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鼠田との対峙 4

(な、ど、ッどうして!?)


「どうしてって、暴れようだな。さっきみたいな不意打ちを防ぐためにも、教えてやるよ」


 裏路地にて、勇気は鼠の尾を掴んでいた。鼠は尻尾でつるされている状態のまま、暴れ続けている。そう、勇気は鼠田が出てくる通気口の前に待ち伏せ、彼を捕まえたのだ。

 そうしてすぐ、勇気は鼠の状態でも分かりやすく動揺する鼠田に向かい、どうして自分が彼の出てくる場所を理解していたかを説明する。


「俺は、人の心が聞こえるんだ。壁を何枚挟んでも、ある程度の距離なら、な。幸い今日は調子が良かった。お前の心を、少なくともこの建物中じゃどこへでも追えた」


(なっ、どうして……悟り? 悟りだったとして、そんなに聞こえるわけもないだろうが……だが……)


 だが、鼠田の懸念に関わらず勇気は話を続ける。


「んで、分かるだろ? 心が聞こえるってことは、お前が不意打ちしようとしても分かる。さっきのは不意を突かれたが、今度はそうもいかない」


(妖怪だから多少ノイズがかかって、ハッキリとは読み取れないっつのは伏せておくか)


 勇気は自分の弱点を伏せて、鼠田の行動を抑えるようにして説明をした。つまり、お前の行動は分かっているから、不意打ちなどは意味がない、と。

 だが、それでも鼠田の心には悪意が、強かさがあった。


(……もし悟りだとして、だ。絶対に、腕力は私の方が上!)


「何か、考えてるな?」


 鼠田が、この状況を打開しようと思考を走らせる。だが、それを聞き逃す勇気ではない。思考を事細かに読み取れるわけではないが、何をどう思っているのか、アバウトには分かる。勇気は警戒しながら、お前の心は見透かしていると釘を刺した。

 しかし、それでも鼠田の悪巧みは止まらない。


(けっ、不意打ちがバレていようが、何とかなる。心を読まれてどこから殴るとかを読まれても、何とかできる!)


「やめといたほうがいい」


(あ……?)


 鼠田が行動に移ろうとした時、勇気が、それよりも前に口を開く。その口から出た言葉は、意味深な、やめといたほうがいいというものだった。そして、そのまま彼は続ける。彼の目線は、通気口に向けられていた。


「だって、もう……」


 勇気がそう言った時だった。彼の視線の先、鼠田が出て来た通気口から赤い煙が出て来たのだ。そしてそれは、勇気が鼠田の尾を掴んでいるそのすぐ傍へ溜まる。すると、その煙は下から……足、胴体、頭と……マーレの形になった。

 それを見て、ニヤッと笑いながら勇気は言う。


「もう来ちまった。おっかないのがな」


(ぐぅっ!!?)


「おっかないって、誰に向かって言ってんのよ。ま、間に合ってよかったわ」


 勇気の言葉を耳にすると、マーレは呆れたように首をすくめながらため息を吐く。だが、それでも安心したという様子だった。その顔にある、勇気に対しての笑みがそれを感じさせる。マーレは勇気に対して、フッと笑ったのだ。


「アンタが一人でいちゃ、舐められて、まぁた不意打ち喰らうかもしれないものね。その前に来れてよかった」


「ああ、そうだな。よかったぜ、来てくれてよ」


「感謝なさい。ま、照れくさい言い方をすると友情の勝利って奴ね」


 マーレは少しだけふざけて大げさな言い方をする。


 だが、彼女はすぐにも真面目な顔に戻った。それは鼠田の存在を目の端に止めたからだろう。そうして思い出したのだ。自分が何のために、ここまで来たのかという事を。

 自分の目的を思い返したマーレは、顔をしかめた後で、自分の手に持つ槍を持ち直す。そうして、勇気が尻尾を掴んでいる鼠の体へ、それをスッと差し出した。槍の赤い刀身が、鼠の毛を少しだけ切り裂く。灰色の毛は闇に落ちた。それを感じ取った鼠田はギョッとして静止する。それを見たマーレは、暗い表情で語り始めた。


「さて、これからアンタにどう仕返してやるか、だけど」


 どうやら、もう戻っていた。最初の表情に。先ほどまでは勇気との友情による勝利に笑っていたが、今はただの怒気。琴音を陥れた人間、この鼠田という人間に対する怒り。それが、顔に張り付けられている。それは静かに、静かに燃えていた。見ただけで、それの対象となっている者は足元からすくみ上ってしまうような。

 当然、それは鼠田も同じだった。彼はマーレの顔を見ると、身を縮め、ブルブルと震える。


(ヤバい……ヤバい! どうにかしてどうにかして……ハッ)


「……ん?」


 鼠田は、何かを思い出したように表情を変える。それを耳に留めた勇気は、尻尾を握りながらも一瞬だけ顔をしかめる。鼠田から漏れてきた感情は……


(恐怖じゃなく、悪意!)


「気を付けろマー……」


 だが、勇気が最後まで、マーレに対する警告を言い終えることは出来なかった。


 その前に、鼠田に指をかまれたのである。

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