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普通に

「弁当を分けてもらった時にも思ったけどよ、勇気の飯って本当にうまいよなぁ」


「まあな」


 勇気、マーレ、ララ、琴音は妖館一号にて昼ご飯を食べていた。そのメニューは、トマトベースのソースをかけたスパゲッティである。琴音の言った通り、勇気の作ったモノだ。それは色の濃い湯気を立て、嗅いでいるだけでも腹が空いてくる匂いを辺りにまいていた。そんなスパゲッティを、四人は食べていたのだ。


 味がしっかりとしつつもあっさりとしたトマトの味を咀嚼することで口に広げながら、ララは問う。


「勇気はどうやって、こんなにおいしい料理を作れるようになったの?」


 どうやら、勇気の料理の腕がどこから来るものなのか、気になったらしい。ララの問いを聞いて、横にいたマーレも興味深そうに口を開く。


「そうね、金取れるわよ?」


(……琴音とおんなじこと言ってるなぁ)


 マーレの言葉を聞くと、勇気は今朝に琴音に言われたことを思い出した。店に出せる、と。まあそんなことはともかく、彼は三人に自分の料理の腕について語る。


「腕を上げたくて、上げたわけじゃない。ああ……そうだな。前にいた孤児院じゃ、そこにいた人数分、何十人のを一人で作ってたから」


 勇気は一瞬だけ、言葉に詰まったがそう言った。戸惑ったのは、自分の前にいた孤児院について語っていいものかという葛藤のためだが……結局、いいだろうという風に思って話を進めた。


 と、重要なのは勇気の話を聞いた三人の反応だ。女子達は揃って、驚いた表情をして勇気の顔を覗き込んだのだ。


「え、何十人分って……」


「普通有り得ないだろ……」


「……アンタのいたとこって、随分と頭おかしい奴が仕切ってたみたいね」


 三人は信じられないと、勇気に言った。


 それもそうだろう。勇気はまだ、十五歳だ。そんな年端も行かない子供に、数十人分の飯をつくらせるというのは明らかにやりすぎだ。大人でも重労働だろう。


 その点を指摘された勇気は、一旦押し黙る。そうして、昔のことを思い出したのだ。思い返して、自分の状況を今の状況と照らし合わせた。そうして……俯いて、ため息を吐く。


「そうだな……。思い返してみれば、完全に頭がおかしかったと思うよ。院内の掃除もやってたしな。学校にも行ってたし」


「お、思い返すも何も……おかしいって思わなかったのか?」


 勇気の言ったことに、思わず勇気は聞き返した。その状況にいて、そんな労働をさせられて違和感を感じなかったのかと。だが、勇気はそれに対して少しも考えずに応えた。答えは、分かっていたのだろう。


「ああ、思わなかった。昔の俺は……異常だったんだ。だけど、まあ……ここに来て、変われた。普通を理解するって意味じゃなくて、自分に鞭を打ちすぎるのは良くないなって、思えるようになったんだ」


 勇気は最後、少しだけ顔を赤くしてそう言った。ここに来て、変われたのだと。確かに、照れくさいと思ってしまうだろう。要して言えば、お前達に会って、変われたと言っているのだ。場所の問題じゃあない。


 それを聞いた女子二人、琴音を除いた女子二人は……顔を合わせ、二マッと笑った後で……


「ふっ、私に会えたからって、言い換えたら?」


「違うよ。涼と鼬含めて、私達に会えたから変われたんだよね~」


 わざとらしく、勇気のことをからかった。すると、彼は……元から赤かった顔を真っ赤にして声を荒げる。


「う、うるさい! じ、実際……そうだけどよ」


 だが、否定しきれない。勇気は顔を薄ら赤くして、女子二人のからかいを甘んじて受ける。すると、二人はそれを僥倖とでも思ったのか、椅子から立ち上がって、わざわざ勇気の近くに来てからかい始める。その様子はまるで、少年が、年上の姉と姉の友人にいじられているような光景であった。勇気は顔真っ赤っ赤、マーレとララは顔にいやらしい笑みを。


 三人がそんな風にしているのを見て、琴音は遠い目をする。


「ともかくさ……」


「ん?」


 琴音が口を開くと、勇気、それにマーレとララも同じように琴音の方へと振り返る。そうして、首を傾げて疑問を示した。すると、琴音は安らかな表情をして、三人の疑問に応える。


「助けられた、のかな? 勇気もさ」


「…………あっ……ああ。そうだな。俺は精神的な意味で、こいつらに、それに涼と鼬に、すごい救われたよ」


「うん。私もだ」


 琴音の言葉を聞くと、勇気はハッと、何かに気付く。そうして、琴音の言葉に便乗し、頷いた。二人はとても、とても安らかな表情をして……


「こ~い~つ~ら~? 誰のこと言ってんのかしらねぇ勇気?」


 だが、それは長く続かない。マーレが、またいやらしい笑みを浮かべて勇気の顔を覗き込む。そうして、言葉じりを捕らえて彼の体をつつきまわすのだ。


「恩を感じてるんならこいつってないんじゃないかしらぁ?」


「んぐっ……わ、悪かったよ」


「ふっ、今度からはマーレ様と……」


 だが、これもまた、マーレのからかいも長く続くことはなかった。


 ガチャッ


 食堂の外から、玄関の開く音が聞こえたのだ。騒いでいていた四人は、静かにそちらへ、目を向けるのだった。

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