勇気の力
「……聞いておきたいことがある」
「何かしら」
「何で俺だ?」
勇気は思わず、問う。それは、何故に仕返しをするのかという事ではなく、何故それをするのに連れる人物が自分なのかということだった。
その問いを受けると、マーレは簡単に答える。
「……まあ、アンタが一番巻き込んでもいいかなって」
「ぅおいっ!」
「じょーだん。……アンタが、一番こういうことに否定的じゃなさそうだったからよ」
「ああ……そういう。確かに、涼達なら……うん」
勇気はマーレの言葉を受けて、納得した。それなら、妖館の中では自分が適任だと。
マーレが言ったのはどういうことか、軽く説明しよう。彼女が言ったのは、自分の思考と一番近い考え方をするのが勇気だと、そういうことだ。恐らく涼や鼬、ララではこの仕返しという行動をすると言った時、否定するだろう。仕返しだ、報復は良くないことだと。だが、勇気はそんなことはしない。寧ろ……
「まあそれはいいんだが、俺だと問題がないか? 仕返すと言うんだから暴力的なことになると思うんだが……」
寧ろ、彼は自分の不足を気にし始めたのである。復讐をするに当たって、恐らくは武力を行使するのだろうから、自分の力は不足なのではないかと。
つまり、彼とマーレは復讐をいいこととする思想の持ち主だ。攻撃的な、そういう。
ともかく、マーレは勇気の問いに首を振って答える。
「いいえ、問題ないわ。というか……アンタ、気付いてないの?」
「え、何に?」
「アンタ、血筋的には完全に人間じゃないわよ」
マーレの口から、サラッと重大な事実が吐き出される。勇気はそれを……
「いや、まあ。察してたよ。それに……なんか、すごい異常っぽいよな」
了解しているらしかった。
それも当然、何も特別なことがなかったから端折ってはいるが、勇気とララが妖館にやってきて、実にひと月以上は経っている。その暮らしの中で、彼自身も気付いたのだろう。自分が、妖怪であること。少なくとも、人間ではないこと。
ただまあ、彼にとってそれへのショックは大きくなかった。寧ろ……だが、太三郎に言われたこともある。環境が、重要なのだと。だからこそ、それを察し始めても彼はあまり喜ばなかった。だからと言って、人間への嫌悪が消えるわけではないが……
話を戻そう。勇気は自分のことを異常と言った。それに対し、マーレは付け加える。
「そうね。アンタの力的に、まあ悟りの血は入ってるんでしょうけど……腕力が強すぎるわ」
「ああ。見てて分かったんだが、ララは普通の人よりも力がないらしい。でも、俺は普通の人間くらいは……」
「いや」
「ん?」
勇気の言葉の最中で、マーレは割り込んで口をひらく。そうして、鋭い目をして勇気に言った。その目は、しかと事実を捉えている。
「アンタは、普通の人間より力が強い。アンタはさっき、自分の力が普通の人間程度しかないと思ってたから力不足だと思ったのかもしれないけど……全然そんなことはない」
「……そう、なのか?」
「そーよ。アンタは普通の人間より力が強くて、なおかつ心が読める。武力にしては充分だわ。私はもちろん、吸血鬼だから。よっぽどのことがない限りは大丈夫」
マーレはそう言って、勇気の力のことを評価する。つまり、心が読める且つ、人間よりも力が強いからほとんどの場合では問題ないだろう、と。
そこまで話して、マーレは確認に入る。背もたれに寄り掛かって、神妙な顔をしながら、だ。
「昼間に天翔さんが言ってたけど、相手はヤクザよ。……物騒なことをこちらから仕掛けるんだから、どうなるかは分かるわよね? その上で確認するわ。身の危険があるかもしれないけど、私と一緒に行ってくれる? 無理はしなくていいのよ」
そう確認を取った。危険があるだろう、だから、来なくてもいいのだと。
その確認に、勇気は全然、戸惑いをすらせずに答えた。少しの笑みさえ浮かべて。
「いいや、行くさ。絶対、仕返しをしてやろうな」




