温かい意志
「うぁ……あ」
琴音は、妖館の一つの部屋で目を覚ましかけていた。うめいて、頭を抱えながら彼女はベッドの中でもぞもぞと動き始めたのだ。
それを、琴音のことを看病するためにその部屋へ入っていた涼とララが目に止める。すると、二人はすぐ、
「琴音!」
「だ、大丈夫……?」
涼は必死そうに、ララは心配そうにしながら琴音の顔を覗き込んだ。
琴音は……顔をほてらせながら、ゆっくりと目を開く。彼女の視界に、涼とララの顔が入って来た。それを見た彼女は……目を見開いて、上体を一気に起こした。二人の存在が、彼女のことを元気づけたのだろう。
「涼、ララ……うっ」
だが、頭痛に顔をしかめてすぐに俯いてしまう。体の調子というのは精神の状態だけで何とかなるものではない。
しかしそれでも、涼とララの二人は琴音のことを支えようと口を開いた。
「琴音。大丈夫よ。今は、私達が暮らしてる孤児院の中」
「そ、そう。ここには私達も、マーレも、鼬も勇気もいる。安心して」
琴音は頭を抱えながら、二人の心配の声を受け取る。そうして、その温かさを胸に飽和させて口元に笑みを浮かべた。
「そう……か。確か、勇気が連れてきてくれたんだよな。んで、涼にお風呂に入れてもらって……本当に、ありがとうな」
「いいのよ。ここにいる奴全員、うんと頷いてアンタのことを助けに来たんだから」
「……ありがとう……。えっと、今は……」
琴音は、自分の置かれている状況を把握しようと首を振る。
だが、どうしてもその方向はある物事へと向いてしまう。ある物事というのはつまり、失った者の事。自分の母親、それに自分をかばった教師の事。母親の手紙と、飯田が最後に見せた顔を、琴音は頭の中に浮かべたのだ。
想起してしまうと、彼女はどうしても、それを体に表してしまう。悲しみとは、遅れてやってくるものだ。マーレ達に助けてはもらったが、それでも、である。
「う、うぅ……母さん……」
琴音は顔を俯けて、目を潤ませる。目に光る水には、青い悲しみの濃い色があった。それを、実質の目と心の目で見たララは、すぐに口を開いた。彼女を、安心させようと思ってのことだ。
「琴音!」
「え?」
「今ね、琴音のお母さんのことを探してるの。私達の、親みたいな人が。……だから、って言ってこんな言葉じゃ安心しきれないかもしれないけど……」
ララはそこまで言うと、そっと、ベッドの中に手を入れて琴音の手を掴んだ。そうして、彼女の目を見て言う。
「大丈夫だよ。きっと、何とかしてくれる。それに、琴音には……その、昨日の今日のであれだけど、私が、私達がいるから!」
必死な目で、ララは琴音にそう告げた。君のことは私達がついているし、お母さんのことも、信用できる人がいるから大丈夫だよ、と。
それを受けて、手を温かい意志に掴まれて、琴音は……
「……ありがとう、ララ……」
手を握り返して、肩を震わせる。その琴音の目には、また涙が……
「支えになってくれて、ありがとう……助けてくれて、ありがとぅ……」




