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飯田先生 2

「なわけあるかいっ!!」


 飯田の言葉を受けて、思わず廊下で涼と鼬は同じ言葉を大声で上げてしまった。


 それもそうだろう。なにせ、完全に通常の人間ではありえないようなことをしておいて、飯田は自分が何でもないと言って言い逃れしようとしたのだ。ただの教師である、と。ナイフを持っていたり、そして二人にとっては、天翔にとりあえず傷を負わせたと言うだけで普通でないという確証があった。本来なら、有り得ない事なのだ。普通の人間が天翔に傷を負わせるなどあり得ない。彼は妖怪なのだから。それも、涼達とは程遠い大妖怪。


 そのことを持って、涼と鼬は大声を上げたのだ。だが、それを受けても二人の先を歩く飯田は感情を起伏させることはなかった。

 ただ、振り返りはした。しかしその顔にはいつもの通りの死んだ目と、無表情が張り付けられている。話す気は……ないようだ。飯田はその表情で、淡々と言う。


「本当だ。本当のことだよ、ただの教師というのは。本当に、お前達に幸せになってほしいと思ってる」


「い、いや! それは……琴音のこともそうだし、私達も今まで見てもらってきて、確信してる!」


「けどよ!」


 涼と鼬は並んで、飯田に迫る。


「信用、出来ねえじゃねえか。分かるぜ、分かるけどよ……」


「先生が何をしてるのか、知りたいの。教師っていう職業以外に何かをしてるんでしょ? 信じたいの。あと何か月もない間の付き合いだけど、それでも知りたい」


「俺達が世話になった先生のことだ。知りたいって思って、何がいけないんだよ」


 そこまで言うと、二人は黙る。彼らは言いたいことを、大方喋り終えたのだろう。つまり、飯田を信用したい。これにまとめられる。琴音を助けてくれたことも、自分達を世話してくれたのも分かっているが、その奥には何があるのか……


 飯田は二人の言葉を受けて、頭を抱える。そうして、深くため息をつき……


「お前達に信じられる必要はない」


 と、言い切った。そう言う飯田の表情は、無表情であったが……先の言葉を受けた涼と鼬には、そこはかとなく冷たいものに見えた。その漆黒の死んだ目は、何であれ見透かしてしまうような鋭い闇を持ち、突き刺してくるようにも。それを持って、飯田は二人を睨んできたのだ。


 涼と鼬はまるで、リストラを予感して部長を前にする平社員のような気分になった。その表情を見てか、それとも知らずか、飯田は振り返って二人に背を向ける。それは、二人の言葉に応えないという意志表示に他ならなかった。


 だが……


「お前達の行く高校」


 飯田はふと、声を上げた。それを耳にした二人は、サッと顔を上げる。すると飯田は、二人に背を向けたまま喋り続けた。


「あそこに、俺の知り合い……というかまあ、有り体に言うと上の立場の人間がいる。あいつを俺の上と見るのは癪だが……そいつを見つけて、そいつに聞け。俺の一存では話せん。ただ……」


 飯田は最後、振り返った。その顔は……


「お前達、生徒達を幸せにしていたいという思いは、絶対に変わらん。そこだけは、信用してくれ」


 少しだけ、悲しそうだった。それはきっと、言葉からも取れる通り、涼と鼬に信用できないと言われたことに対してであろう。

 飯田はそれを一瞬見せただけで、すぐに行ってしまいそうになる。


 だが、その悲しそうな顔は涼と鼬の目にしかと留まった。だから、二人は……


「す、すいません!」


「その……信用してないなんて、言っちまって」


 飯田の背に対して、謝った。


「…………いい」


 二人の謝罪を耳にして、飯田は小さく、そんなことはどうでもいいと応えた。そうして、また歩き始めるのだった。


 すぐ、飯田は廊下の角を曲がって涼と鼬の視界から消えた。そうすると、廊下には沈黙が響き渡る。教室の中から聞こえてくる喧騒の音はあるが、それでも二人は、沈黙のように感じた。

 その内で、鼬が口を開く。


「結局、何だったんだろうな……」


 彼の口にすることは、変わらず飯田という存在に対しての疑問だった。彼は一体、何なのかという事。


 だが、鼬の言葉に対して涼は……


「どうでもいいんじゃないかしら、そんなこと」


「え?」


 どうでもいいと、そう言った。その涼の言葉に思わず、鼬は首を傾げてしまう。流石に、どうでもいいことはないだろうという表情だ。だが、涼が続けて言った言葉に、その表情は消える。


「助けてくれたのよ? 琴音をさ。んなら、私はそれで充分よ。信じるも何も、ないんじゃないかしら」


「……あ、ああ。そう、かもな。いや、そうだな」


 二人は廊下で、顔を見合わせて頷き合うのだった。












「飯田の知り合いってどんな奴かしらね」


「気になってんじゃねえか」

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