血の付いた手で笑ってても、それは幸福じゃない」


 飯田は倒れていた鼠田のことを肩に背負いながら、背にするマーレにそう言った。そして、自分よりも巨体の鼠田を持ち上げる飯田は、何もないかの様子で続ける。


「その様子なら、明日には来れるだろ? 出席しろよ。じゃあな」


 飯田は夜の暗闇の中に、鼠田を背負ったままで消えた。


 それに対して、勇気とマーレは何も言うことが出来なかった。飯田の、自身達よりも暗い目に圧倒したのもあるが……二人は自分達があまり、いいことをしていないと気付いていたのだろう。


 飯田の言葉が、胸に刺さったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ