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セカンドライフを妖しい怪しさ達と共に  作者: 井田薫
紡ぎ直される琴の弦
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妖館の根

「はい、天翔さん」


「私も。あったよ、連絡網」


「ありがとう、二人共」


 鼬の部屋を出た天翔は、すぐに涼とララに行きあう。天翔は涼に琴音からケータイを借りてこいと指示し、ララには自分の部屋から妖館の連絡網を取ってくるようにと伝えていた。そして二人は、その通りにしたのである。


 二人の手からそれぞれの物を受け取ると、その後に天翔はこれから自分のすることについて語る。そうしてまた、二人に指示を出した。


「さて、私はこれから堀田さんを探す。お前達は、堀田さんの娘とマーレの様子をそれぞれ見ていてくれ。人探しは私だけで充分だ」


 天翔の言葉を受けると、涼とララは同時に頷いた。それを見て、天翔はまた言葉を続ける。


「よし。それで、出来れば。出来ればのことだがな……琴音から、今の状況と、彼女に何があったのか。聞き出しておいてほしい。それと、分かっているとは思うが……」


「あんまり刺激しないように、てことよね? 天翔さん」


 天翔の言葉の途中で、涼が割って入る。そうする彼女は、腕を組み、そんなことは分かっていると言わんばかりであった。そうして、彼女が言うのは……


「天翔さんがいない間、私達はそれぞれ出来ることをする。だから、安心して。安心して琴音のお母さんを探しに行ってきて」


 それぞれ出来ることをしよう、ということだった。そうして、早く行けと言外にも言っているのだろう。全く悪意からではない。善意からだ。私は琴音を助けるためにそばにいる、だから天翔さんは琴音のお母さんを探してきてほしい、という意志。


 それを、彼女の真っ直ぐな視線に感じ取った天翔はフッと笑って廊下を歩いた。そうして二人へ背を向けて、言う。


「頼んだぞ。もし、彼女の母親が見つかったとしても、本人が傷ついていてはしょうがないのだからな」


「当然」


「分かってるわ」


 天翔の言葉に、涼とララは頷いて彼のことを見送るのだった。












「さて、さっきはゆっくりと調べることは出来なかったが……」


 天翔は琴音の母親、愛音の店に来ていた。言葉からも分かる通り、彼はそこに調べの手を入れようとしていたのだ。それはどうしてか、彼は未だ、確信を持てていなかったからだ。愛音がどこにいるのか、本当に失踪しているだけなのか、既に……


「ともかく、手早く答えを得よう」


 天翔は首を振って嫌な考えを飛ばし、ラーメン屋へ入った。暗いその内部に彼は全く顔を向けず、カウンターの方へと目を向ける。その奥に、愛音や琴音が暮らしている所があると知っていたからだ。回り込んでカウンターへ入り、その奥へとずかずか進んでいった。


 そうして、すぐに愛音の部屋と思われる部屋へ彼は入った。彼女の部屋も、琴音のモノと同じく何もなかった。否、琴音の部屋よりも、か。琴音の部屋にはギターがあった。だが、愛音の部屋には机とベッドくらいしかないのだ。あとはゴミ箱くらいだろうか。


 まず、天翔は首を振ってその中の大雑把な様子を調べる。その時、彼の目に着いたのはあることだ。


(ゴミ箱に、大量の紙が捨てられている……異様な量だ)


 ゴミ箱に、溢れんばかりの紙が捨てられていたのだ。くしゃくしゃの、まるで作家が没の作品を作ってしまい、それを捨てるような量。それを目に止めた天翔は、すぐに屈んでそれを漁った。そうして、紙に記されいている内容を見る。


(何か、遺書のようなものかもしれない。…………ああ)


 紙の内容を目に止めて、天翔は頭を抱えた。彼のいる愛音の部屋は、暗い。明かりがつかず、影しかなかった。天翔の心も、そうなった。それは、紙の内容を目に止める前に、あることに気付いたからだ。


(……きっと、何かを書くことすら辛かったんだな……)


 紙には、文字になっていない線がいくつも書かれていた。書かれていたというよりもそれは、螺旋のような形を取っていたのだ。愛音の部屋にあったのだから彼女が書いたのであろうが、どうやらそれを書いたときに彼女はまともな精神状態ではないらしかった。それが、字かもしれない線の揺れで分かる。


(……ん、これは)


 天翔はゴミ箱を漁っている最中、またあることに気付く。それは、理解することの出来る文字だ。天翔が偶然広げた紙には……


(遠くに行く。だから、あなたは拘束されなくて済むの…………)


 そう書かれていた。それを目に止めた天翔は、すぐに立ち上がる。


(答えは得た。堀田さんは生きている。これからは、彼女を探すだけのことだ)


 立ち上がったのは、そこで出来ることを終えたからである。愛音のラーメン屋で出来ることは終えた。そうして、次にするべきことへと目を向けたのだ。


 天翔は懐を漁ってスマホを取り出す。そうして、あらかじめ琴音のケータイから妖館のスマホへ送っておいた写真を見た。その写真は、愛音と琴音が並んで笑っているモノだった。背景は……公園だろうか。少しばかりの青が見える。その笑顔から、こんな惨状になるとは思えないほどの輝かしい笑み……


 それをチラと見た天翔は、次に電話をする。幾度かのタップを終えた後で、彼はスマホを顔の横にあてがって電話をした相手が応答するのを待った。


 そうして、電話のコール音がしばらく響く。だが、長くは続かなかった。


「はいもしもし、天翔さんッスか!?」


 天翔が電話をかけたのは、彼の世話になったという河野という女性だった。今朝に、天翔が会いに行った女性。スマホの奥で、彼女はそのことについて首を傾げる。


「今日会ったばっかッスけど、なんかあったんスか?」


「ああ、頼みごとがある。急で悪いが、受け入れてくれ。こんな時間で、お前にも用事があるだろうが……」


 河野が疑問に思うのに、天翔はラーメン屋の階段を下りながら応える。そうして、頼み込んだ。少しだけ申し訳なさそうに。だが、そんなことはどうでもいいと河野は元気に言う。


「いや、大丈夫ッス! 天翔さんの言うことなら全部やりますから。それで、何ッスか。なんか、焦ってるように聞こえましたけど……」


 河野はどうやら、天翔の言葉の調子を聞いて彼の心情を呼んだらしかった。だからこそ、早く話を進めても構わないと言う。天翔はそれにあやかって口を開いた。


「すまない。人探しをしてほしいんだ。今からお前に写真を送る。送ったらすぐ、近辺の連絡網に同じことをしてくれ。救わなくてはならないんだ」


「人探し……ッスね。了解したッス。んじゃあ、皆に連絡すんのを終えたら、ここら辺を見て回るッス」


「ああ、話が早くて助かる」


「当たり前ッスよ。天翔さんが一を言えば、百は理解できるッスから。じゃあ、急いでるようなんで、これで」


 天翔の言葉を待たず、河野は電話を切った。


 失礼と取られるかもしれないが、これは天翔の切迫した表情を読み切っての事なのだろう。彼も、そのことを全く気にも止めず、すぐにスマホを操作して写真を彼女に送るのだった。


 その後で、天翔はラーメン屋を出た。まだ、雨は降っている。その中で彼は空を見上げた。睨むように、だが、決心を固めるようでもあった。激流を前にしても、進んでやるという川魚のように強い意志を持って。


(救ってみせる)

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